表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/295

084.港の遭遇

「わざわざ、モンスターを相手にする必要はない。確かに、そうだろうな」

「あ、そこ認めるんだ」


 トウマが、少しだけむっとした表情を浮かべる。

 レイナは、珍しいと思いつつ心のフォトアプリに保存した。


「カティアとの話を聞いていたとは思うが、俺は光輝教会に騙されて使い捨てにされた」


 ベーシアは少しだけ眉を跳ねさせたが、トウマは淡々としている。


「だからというわけじゃないが、これからは俺がやりたいと思ったことをやるつもりだ」

「自分の身が危うくなっても、見ず知らずの誰かを守るのがやりたいこと?」

「それは、上辺を切り取っただけだな。ここで保身に走ったら、シアに顔向けができないというのが本音だ」

「え? ボク?」


 トウマは、苦虫を茶碗一杯かみつぶしたような顔をする。

 ベーシアは、声を出さず。それでいて、指をさして笑った。


「ミュリーシア……うちの女王様だ」

「女か。女かぁ……」


 ベーシアが、にっこりと笑った。先ほどとは違って、ブラウンの瞳が真剣な色を帯びる。


「そりゃ、意地をみせなきゃだよね!」


 キャスケット帽をかぶり直した草原の種族マグナー。次の瞬間、倉庫の出口にいた。


「なんてスピードですか。ギネスに載りますよ。そうじゃなきゃ、ギネスがおかしいレベルじゃないです?」

「ギネスに責任転嫁しても仕方ない」


 トウマとレイナが、慌ててベーシアを追う。騒動が収まったら、米と再会することを祈って。


「モンスターが来たんなら、カティアにも一言伝えておかないとだねー」

「ああ。そうだな」


 事前に警告は出て準備はしているのだろうが、知らせて悪いことはないだろう。

 行きの数倍のスピードで戻り、今回も誰にも見つからず最初に通された応接室に到着した。


 そして、いきなり扉を開けるようなことはなくコンコンコンとノックした。


「ノックはするんだ」

「一応、雇い主だしさ」

「……ベーシアを雇おうとした俺の判断は間違ってなかったな」

「広告主になって、報道をさせなくするみたいな手口ですね」


 トウマが反論できずにいると、中から人の動く気配がした。


「……急ぎの用件ね? どうぞ」


 応えがあり、ベーシアが大義名分は得たと入っていく。


「光輝教会が言ってた、事件が起こったらしいよ」

「俺の契約しているアンデッドから、警告があった。沖から、モンスターがこちらへ近付いてきている」

「……よく知らせてくれたわ。ヘンリー、またあとでね」


 真偽を確認しようともせず、カティアは応接室を出て行った。

 隠居とは思えない、アグレッシブさ。


 あとには、ぽかんとアメジストのような紫の瞳をぱちくりさせるヘンリーが残された。


「ヘンリー、すまないな。二人きりのところを邪魔してしまって」

「いえ、それよりもモンスターですか?」

「ああ。ちょっと俺も確かめに行ってくる」

「ええ!? ちょっとって。大丈夫なんですか?」

「それを確かめるという意味も大きい」


 トウマはレッドボーダーへ手を伸ばした。

 それに合わせて、体が隠れるほど大きな盾が手に収まる。


「自律型なんだ?」

「ああ。そういうマジックアイテムのようだ」

「友達の装備を思い出すなー」

「似たようなのがあるのか」

「うん。両手で攻撃ぶちかますから、盾を持つ手がないんだよね~」

「それは豪快だな」


 しかし、それが本来の用途かも知れない。

 少なくとも、荷物を運ぶヘルプや移動をするためのものではないはずだ。


「というわけで、ヘンリーはカティアの側にいてくれ。最悪、ワールウィンド号で合流しよう」

「分かりました。無理はしないでください。私の契約は、ここから始まるようなものなんですからね」

「もちろんだ」


 世界一の商人になるという、二人の契約。

 ハイアーズ商会との取引は、その第一歩に過ぎないのだ。


「俺だって、こんなところで終わるつもりはない。シアに、なにを言われるか分からないしな」

「まあ、ボクも一緒だから心配ないない」

「もちろん、あたしもですけどね」

「いや、玲那は……」

「聞きません」

「……分かったよ。ただし――」

「お説教も聞きません」


 先の先を取られ、トウマは天を仰ぐ。


「いいねー。そういうのいいよー」


 ベーシアは、腹を抱えて笑った


「はー、笑った。じゃあ、お酒でも飲んで寝ようか」

「これから、モンスターをどうにかしにいくんだが?」

「新しい雇用主が厳しいっ!」


 先ほどまでとは逆に、レッドボーダーを手にしたトウマがベーシアを引きずっていく。


 斜めになりながら、ベーシアは結構喜んでいた。





「そういえば、こっちで港町を見るのって初めてだな」

「あたしは、ありましたけど……。ジルヴィオ・ウェルザーリ……絶対にいつか報いを受けさせてやります」

「いや、もうそんなに気にしてないから」


 デルヴェは、水の都だ。

 縦横に水路が走り、ボートが市民の足となっている。


 それを完全に無視して、トウマたちは家々の屋根を飛び越えて港へとたどり着いた。それもこれも、レッドボーダーの浮力とベーシアの常識外れの体術があってこそ。


 具体的には、大型化して浮遊したレッドボーダーにトウマとレイナが乗り込み、ベーシアが引っ張っていった。明らかに普通ではないが、ツッコミを入れるのも面倒になっていた。不利益がないのだから、現実を受け入れようという心の防衛反応のようなものだ。


 あとは、ミュリーシアとの空中散歩の数々で空への恐怖心が摩耗していたというのもあるだろう。


 というか、これが一番だ。


「さて、どうにか間に合ったみたいだね」


 港にいくつもある倉庫。

 そのひとつの屋上から、ベーシアがブラウンの瞳を細めて海を眺める。


 港からは、すでにほとんどの船が出払っていた。

 閑散とした。あるいは、さっぱりとした海の向こうから小山のようななにかが渦を巻きながら迫ってきているのが見える。


 あれが、スケルトンシャークが警告を発したモンスターで間違いないだろう。


「とりあえずは、様子見が妥当なところかな」

「ああ。最初から正面に立つなんて無謀なことは言わない」


 物分かりのいいトウマに、ベーシアがサムズアップする。


 しかし、トウマの声を発したそれはトウマの顔をしていなかった。

 端的に言えば、覆面をかぶったように真っ黒だ。辛うじて、目と口と鼻が分かる程度。


 二人とも制服ではないので、トウマやレイナだと露見する可能性は低い。


 その代わり、一目で不審者認定を受けることは確実だが。


「それにしても、随分と思い切ったねぇ」

「《フォールス・マスク》は顔を変えられるが、別に誰かになりすますスキルというわけでもないからな」

「これが一番効率的なのは分かりますけど、どうなんですか? めっちゃ下がりますよ」

「だから、残っていろと言っただろう」

「駄目です。お兄ちゃ……センパイから目を離すと、どこに行くか分からないんですから」

「うんうん。そこはね、しっかり手綱を握っておかないとね。目を離した隙に、別の女を連れて帰ってくるとかそういうことは稀によくあるからね」


 訳知り顔で、ベーシアがうなずく。まるで、実際に目にしたことがあるかのような口調だ。


「ま、それはともかく光輝教会はどうするのかなー? ボクたちの出番が来るのは嫌なんだけど。働きたくない」


 草原の種族が、ブラウンの瞳を地上に向ける。


 その先には、金髪碧眼の女騎士が一人佇んでいた。海沿いにもかかわらず全身を鎧で防護した他の光輝騎士とは、距離を置いている。


 海風が豪奢な金髪を舞わせても気にすることなく、沖合を見つめていた。


「まさか、ヴァレリヤがいるとは思いませんでしたよ。まったく、余計なことばっかり。不意打ちで、一発殴れないですかね?」

「ヴァレリヤ・イスフェルト……。強いのか?」

「どうなんでしょう? 一緒にダンジョンに潜ったことはありますけど……そう言えば、怪我をしたところは見たことないですね」

「お、船が向かってるよ」


 片手でキャスケット帽を押さえながら、ベーシアが沖合を指さした。


 近くに待機していたらしい三隻の軍船が、小山のような渦に向かって接近していく様が見える。


「光輝教会の船……ですかね?」

「状況からすると、そうだろうな」


 スケルトンシャークに待機するよう念話を伝えていたトウマが、途中で険のある瞳を大きく見開いた。


「あれは、魔法か?」


 炎・氷・光・岩。

 軍船から様々な塊が飛び出し、渦の中心へと飛来していく。


「ですね。何人、魔法士を乗っけてるんでしょうね」

「普通の魔法って、初めて見るな……」


 勇者や聖女が使用するスキルとは、また別系統の力。

 それを目の当たりにして驚き感心するトウマだったが、それは食らった相手には通じなかった。


 一瞬、渦の動きが止まる。


 次の瞬間、その中心から巨大な影が飛び出してきた。


 いらだたしげに身をくねらせるそれは、ワールウィンド号を遙かに超える体躯の海蛇。

 鱗は蒼く、体は太く、長大で。


 首は、9本もあった。


 海の支配者、多頭海蛇ヒュドラ・フルクトゥス

 火口のダンジョンで相手をした、巨大な赤亀を遥かに超えるモンスター。


 それが軍船へ落下し、一隻が真ん中から折れて轟沈する。


「これは……」

「ダンジョンの外に出ちゃダメなやつですね……」


 残った二隻は逃亡せず、さらに魔法を投射する。


 けれど、すべて鱗で跳ね返された。


 多頭海蛇はすべての首を伸ばし、軍船を滅多打ちにして二隻を同時に沈める。


「モンスターというのは、天災と同じなんだな……」

「ええ、今さらですけど」


 なぜ、ここに来たのか。

 どうして、こんなことをするのか。


 そんな人の理は、通用しない。


 暴力と理不尽の権化が、デルヴェの港――トウマたちへと迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そうか、センパイって呼ぶのは秦野家の業だったのか……と昨日は気付きませんでした。(ワクチンの副反応で思考力が……) ヒュドラ……空飛んでてベーシアが本気出していいならまあ1個ずつ頭狙撃すれば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ