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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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092.試食歓迎会

「それでは、先に献上品の紹介を済ませてしまうわ」

「献上? 交易品だろう?」

「御用商人からの賄賂まいないを受け取るのも、権力者の度量というものよ?」


 神命クエストに挑むメンバーが決まり、ノインが張り切って準備した歓迎会の場。

 ゴーストタウンの広場に国民が集まり、ゴーストタウンの広場にたき火を熾し宴の準備が整いつつあった。


 太陽が沈みつつ行く最中。歓迎会の開始前に、カティアがミュリーシアとトウマの前に進み出た。


 予想外の申し出に、トウマはミュリーシアの横顔をまじまじと見つめる。


「いいのか? ワイロを受け取って?」

「後ろ暗いところはないからの」


 ワイロの部分を、特に否定も肯定もしない。どうやら、その辺は暗黙の了解というやつらしい。


「確かに、シアが俺の血を吸わないと言われたらちょっと心配になるしな……」

「それは関係ないであろう!? いや、なくはないのかの……」


 この程度なら、不正ではなく度量の話だ。


「それに、ヘンリーに良くしてくれたお礼をさせないつもりなのかしら?」

「良くした……?」

「……海賊退治に、契約に、この体のこと。確かに、ご恩ばかりですねぇ」

「そこはギブアンドテイクだと思うが……聞く気はなさそうだな」


 カティアの後ろにいるノインそっくりなヘンリーが、無言で眼鏡の位置を直す。

 トウマも、黙ってうなずいた。


「うむ。では、ありがたく受け取らせてもらうとするかの」

「私のほうで目録を読み上げます。現物は、あとでワールウィンド号から運び込みますので」

「なるほど。それで、荷物は秘密ってことにしたのか」

「そういうことです。まずは、砂金を15袋」

「砂金……」


 その価値が、どのくらいなのか。トウマには、見当もつかない。


「ほう、なかなか豪気だの。砂金というところも、気が利いておる」


 けれど、ミュリーシアが感心しているということはかなりの大金なのだろう。


「金貨だと、ミッドランズでしか通用しないでしょう?」

「そうじゃな。聖魔連合でも使えぬわけではないが、価値は目減りするであろうな」

「そういう意味で戸惑っているわけじゃないんだが……ありがたく、使わせてもらう」


 なにをするにしても、資金は必要だ。

 金で買えない物は確かにあるが、金で買える物は金で買ったほうが面倒も少ない。


「それから、各種宝石を同じく15袋」

「大盤振る舞い過ぎません?」


 もらいすぎると、逆に心配になる。

 読み上げが始まってから近付いてきたレイナも、落ち着かない様子だ。


「デルヴェを守ってくれた恩もあるではない? これくらい、当然よ」

「うむ。もらうほうも試されておるのだ。堂々としておれば良い」

「鼎の軽重が問われるというやつだな……分かった」


 その後も献上品の読み上げは続き、調味料を中心とした食料品や衣服。紙やペンといった筆記用具。いくつかの家具など、実用品が並んだ。


「ベッド……。ベッドじゃないか」

「ベッドですか……」

「組み立て式だから、ちゃんとあの“王宮”にも入るわよ」

「そうじゃなかったら、船に積み込んだ時点でばれてますけどね」


 トウマが、ちらりとレイナの顔色をうかがう。しかし、驚きはしても意外とさばさばとしていた。


「なんですか?」

「いや、落ち着いているな」

「まあ、遅かれ早かれですから」

「嫌な予感がする……」


 レイナは、にっこり微笑んだ。

 そして、なにも言わない。


「良い贈り物であった。特に、虚飾を排したところが良いな」


 トウマが追及するより先に、ミュリーシアがカティアに声をかけた。

 竜章鳳姿。人の上に立つ気品ある態度に、思わず感じ入ってしまう。美人は三日で飽きるというが、ミュリーシアは明らかにその例外だった。


「もったいないお言葉ですわ。新しい国なら旧来の美術品は不要であろうという浅知恵に、今となっては汗顔の至りでございます」

「資金洗浄には使えるんですけどね。絵とか値段なんてあってないようなものですし」


 カティアが、余計なことを言うヘンリーの手をつねって謁見は終了した。

 二人が下がると同時に、ノインが石のトレイに載せて料理を運んでくる。


「お待たせいたしました。歓迎会の準備が整いました、ご主人様」

「ああ、ありがとう。ちょうどいい。始めよう」

「はい」


 瀟洒にうなずき、ノインと厨房を預かるおばちゃんのゴーストが配膳を始める。


「これが、お米なのですか? つやっつやなのです!」

「ああ、いい香りだな……」


 メインは、デルヴェから持ち込まれた白米。

 土鍋で炊かれた銀シャリは、否応なく郷愁をかき立てる。


 他にもノインが作った様々な料理が並べられていく。


 準備は整った。


「挨拶は共犯者に任せるとするかの」

「長いと文句を言われるので、前置きは省略する。仲良く楽しくやって欲しい。以上だ」


 簡潔すぎる挨拶で、歓迎会がスタートした。

 まず、トウマの側にはレイナとリリィが座る。ご飯の試食を今か今かと待ち受けていた。


 その間、カティアやベーシアの相手はミュリーシアが担当してくれるようだ。そちらを見ると、委細承知と片目を瞑る。


(ありがとう。すまない)


 トウマは心の中でミュリーシアに感謝した。

 悪いと思いつつ、故郷の味には抗えそうにない。


「献立の監修はあたしですよ。最初からチャーハンもあれだと思って、潮汁と焼き魚にしましたがどうです?」

「ご機嫌な夕食だな」

「朝食っぽい献立ですけどね」


 こんもりと盛られた、炊きたての飯。鯵に似た魚の塩焼き。実がたっぷりと付いた魚のあらの潮汁。

 器は、いずれもミュリーシア謹製。


「いただきます」

「いただきます」


 魚の身を石の箸でほぐし、口に運ぶ。

 焼き方がいいのか、身はぱさついておらずジューシーだ。脂も乗っており、旨味が一杯に広がり溢れる。


 そこへ、白米を放り込んだ。


「はああぁ……。美味しい。美味しい以上に幸せなのです!」

「ああ」


 短く返事をし、潮汁で口の中を洗い流す。

 リリィの言う通り。幸せ。これ以上ないほど、幸せだ。


「あたし、正直なところ諦めていました」

「ああ。俺もだ」


 無い物ねだりは辛いだけ。

 それが分かっていて、無意識に遠ざけていた日本の味。


 それに出会えて、感動していた。


 そこに、ノインが戻ってくる。


「お口に合ったようで幸いでございます」

「ああ。初めてなのに完璧だった」

「もったいないお言葉でございます」


 ノインが、誇らしげに一礼する。

 顔を上げると、アメジストのような紫の瞳をまっすぐにトウマへ向ける。


「どうかしたか?」

「お気に召したのであれば、ご褒美をと。できましたら、デルヴェへ赴いた際に以前の約束を果たしていただきたく」

「ああ。お土産の件だな。そう言ってもらえると、こっちも助かる」


 そんな状況ではなかったとは言え、お土産を買って来るという約束を破ったのはトウマの失態である。

 それをご褒美という形でフォローする。ノインの配慮には、頭が上がらない。


 だが、不満を呼び起こされる者もいる。


 具体的には、頬をフグのように膨らませたリリィだ。


「あー! ノインずるなのです!」

「役得でございます」

「ぐぬぬ……。リリィはコノエなのですよ! 離ればなれになってどうするですか!」

「まあ、そうなんだが……」

「そろそろ、みんなにも声をかける頃でしょう? センパイ、ここはあたしに任せてください」


 珍しくレイナがフォローし、トウマはまずカティアたちのところに移動する。

 ミュリーシアはすでに離れており、カティアとヘンリーの二人きりだった。


「この体だと、ヘンリーはなにも食べられないのね。残念だわ」

「代わりに、お酌しますから。でも、飲み過ぎないでくださいよ……って、トウマさん! いいところに!」


 というか、カティアがヘンリーに絡んでいた。


「邪魔はしたくないが」

「邪魔じゃないですから!」

「そうか? カティア、献上品はありがたかった。改めて、礼を言わせて欲しい」

「いいんですよ。光輝教会が目を光らせていると、ちょっと悪い商人みたいなことができないんですもの。連中、当たり前のように物資を持って行きますからね」

「あ、ははは……」


 ヘンリーが否定しないということは、昔からの体質のようだ。


「俺たちは、そうはならないように気をつけよう」

「ええ。是非、そうしてちょうだい。喜んで税を納めたくなる国になってくれたらうれしいわ」

「それは難題だな……。だが、いい目標だと思う」


 税金を取られても不満がない。

 充分なリターンを与えられる。


 それは確かに、理想だ。


 トウマはそっと、心の刻む。


「ところで、事前に説明はしていたが驚いてはいないだろうか?」


 ニャルヴィオンを中心に、ベーシアとゴーストたちが集まっているのが横目に見えた。

 トウマには和気藹々とした光景に見えるが、普通は違うはず。


 だが、カティアは笑って上品に首を振った。


「物を売買できるなら、生きてるかどうかなんて些細なことだわ」

「カティアは、昔からこうなので……。すみません、ほんとすみません……」

「嫌ね。50年前は、世間知らずのお嬢様だったでしょう?」

「あ、はい」


 ヘンリーの背筋が伸びた。

 ノインそっくりの体でそういう反応は対処に困る。


「それに、ヘンリーもゴーストなのだもの。普通よ、普通」

「参った」


 それからしばし会話を楽しんだ後。邪魔をしては悪いと、二人に別れを告げた。


「あとは……ベーシアだけど……。まだ、みんなと一緒か……」


 広くない会場を見回すと、先ほどと変わらずベーシアはゴーストたちと一緒だった。


 言葉は通じないはずなのだが、我が物顔でニャルヴィオンの上でゴーストたちと交流している。

 恐ろしいコミュニケーション能力だ。


 あそこに乱入する勇気はない。


 そうなると、行く場所はひとつ。

 片隅で佇んでいるミュリーシアだ。


「シア」

「なんじゃ? 心配せずとも、妾も楽しんでおるぞ」


 カティアが持ち込んだワインを片手に、微苦笑を浮かべるアムルタート王国の女王。


 一顧傾城。

 ゴーストタウンなのに、彼女がここにいるだけで宮殿の庭園のように思える。


 ミュリーシアは、今日も美しい。


「いや、二人で話をしていなかったと思ってな」

「そうじゃな」


 少し移動して、瓦礫の上に座った。


「…………」

「…………」


 会話はなく、沈黙が支配する。けれど、気まずくはなかった。

 むしろ、快い。


「共犯者がおらぬと、どうにも調子が出ぬ」

「そうなのか?」

「そうなのだ」


 多くは語らず、ミュリーシアがトウマの肩に頭を乗せた。


「もう、二度と留守番はせぬ」


 その拗ねたような言い方が、あまりにも可愛らしくて。

 トウマは、思わず笑ってしまった。


「なんじゃ、笑うとは。反省しておるのか?」

「している。それでたりなければ、俺ができることならなんでもする。だから機嫌を直してくれ」

「ほう。今、なんでもすると言うたな?」

「……俺は、シアの良識を信じている」

「なに、無体な真似はせぬわ」


 ミュリーシアの赤い瞳には、いたずらっぽい光が浮かんでいた。


 トウマは早まったかなと思ったが、後悔はしていなかった。


 本当に後悔するのは、もう少しだけ先のことだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミュリーシアがいつ、何を要求するかが楽しみですね。
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