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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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095.ヴァレリアとの初会談

 トウマの、正確にはミュリーシアの行動は早かった。


 役割分担を決めた話し合いの翌日には、グリフォン島を出発。

 影術で編んだハーネスでトウマ・レイナ・ノインをつり下げると、デルヴェを目指して飛ぶ。


 この世界の移動手段としては非常識なまでに速い幽霊船ワールウィンド号ですら数日かかった距離を、わずか一日で踏破。


 ノインのように平常心でもなく、レイナのように飛びながら寝られるほどでもなく。

 その間、トウマはただひたすらに“無”だった。


 ミュリーシアの飛行能力は、魔都モルゴールからの移動で実証されている。だから、驚くほどではないかもしれない。


 けれど、実際にワールウィンド号で旅をした時間をトウマは知っている。


 それが大幅にショートカットされると、驚きとも賞賛とも異なる感情を抱いてしまう。


 言うなれば、歴史の追体験。


「飛行機が実用化されたときって、こんな感じだったんだろうな」

「昔の海外旅行は、何ヶ月も掛けて船旅してたらしいですからね……」


 地球人特有の感慨を憶えながら、トウマたちは夜陰に紛れてデルヴェの港に到着した。戻ってきたと表現すべきかは、微妙なところだろう。


 確かなのは、光輝教会もこの動きには対応しきれなかったこと。


「まずは、託されている書状を届けにハイアーズ商会へ赴くべきかと存じます」

「うむ。ノインにとっては、妹の実家訪問のようなものだの」

「普通、姉と妹の実家は同じはずなんですけどね。複雑な家庭環境が垣間見えます」


 会話に加わらず、トウマは薄暗い港にほど近い裏路地でうなずいた。


 移動するのは賛成だ。

 この四人は、とにかく目立つ。そこへさらに、レッドボーダーとロッド・オブ・ヒュドラが輪を掛けている。


「あの倉庫は見憶えがある」


 視線を斜め上に向けると、多頭海蛇ヒュドラ・フルクトゥスと。そして、ヴァレリヤ・イスフェルトと対峙した倉庫が見えた。


「なんとか、道は分かりますね」

「それは重畳」

「案内を、お願いいたします」


 もう一度トウマはうなずき、しばらくしてハイアーズ商会のデルヴェ支店に到着した。


 夜中だったが特に待たされることなく応対され、カティアからの手紙に指示があったのだろう。

 ハイアーズ商会が保有する隠れ家のひとつに案内された。


 小さな一軒家だが、四人で過ごす分には問題ない。


 そこで仮眠を取り、差し入れの食事を摂った。

 名物だという、イワシのフライと薄切りタマネギの酢漬け――要は南蛮漬け。それから、イカスミのパスタはなかなかのものだった。


「海が近い街だと、日本と食の好みが近い気がするな」

「これなら、リリィちゃんも満足ですね」

「ああ。やっと、約束が果たせた」


 もうひとつの約束。

 ノインへのプレゼントは、まつろわぬ民との交渉の後だ。


 トウマは、心のメモにしっかりと刻む込む。


 そして、その日の夕方。


 ノインは予備戦力としてセーフハウスに残し、ドラクルの姫と勇者と緑の聖女は神殿に降臨した。





「妾はアムルタート王国女王、ミュリーシア・ケイティファ・ドラクルである」


 昼と夜の狭間。


「傾注せよ」


 逢魔が時。


「勇者、稲葉冬馬。緑の聖女、秦野玲奈。両名とともに、神命クエストに挑戦すべく推参した」


 水の都デルヴェで最も高い建物――光輝教会のデルヴェ神殿。

 その尖塔に降り立ち、ミュリーシアは堂々と宣言した。


 デルヴェでも、最も人通りの多い場所。

 さらに、ミュリーシアの声は大きくはないのに遠くまで響く。


 音楽のような美しい調べに人々は立ち止まり、次にその内容を理解して驚き。

 そして、傲岸不遜に降臨する三つの影におののいた。


 ざわめきが波紋のように広がり、騒然とする地上。


「はー。マジかよ……。マジだった……」


 慌てて飛びだしてきたジルヴィオが、遥か頭上。尖塔を仰ぎ見る。


 その表情には怒りも、憎しみもなく。

 両手で顔を覆ってさめざめと泣いた。


 涙は出ていないが。


「ほんと、なにやってくれてるんだ」


 トウマが騒動を起こす度に、ヴァレリヤの内部にある粛正時計が進んでいる気がしてジルヴィオの心臓がきゅっと締め上げられる。


 残念ながら、比喩でも幻覚でもない事実だ。


「あー、もう。とりあえず、下りてこいよお前ら」


 声は届かないだろう。

 代わりに、身振り手振りで下りてくるように指示。いや、懇願する。


 そのオーバーアクション気味の動作が良かったのか、しばらくして三つの影が地上に降り立った。


 この騒ぎを光輝教会のお膝元で起こしても、ミュリーシアはおろかトウマも表情ひとつ変えていない。


 静かなトウマの迫力に、ジルヴィオは薄ら寒いものを感じる。

 だが、実際は飛び下りに慣れていないだけだった。


「大人しくついてきてくれよ、ほんと」

「なにを心配しておるのか、まったく心当たりがないの」

「女王様は、こう仰せです。あたしたちが暴れたら、光輝教会そっちが一方的に悪いと」

「オレたちを脅すとか、とんだ悪人だろうがよ」

「正義の反対は、また一方の正義というやつだな」


 ジルヴィオが肩を落としながら、神殿の正面から堂々と中へ入っていく。

 兵士たちは外の騒ぎを収集に出ているのか、白亜の神殿に人の気配はない。必要以上の接触を避ける為、人払いをしている可能性もあった。


「光輝騎士自ら雑用とはの。てっきり、妾たちのことは無視するかと思うておったぞ」

「仕方ねえだろ。俺よりもっと怖い騎士様の命令だ」

「逃げ遅れたのか」

「そういうこった」


 どうやら、ばっくれに失敗したようだった。


「……むう」

「なに、怪しい動きがあれば妾がなんとかするわ」


 ジルヴィオと普通に会話をするトウマにレイナが緑がかった瞳を細め、それに気付いたミュリーシアが首を斬るように手を横に動かす。


 白い肌の彼女がやると、かなり生々しい。


「ここだ。いきなり、ケンカふっかけたりするんじゃねえぞ。神命の間は、協力し合うんだからな」


 異界の神のシンボルなどが描かれた豪奢な神殿内を通り抜け、ヴァレリヤが接収している応接室の前に到着した。


 ジルヴィオの厳重な注意。

 しかし、レイナには前振りにしか思えなかった。


「そちが、異界から罪無き子を拉致して使い捨てにする外道の親玉かの?」


 案の定、挨拶もなくミュリーシアが先制する。


 ヴァレリヤが碧眼を細め、ドラクルの姫をにらみつけた。


 空間が歪むような緊迫感が、ヴァレリヤの執務室を支配する。


「アンデッドを使役するのと、どちらがましでしょうか?」

「そこで比較を持ち出す時点で、悪いなどとは一欠片も思っておらぬ証拠じゃな」


 ミュリーシアがどこからともかく黒い羽毛扇を取り出し、それを片手にヴァレリヤ・イスフェルトへと近付いてく。


 ジルヴィオが慌てて扉を閉め、抜きたくはないが腰にぶら下げた剣に手を掛ける。


 それを気にした様子もなく、ヴァレリヤは切り口を変えた。


「勇者と緑の聖女、その存在を広く知らしめればこちらの手が鈍ると思いましたか?」

「鈍るのかの?」

「必要であれば、その程度の不利益は許容します」

「であれば、派手にやってもこちらは一向に構わぬな?」


 ミュリーシア・ケイティファ・ドラクルとヴァレリヤ・イスフェルト。

 女王と副団長のファーストコンタクトは、この上なく険悪に始まった。


 そして、二人はにらみ合う。


「ミュリーシア待ってください。ヴァレリヤにけじめを付けるのは、あたしの仕事ですよ」

「ああ、それはすまなんだ」


 二人どころか、レイナもそれに加わろうとする。


 話がまったく先に進まない。


「ジルヴィオには、虚偽の証言をするように呪いをかけた」


 そこで、トウマが関係のないことを口にした。

 不毛な争いと感じていたのだろうか。ヴァレリヤも、それに乗る。


「呪い……ですか……」

「そうだ。俺と玲那が生きていると自発的に口にしたら、体が腐ってアンデッド化する呪いだ」

「なるほど……」


 トウマとジルヴィオ。

 双方を交互に見てから、ヴァレリヤは息を吐いた。


「いいでしょう。任務失敗の件は、ヴァレリヤ・イスフェルトの名で不問とします」

「それは良かった。俺としても、ジルヴィオを眷属にしたりはしたくなかったからな」

「それは……共感できなくもありませんね」


 いらない子扱いされて、ジルヴィオは心底嫌そうな顔をする。

 だが、危機は脱した。


 誰にも感謝はできないが、ジルヴィオの心臓はいつも通りの鼓動へ戻った。


「それで、俺たちに“魔族”の処遇を任せるという話だったか?」

「ネイアード。それが、最近発見された魔族の名です」

「シアは知っている……ようだな」


 顔を見ただけで、それが分かった。


 ミュリーシアは、その存在を知っていて。

 さらに言えば、相当厄介な相手のようだ。


 それが分かるぐらい、渋い表情を浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジルヴィオ、割とぞんざいにフォローされるw 首がつながったことを恩に着てもいいのよ?
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