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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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078.デルヴェ到着

「びっくりですね。なんにも起きずに到着するなんて」


 綺麗にネイルを塗った手で庇を作り、レイナが遠くを見つめる。

 幽霊船ワールウィンド号。その舳先から見える陸地。まだ小さいが、なんの危険もなく亀裂海を渡りきったことになる。


「てっきり、海賊船に襲われるとか、モンスターと遭遇するとか、沈没船をサルベージするとか。そんなイベントが起こるものかとばかり思っていました」

「ああ。なにごともないに越したことはないけどな……」


 航海中はベッドを一人で使用できて快適だったトウマは、少し名残惜しかった。


「あたしと、あなた・・・の二人だけなら事件は起こらない。つまり、ミュリーシアが疫病神だと証明できたんじゃないですか? Q.E.Dですよ、Quod Erat Demonstrandum」


 緑がかった瞳は、冗談とも本気ともつかない光を帯びていた。


「俺たちが召喚されたところまで戻ると、シアは関係なくなるだろう」

「そこは、あたしと、あなた(・・・)の絆で一緒に召喚されたんですよ」

「牽強付会が過ぎる」


 風ではためくレイナのサイドテールを片手で押さえてやりながら、トウマは一言で却下した。

 ずっと、あなた(・・・)と呼ばれ続けているのですっかり慣れていた。


 それが、レイナの思惑通りと気付かずに……。


「それよりも、これからのことだ」

「そうですね。トウマさんの言う通りです」


 船長室から出てきた、眼鏡をかけた小柄なメイドが何度もうなずく。


「陸地が見えても、このままじゃ港には入れないですから」

「船員のいない船とか、普通に怪しまれますからね」

「ここまで安全に来られたんだ。そのくらいの不便さは問題じゃない」


 それよりもと、トウマがレイナの瞳をのぞき込む。


「本当に、俺が顔を変えていいんだな?」

「もちろんですよ。ここまで来て、嫌なんて言いませんから」

「メイクでごまかす手もあると思ったんだが……」


 しかし、レイナは首を横に振る。


「ここで日和って、ばれる可能性を増やしてどうするんですか。遠慮なく、あたしの顔を老けさせてください」

「ちょっと、表現に遠慮がなさ過ぎません?」


 和装メイド姿のヘンリーが戦慄した。


「……分かった。文句は、受け付ける」


 トウマが、レイナの顔に手をかざす。

 レイナは、なにかを待ち受けるように目を閉じた。


「魔力を10単位、加えて精神を7単位。理によって配合し、我が指先は虚飾の仮面を描く――かくあれかし」


 詠唱と同時に、トウマの手がレイナの顔の前を何往復かする。


「《フォールス・マスク》」


 淡い光を放ち、スキルが発動した。

 手を離し、露わになったその顔は……。


「おっ、品のあるご婦人といった風情ですねぇ。いいんじゃないですか?」

「ああ。でも、レイナが気に入るかどうかだからな」

「う~ん。むむむむむ」


 まず、レイナは似合わないサイドテールを解いた。


 そして、手鏡を近づけたり遠ざけたりして確認する。

 まるで、近眼のように目を細めていた。納得いかないように見える。


 目元や口元にしわが増え、それでも美しさを保っていた。


 トウマの目には、良い年の取りかたをしたように見えるのだが……。


「ううん……。遠慮なくとは言いましたが、少し老けさせすぎじゃないです?」

「だが、俺と夫婦ということなら同年代になるだろう?」

「いいじゃないですか。商人なんて、若いお嫁さんを囲ってるもんですよ」

「いや、それは商人に対する偏見というかですね……」

「だって、こんなメイドさんも連れて歩くんですよ?」

「……しまった」


 今気付いたと、ヘンリーが衝撃に仰け反る。


「俺じゃなくて、玲那の付き人ってことにすればいいだろう」

「あ、それもそうですね」


 ヘンリーは、即座に立ち直った。ごまかすように、眼鏡の位置を調整する。


「まあ、いいでしょう」

「いきなり評価が変わったな」

「あのセンパイと並んだところを想像したら、ちょうどいいかなと思ったので」

「さっき、俺がそう言ったんだが……」

「よくよく考えたら、センパイは若い子のほうがいいとか。そんなことは言わないでしょうから」

「当たり前だろう」

「ですよね。信じていますよ、あなた(・・・)」


 上品な微笑み。

 若い頃のレイナの面影があり、少しだけトウマの心臓がはねる。


「それじゃ、こっちで上陸の準備をするのでトウマさんたちは着替えとかをお願いします」

「……ああ。よろしく頼む」


 トウマとレイナは船室に戻り、ヘンリーが上陸用のボートを海に下ろした。すぐにスケルトンシャークがやってきて、存在を誇示するようにジャンプする。


 荷物の積み込みなどの準備は1時間もかからず、終了。


 幽霊船ワールウィンド号には、自動的に沖合をさすらうように指示を出す。


 こうして、トウマたちはボートで水の都、交易都市デルヴェへと侵入を果たした。





 光輝騎士ヴァレリヤ・イスフェルトは、ジルヴィオ・ウェルザーリからの報告を聞き軽くため息をもらした。


 事前に書面で速報には接している。


 だからといって、愉快な気分になれるはずもなかった。


「勇者トウマ・イナバ、緑の聖女レイナ・ハタノ。両名が死亡……ですか」


 聖女に迫られても揺るがなかった怜悧な美貌が、気鬱げに曇る。

 光輝騎士の碧眼が、机上に並べられた一対の指輪に向けられた。


「仮にレイナが生きていたとして……」

「まあ、副団長がそう思いたい気持ちは分からないでもないがよ……」

「この指輪を手放すとは思えませんね」

「ああ、その点はオレも同感だぜ」


 煌びやかな金髪をかき上げ、ヴァレリヤは緊張の面持ちで対峙するジルヴィオを鋭い視線で射抜く。


「レイナだけは、どうにか生かして欲しかったものですが」

「すまねえ。オレの力不足だ」

「いえ、聖女の脱出に気付かなかったこちらの落ち度もあります」


 ヴァレリヤは、秀麗な相貌に憂色を浮かべてもう一度ため息をついた。


 勇者の死――排除は既定路線だった。スキルを確認した直後から。

 しかし、緑の聖女までとは考えていなかった。むしろ、勇者トウマ・イナバを殺した魔族への憎しみを植え付け、大いに活躍してもらうつもりでいた。


 様々な計画が修正に迫られ、とても愉快な気分ではいられない。


 数十年に一度しか召喚できない勇者と聖女。それをこんな短期間で失うなど、今までなかったこと。


 確かに、魔都モルゴールを消滅させ平和・・には近付いた。


 しかし、それに相応しい代償だったのか。

 生徒であるレイナを失ったことは、ヴァレリヤにもショックだった。


「ところで、なんで神都じゃなくてデルヴェくんだりで報告させたんだ?」

「そのことですか……」


 ジルヴィオの言葉が、思考の淵に沈んでいたヴァレリヤを引き戻す。


「勇者と緑の聖女に関しては極秘事項ということもあり、神都で報告を聞くわけにはいきませんでしたが……。実は、神託が下りました」

「は? 神託だぁ?」

「ええ。近いうちに、デルヴェの港に悪しきモノが訪れると」

「それで、あんたが出張ってるわけだ」

「そういうことです。この件の裁定は詳細な調査の後になりますが、あなたにも協力してもらいますよ光輝騎士ジルヴィオ・ウェルザーリ」

「はいはい。給料分は、ちゃんと働きますよっと」


 ジルヴィオは肩をすくめ、言われる前に部屋を出た。

 それを咎めるでもなく無言で見送ったヴァレリヤが、何度目かになるため息をつく。


「裏切るとは思いませんが、監視はつけておきましょう」


 デルヴェの教会施設を出たジルヴィオだが、当然、監視には気付いていた。


「となると、やることはひとつだな」


 憂鬱そうな表情で、一人ごちる。


「仕方ねえ。いつも通りにやるしかねえな。そんな気分じゃねえんだがな」


 時間はまだ、昼。というよりも、朝に近い。


 だが、ジルヴィオの頭の中にはこの時間からやっている酒場も娼館もしっかりリストアップ済みだ。


 行きたくない。行きたくないが、監視を油断させるためにも仕方がない。仕方がないことだ。


 デルヴェを縦横に走る水路を歩き、昼間から歓楽街へ繰り出そうと大通りへ出たところ……。


 一艘のボートとすれ違った。


 中年の夫婦と、奇妙な格好のメイドが乗っている。このデルヴェでは、なんの変哲もないボート。


「……あ?」


 そのメイドの胸に視線を引かれたジルヴィオだったが、笑顔が凍り付いた。


 姿も変えている。

 服も変えている。


 だが、ジルヴィオには。ジルヴィオにだけは分かった。


 雰囲気で、トウマだと分かってしまった。


(なにやってやがるんだよ! あいつらはっ!?)


 トウマたちに気付かれないよう踵を返す。


「おおうっ、アンタ副団長のところにいたよな? これから飲みに行くんだがこの街を案内してくれよ」


 陽気に、無能を装って。

 監視者に気付いていることを晒し、問答無用で飲み屋へ連れ込むジルヴィオ。


 なぜわざわざこんなことをと、怒りにも似た感情が湧いてくるが仕方がない。


 万が一にも監視者にトウマたちの存在を気付かれてはならないのだ。


 すべては、自分自身の安楽な生活のために。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頑張れジルヴィオ! 報告前ならともかく今バレたらお前破滅だぞw
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