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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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074.出発の準備

「リリィは、とーーっても残念なのですよ」

「こればかりは、致し方ありません。留守を守るのも、メイドの務め。そう思って、励ませていただきます」

「はっ!? そうだったのです。リリィたちは、コノエだったのです!」


 トウマとレイナが、島を離れる。

 円卓の間で正式に報告を聞いたリリィとノインは、比較的冷静だった。


 二人の視点は、早くも次へ向いている。


「期限があるわけではございませんが、早めに決めておかねばならないことがございます」

「そうなのです。忘れるところだったのです」

「……なにかあったか?」


 石の円卓に陣取るトウマが、首を傾げる。

 航路は、幽霊船任せ。交渉方法も、ヘンリー次第。喫緊の問題は、特に思い浮かばなかった。


「来年を語る者は、足下の石に気付かないとゆーやつなのです」

「見落としがあるみたいだな。教えてくれるか?」


 その円卓の上をぐるぐると飛ぶリリィと、そっと佇むノインが同時に口を開いた。


「お土産を決めておくのですよ」

「持ち物の用意をいたしませんと」


 円卓の上をぐるぐると飛ぶリリィと、そっと佇むノインの視線が交差した。

 密かな主導権争いが始まる。


「どこかに行ったら、お土産。これは実際大事なのです」

「快適な旅の準備。これに勝るものはないかと愚考いたします」

「ふっ、ふ~ん。ノインは甘いのです。トウマが作ったシャーベットのココナッツミルクがけぐらい甘いのです」

「それは相当甘いな」


 歯に響く甘さを思い出し、トウマは思わず顔をしかめた。


 それに気付かず。くるっと大きく一回転してから、リリィは短い人差し指をノインへ突きつける。


「今回は、ミュリーシアもお留守番なのです。トウマと離ればなれになるのです」

「はい。そのようにうかがっておりますが」

「つまり、ミュリーシアは寂しい寂しいってなるのです。だから、お土産を決めておかないとミュリーシアは泣いちゃうのです」

「なるほど。そのような可能性が……」

「ないだろ」


 トウマは、軽く右手を振った。

 別れるといっても、ほんの数日。長くても、一週間程度。


 あの孤高で美しいミュリーシアが、トウマとしばし離れるだけで寂しがるなどあり得ない。多少は思うところもあるだろうが、それ以上でも以下でもないはずだ。


「ほら、トウマはこうなのです。リリィが正しかったのです」

「ご慧眼、お見それいたしました」

「まあ、お土産ぐらいみんなに買って来るけど」


 トウマは、枝葉末節にこだわらず話を進めることにした。

 リリィの指摘は大げさだとしか思えないが、この場の天秤は反対側に傾いている。


 となれば、否定するのは愚者の選択。


 トウマは、レイナから学びを得ている。

 多数決は絶対ではないが、自分以外の投票者が異性の場合はその例外だと。少なくとも、逆らうべきではないのだ。


「ちなみに、リリィとノインはなにがいい?」

「珍しい食べ物がいいのです!」

「私めは、特に……。いえ、この場合下手に遠慮するのは逆に失礼に当たります。考えをまとめますので、しばしお時間をいただきます」


 アメジストのような紫の瞳を閉じて、自分の世界に旅立ったノイン。

 そっとしておくことにして、トウマはリリィへ険のある瞳を向けた。


「せっかくだから、デルヴェでしか手に入らないようなのがいいよな」

「なのですよ。島の外の食べ物! 初体験なのですよ!」

「そういえば、そうなるのか……」


 トウマは、思わず腕を組みため息をついた。

 島から出ることなく、幼くして終わったリリィの人生。


 もし日本に来ることができて、ファミレスにでも入れたらどんな反応をするだろう。そんな益体もない思考を、髪をかきあげ振り払う。


「多少は、見て回る時間はあるだろうからな。いくつか見繕おう」


 水の都と謳われるデルヴェに名物料理があるかは分からないが、人の集まる交易都市でもある。期待してもいいはずだ。


「あとは、そうだな。米とか乾麺のパスタとか、そういうのがあれば長く楽しめそうだな」

「さすがトウマなのですよ~」


 期待に胸を膨らませ、リリィが円卓を通過してぐるぐる飛翔する。


 そのうれしそうな姿を見ていると、結局、トウマ自身が食べなくてはならないという問題など些細なことのように思えた。


「整いましてございます」

「それはなにか違う気がするが……聞こう」

「ヘンリー様には、私めの妹の体を使っていただくこととなりましたが」

「ああ、それとお土産にどんな関係が?」

「そうなりますと、見分けが付きにくいという問題が発生いたします」


 そこまで言われたら、トウマにも分かる。


「なにかアクセサリーのようなものを探してこよう」

「はい。安物で構いませんのでお願いいたします」

「長く使えるもののほうが、結果としては安くつくだろう」

「……左様でございますね。ご主人様にお任せいたします」


 アメジストのような紫の瞳を瞬かせ、ノインはそっと顔を伏せた。

 その顔色は、誰からも見えない。


「ところで、肝心のミュリーシアへのお土産が決まってないのですよ?」

「ああ。なにがいいかな……」


 土産と聞いて思い浮かべるのは、修学旅行の思い出。

 まさか、木刀というわけにはいかないだろう。


 レイナには、あぶらとり紙などの小物。


 祖父には……。


「シアは、お酒を飲むかな……」

「共犯者の無事が、妾にとっては一番の土産じゃな」

「とか殊勝な姿勢を見せつつ、良さげなプレゼントを自主的に贈らせる作戦……やりますね」

「邪推が過ぎるわっ」


 ミュリーシアが開いたままの羽毛扇でレイナを叩こうとするが、勢いがなく簡単にかわされてしまった。


 グリフォンの頭へ行っていた二人が、シームレスに会話へ参加する。


「ツッコミにキレがない。ということは、的を射てしまった……?」

「妾が本気じゃったら、頭が吹き飛んでおるぞ」

「ですよねー」

「二人とも、おかえり」

「うむ。妾のおらぬ間に楽しそうな話をしておったようじゃな」

「リリィが言い出したのです。リリィに感謝してもいいのですよ~」

「まったく」


 と言いつつも、リリィを撫でるミュリーシアだった。


「グリフォンの頭で、マンゴーを採取してきました。ドライフルーツにして持って行きましょう。ドライマンゴーは、おやつに入りませんから!」

「バナナを外してくるのか、そこで」

「かしこまりました。保存食として干し肉も用意しておりますので、あわせてこちらで担当いたします」

「お願いします。数日なら大丈夫でしょうけど、ビタミン不足は壊血病になりますからね」

「壊血病? ああ、海の呪いのことかえ? 果物を口にすれば海の呪いにかからぬのか?」

「ああ。柑橘の果汁とかで予防したと聞くな」


 ロイヤルネイビーの水兵がライミーと呼ばれることがあるが、これは壊血病予防でライムなどを支給していたことに由来する。


「過去の勇者が教えてないとも思えないよな。“魔族”には伝わらないよう情報統制してたのか?」

「ありうる……じゃが、今さらじゃのう」


 ミュリーシアは羽毛扇を閉じ、軽く自らの肩を叩く。

 本当に、今さらの話だ。


「まあ、壊血病はともかく。ようやく旅の荷物の話になったが、基本的な物はワールウィンド号にあるだろう?」


 今回は、交易品もサンプル程度。

 確かに水や食料品は必要だが、帰りの分はデルヴェで補給もできるはず。準備はしっかりするに越したことはないが、やり過ぎもまた問題だ。


「まさか、幽霊船が難破するってこともないだろうしな」

「しかし、出港してからあれが必要だったこれを持って行くべきだったと思っても遅いものと愚考いたします」

「それはそうだが……」

「ご主人様と奥様に不自由をおかけしたとなっては、自動人形オートマタの名折れ。ワールウィンド号に乗り込み、必要な品の精査をお許し頂きたく存じます」


 瀟洒に腰を折るノイン。

 その勢いに押されたわけではないが、トウマはうなずいていた。


「まあ、改めてヘンリーとの顔合わせも必要だろうしな」

「そうですねー。中身があの人なのにメイドさん同士でっていうのは、なかなか笑えますけど」

「玲那」


 からかうレイナの手を、トウマが軽く叩く。


「なにするんですか、もう」


 怒られて、なぜかうれしそうなレイナだった。


「ノインの心配ももっともじゃ。すべてが揃っておるわけではないからの」

「それはそうだが……。つまり、足りない物を用意してくれたと?」

「さすが、共犯者は話が早いの」


 破顔一笑。ミュリーシアの艶やかな唇から、白い牙が覗く。


「思うに、航海中の娯楽という観点が抜けているのではないかの?」


 影術で編んだドレスの裾から、棒状の物が二本姿を現す。


 簡素だが、一目で分かる程度には整っている。


 素人仕事とは思えない、釣り竿だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 信じて送り出した二人が人魚釣っちゃうフラグ……断じてタンノさんではないw
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