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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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071.懇親会と次なる火種

「無事に戻ってきてくれたこと自体は、とてもうれしいんだが……」


 ゴーストタウンの“王宮”前。

 トウマが浮かべている表情にタイトルを付けるとしたら、理不尽への怒りとなるだろうか。


 しかし、実際は困惑だった。


 ミュリーシアとレイナ。二人が揃って戻ってきただけで驚きなのに、獲物は共同討伐。

 その上、肝心の獲物が植物。


 潰れてボロボロになった小さな花と、それに似つかわしくない。それこそ、何十メートルあるのかも分からない根。


 この根を食べるのだろうか? ごぼうや自然薯のように?


 トウマは推理をあっさりと放棄し、いつも通り制服を着崩しているレイナに目を向けた。


「どうして、こいつを捕まえることになったんだ?」

「どうしてと聞かれたら、自衛ですね」

「うむ。無謀にも妾たちに危害を加えようとしてきたからの」

「実際は、こっちが縄張りに入ったからなんでしょうけど」

「妾たちアムルタート王国がこのグリフォン島を実効支配する以上、いつかは交わる道であったということよ」


 食虫植物のようなものだったのか。

 そう考えながらレイナを見ると、トウマに向けて軽くうなずいた。


「ミミックルートというようですが、補食した動物を広範囲に張り巡らせた根っこの先に再現して次の犠牲者を捕まえるという危険植物でした」

「これでモンスターじゃないんだな」

「モンスターの定義が、魔力異常により発生した危険生物じゃからの」


 ジャガイモは、地下茎と呼ばれる地中に伸びた塊茎を食用にしている。

 根とは違なるものの、数十メートル伸びた地下茎の先端に実ったジャガイモが襲いかかってきたと考えたら理解しやすいかもしれない。


 実が補食するというのも意味が分からないが、動物の姿を真似る(ミミック)という時点で意味が分からないので問題ない。


 実際、このミミックルートが生態系の枠内の存在だということに比べたら、些細なことだ。


「驚くのはともかく、いちいち疑問を抱いてたらこの世界じゃ生きていけないみたいだな」


 マッスルースター、ストーンスキンディア。そして、このミミックルート。

 どれか一種でも地球にいたら大騒ぎだろう。

 逆に言えば、これだけ揃っているこちらの世界


「しかし、植物。植物なんだよな」


 確かに、獲物は種類の規定や制限はなかった。


 トウマは、ゴーストたちは森で動物を。ミュリーシアもしくはレイナにニャルヴィオンは、海で魚を獲ってくるのではないかと思っていた。


 つまり、海と森で数と重さを分担する作戦だ。


 そこに出てきたのが、ミミックルート。トウマは腕を組み、ミュリーシアとレイナを順番に見やる。


「とりあえず、食べられるものじゃないと認められないと思うんだが」

「そうであろうのう」

「ですよねー」


 これで、他に獲物を持ってきていればどちらが勝ちか決められただろう。けれど、それを見越してかミミックルートしか持ってきていない。


「でも、これはみんなで協力して捕まえたのですよ。いわば、くんしょーなのです」

「勲章か。確かに、そうだな」


 トウマは、ミュリーシアとレイナの意思をくみ取ることにした。


「みんな、よく頑張ってくれた。今回は、勝負無し。いや、全員の勝利ということにしよう」

「若干茶番ですが、そういうことにしましょうか」

「うむ。決着が必要なら、次の機会で良かろう」

「にゃ~」

「みんなも、それでいいって言ってるいのですよ」


 満場一致。

 トウマは、代表者であるミュリーシアとレイナの手を握って健闘をたたえる。


「それでですね。このミミックルートなんですけど、あたしに使わせてくれません?」

「俺は別に構わないが」


 トウマはミュリーシアを見る。小さく、黒い羽毛扇を振った。好きにしていいようだ。

 次にノインを見る、そっと目を伏せるだけ。


 最後に全体を見て異論が無いことを確認すると、トウマはレイナの肩に手を置いた。


「元々、植物の専門家だしな。玲那に、全部任せる」

「そこはまで信頼されると、ちょっと。あたしの私利私欲みたいなものなんですけど」

「玲那なら悪用はしないだろう」

「そうなのです! それよりも、リリィはおなかぺっこぺこなのですよぅ」

「成果なしは予想しておりませんでしたが、現在の在庫で十分対応可能でございます。しばしお待ちを」


 ずっと黙ってトウマの影に控えていたノインが、美しく一礼して準備に取りかかる。


 それから、わずか一時間ほどで狩猟大会後の懇親会が幕を開けた。





「新しくこのアムルタート王国に加わってくれる自動人形オートマタのノインと蒸気猫スチームキャットのニャルヴィオンだ」


 ゴーストタウンの中央。

 涸れ井戸のあった広場で、トウマは集まった国民たちに告げる。


「もう見知っているだろうし、一緒に仕事もしているだろう。今さらかもしれないが、みんな仲良くやって欲しい」

「皆様、改めましてよろしくお願いいたします」

「にゃ~」


 ノインが思わず見とれるような所作でお辞儀をし、ニャルヴィオンがあくびをするみたいに大きく口を開けた。


「じゃあ、懇親会としよう」


 トウマは手を叩き、開会を宣言した。


 ゴーストたちが三々五々散っていき、ニャルヴィオンが山と積まれた石炭を上から食べるか下からにするか悩むようにぐるぐると回る。


 そして、ミュリーシアが満面の笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「共犯者も、こういった挨拶に慣れてきたのではないかの?」

「本来なら、ミュリーシアの仕事じゃないか?」

「それは、職人に金勘定をさせるようなものじゃな」


 餅は餅屋。あるいは適材適所と同じ意味のことわざを口にしつつ、ノインが戻った焼き台へと移動する。


 今日のイベントは、端的に言えばバーベキューだった。


 ミュリーシアが作った小さな石棺のような箱に、薪をくべる。そして、上からすのこ状の石板を被せている。


「なんというか、DIYスキルの高い女王様ですよね」

「ふっ。できることは、自分でやらねばな」


 それが王国の法だと、ミュリーシアが胸を張る。

 レイナが反射的に憎しみの波動を叩き付ける前に、リリィが間に割って入った。


「トウマ! 早速お肉を食べるのですよ!」

「ああ、そうするつもりだけど……」

「急がないと、リリィは冷静さを欠こうとしているのです」


 見れば、すみれ色の瞳から光が消えかけていた。

 初めて会ったときのように、凶暴化されてはたまらない。


 そのまま、ノインが待つバーベキュー会場へと向かう。


「ようこそいらっしゃいました。このような役目を与えていただき、本日はありがとうございます」


 歓迎会なのに、働かせてすまない。

 そんなトウマの言葉を先回りして封じ、ノインが串焼きを差し出した。


 といっても、焼き鳥よりはマンガ肉に近い。いわば、肉塊だった。


「こちらは、昨日陛下が持ってきてくださったストーンスキンディアを調理したものになります」

「見た目は、普通のお肉に見えますね。おっきいですけど」

「まずは、食べてみよう」


 二人揃って「いただきます」と口にし、ストーンスキンディアにかぶりつく。

 予想していたような硬さはない。簡単に、歯で噛み千切れる。


「ふあっ……」

「これは……」


 一口食べたトウマとレイナが顔を見合わせた。


「共犯者、妾が取ってきた鹿はどうじゃ?」

「食感が面白い」


 本来は石のように固い、ストーンスキンディアの皮。

 それが脱皮直後ということで、ぷちんっと弾力のある食感をもたらしてくれる。


「鹿のわりにジューシーで、美味いな」


 そして、その下にある脂がまた絶品だった。


「しつこさはないのに、ただひたすら美味しいですねこれ」

「皮と一緒に味わえるのは、脱皮直後のみとなりましょう。この美味しさは、今だけ味わえるものかと」

「あぶら、あぶら、あっぶっらっ。肉の旨味は、脂の旨味なのですよ~」


 当然ながら、味付けは塩だけ。

 だが、沸騰湾の塩は旨味が強いような気がする。


 それに、血の滴る肉の塊にかぶりつく。これは、野生が刺激されテンションが上がる体験だ。


「ワイルド~なのですー」

「センパイと契約して、変な語彙が流れ込んでるんじゃないですか?」

「意思疎通スキルの翻訳精度の問題だろう」


 契約は、そこまで強いものではない。


 トウマは順調に食べ進め、一息ついたところでミュリーシアとレイナに軽く頭を下げた。


「それより、今日は助かった。よく、あの危険な植物を倒してくれた」

「まあ、それほどでも……ありますね」

「あれだけじゃないかもしれないが、事前に知っているかどうかはかなり変わるからな」

「見つけ次第、優先的に狩るようにしようかの」

「あ、それはあたしも助かります。予定通りなら、あたし的にはかなり使える素材なので」

「使い道があるのなら、それでいい」


 そう。今回の収穫は、そんな程度では収まらない。

 ミュリーシアとレイナの仲が、想像していたよりずっと友好的だった。


 トウマには、なによりもそれがうれしかった。


「正直な話、勝負を度外視して協力してくれるとは思わなかったな」

「あたしだって、ちゃんとTPOをわきまえています」

「うむ。まったく心外じゃな」


 両脇から責められるが、トウマは肩をすくめるだけ。日頃の行いを考えたら、それが妥当な評価だろう。


「少し、安心したよ」

「別に、嫌ってるわけじゃないですし? 気にくわないところはありますけど」

「ふっ。まあ、そういうところも鷹揚に受け入れるのが」


 いい雰囲気だ。

 なんの問題もないなと、珍しくトウマが本物の微笑を浮かべる。


「これなら、二人には島に残ってもらって大丈夫そうだ」

「は?」

「は?」


 まったく他意も邪気もない言葉。

 だからこそ、問題。


 不用意な言葉を発した主人に、ノインは天を仰いだ。

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[一言] 二人「「は?(威圧)」」 このプレッシャーに耐えられるのか……?
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