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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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067.歓迎会の計画

 今日は、少しだけ曇り空だった。

 晴天続きだったが、そろそろ雨が降るのだろうか。


 そんな心配をしつつ、トウマはC班――リリィの母親たちゴーストシルク組の仕事場へと向かう。


 ゴーストタウンの傍らに群生する、ふさふさした細い緑の植物。

 雑草としか見えないが、その正体は幽玄草。


 星の光と幽霊の息吹で育つという特別な亜麻。

 それを加工したゴーストシルクは、絹のような滑らかさと麻の丈夫さ。綿の暖かさを合わせ持つという。


 このグリフォン島の特産品候補のひとつ。


 売り込みはまだこれからだが、人間も“魔族”も想像していないだろう。

 まさか、その生産にゴースト自身の手が入っているなどとは。


「そっちは順調か?」

「センパイ、見回りですか。お疲れ様です」

「ああ。みんなに、負の生命力を供給がてらな」


 一人でやってきたトウマに、レイナが満面の笑みを浮かべた。

 そっとサイドテールに触れ、トウマの横に移動する。


「なにか、やることがあるなら手伝うが……」

「とりあえず、今日はみんなだけでゴーストシルクが作れるかのテストですね。なので、見守るしかやることはありません」

「それはそれで難しいな」


 大地や植物に関するスキルを持つ緑の聖女。

 最初に見せたように《ファブリケーション》のスキルを使用すれば、あっという間に生地ができあがる。


 しかし、それでは属人性が高すぎて事業としては問題だ。


「実は、そうでもないかもしれないんですよね」

「違うって、なにがだ?」

「ゴーストシルクに関しては、あっちが本職かもしれないってことですね。簡単に言うとですけど」


 並んで見守る二人の前で、ゴーストたちが幽玄草を上から下まで優しくゆっくり触れた。

 片手で固定し、もう片方の手で引き抜くように動かす。すると、ふさふさした細い緑の茎がするするっと解けて繊維状に変わった。


「すごい。おとぎ話みたいだな」

「ファンタジーですよね」


 傍目には平静に見えるが、実は興奮しているトウマ。その隣で、レイナが満足そうに拳を握る。緑がかった瞳がキラキラと輝いていた。


「でも、まだこれからですよ」


 レイナが指さす先を見れば、リリィの母親を始めとするゴーストたちは手を止めていない。


 紙縒りを作るように手の中でこすると、繊維になった幽玄草がするすると寄り集まり糸状になった。

 それがさらに組み合わさって一枚の布へと変わっていく。そして、その布がひとつになって反物に変化する。


 まるで、手品でも見ているかのよう。


「触ってるだけだよな?」

「触っているだけですね」


 確認しつつ、トウマとレイナはゴーストたちへと近付いていった。

 できあがった布――ゴーストシルクを受け取るが、見た目も手触りもレイナが《ファブリケーション》を使用したものと遜色ない。


「他の植物は腐るだけなんですよね。たぶん、幽玄草との相性の問題でしょう」

「驚いた。本当にすごいな」


 驚きの声を上げつつ、トウマがゴーストたちに手を触れ負の生命力を分け与える。

 輪郭や表情ははっきりしないが、気持ちよさそうだった。


 リリィほどではないが、うれしそうに身をよじらせるとゴーストたちは作業に戻っていく。


 それを見届け、トウマとレイナも幽玄草の群生地から離れる。


「なんだか、前よりも幽玄草が茂っているように見えるな」

「気付きましたか? あたしが、増やしてますから」

「さすが緑の聖女だな」

「ふふんっ。まあ、それほどでも……ありますね!」


 トウマの幼なじみは、実に正直だった。


「これで、あたしのスキルを小麦とか野菜作りにも振り向けられますね」

「小麦……パンか」

「ええ。今までは、小麦を作ってもパン種がなかったりしましたからね」

「その辺りは、私めがなんとかいたします」


 どこからともなく現れた小柄な和装メイド――ノインが、手を伸ばしてできたてのゴーストシルクを受け取った。


「いきなり出てきましたね」

「申し訳ございません、奥様」

「は? あたしはそんなにちょろくないんですけど?」


 くるりと回って、レイナが目を背ける。

 ちょろいかちょろくないかでいえば、ちょろい寄りだった。


「ノイン、なにか用事か?」

「ご主人様。リリィ様から、ご相談がとのことでございます」

「相談?」


 リリィと相談。

 言葉が結びつかなくて困惑していると、金髪の三つ編みとスカートを翻して本人が飛んできた。


「トウマ!」

「問題でも起こったか?」

「問題なんか、最初からないのです」


 すぽんっとトウマの腕の中に収まり、リリィがすみれ色の瞳を上目遣いにする。

 実体はないが、こうしていると触れ合っているような実感があった。


「ノインとニャルヴィオンの歓迎会はどうするです?」

「あっ、それがありましたね」

「なにかゲームでも……って話だったよな」


 ノインはともかく、ニャルヴィオンはなんでもいいとはならない。

 今は、火口のダンジョンへと向かっている蒸気猫スチームキャット


 キャタピラの上に香箱座りする、巨大な猫にできるゲーム。


「鬼ごっこは……どう考えても噛み合わないな」

「リリィは捕まらないのですよ。絶対逃げ切るのです!」

「逆に、あたしたちは速攻捕まりますね」

「かといって、テーブルゲームも難しいな」


 かなりの知能はあるので、教えればルールは憶えるだろう。

 だが、道具がない。


「地面に書いて、○×(まるばつ)でもやります?」

「決着つかないだろ、あれ」


 三目並べは、お互いに最善手を取ると必ず引き分けになるゲームとして知られている。


「ノインの希望は?」

「準備を手伝わせていただければ、特に」

「それじゃ、歓迎会にならないんだが……」


 ゆっくりと“王宮”へと戻りつつ、なにかアイディアが転がっていないか周囲を見回す。


 親方たちE班が、屋根の取り付けなど温泉のブラッシュアップに励んでいた。ミュリーシアが削り出した石鎚で、木同士をはめ込んでいる。


 その技術は素晴らしいが、残念ながら歓迎会の参考にはならない。


 A班はグリフォンの頭。B班はグリフォンの翼。D班は火口のダンジョンへと遠征していない。ちなみに、ミュリーシアはB班に同行している。


「可能であれば、歓迎会の催し自体が国の発展に寄与するものであればうれしく思います」

「土木工事大会でもやればいいのか?」

「そういうことならいっそ、班ごとの対抗戦形式にしちゃいます?」

「そのアイディア自体はいいな。でも、土木工事大会じゃな……」

「ニャルヴィオンが圧勝しちゃうんじゃ、面白くないのですよ?」


 リリィの鋭い指摘。

 はっとして、トウマは足を止めた。


 しかし、それは空の上から聞こえてきた別の声によるものだった。


「共犯者よ、そこで止まるのだ」


 見上げると、翼を生やしたドラクルの姫。

 それから、巨大な。それこそ、ニャルヴィオンと遜色ないほどの灰色の塊が浮かんでいた。


 それが、徐々に大きくなっていく。


 こちらに近付いている――落ちようとしているのだと気付いたのは、ずんっと音を立てて広場に


「でっかいシカさんなのですよ!」


 頭部から生えた立派な角は、山や観光地にいる草食動物を彷彿とさせる。

 首を綺麗に首の皮一枚残して切られているため、動物特有のギロリとした綺麗な目と目が合った。


「おつかれさま、シア。怪我もないみたいだな」

「当然のことよ」


 あっさりと。しかし、羽毛扇で口元を隠して上機嫌にミュリーシアが応じる。


「森の主かなにかですか」

「いや、奥のほうに普通におったぞ」

「この島、人外魔境が多すぎません?」


 もしかして、グリフォンの翼にまで魔力異常が発生しているのだろうか。

 沸騰湾にダンジョンと、これだけあれば充分なのか。それとも、二度あることは三度あるのか。トウマには、判断が付かなかった。


 それよりも、確認しなくてはならない点がひとつあった。


「大きさは、もうなにも言わないとして。これ、石でできてないか……?」

「うむ。ストーンスキンディアという」

「石の肌の鹿か……」

「うむ。出会えて幸運であった」


 トウマは、レイナに目を合わせた。

 レイナは、無言で首を振った。


「しかも、こやつは脱皮したてでな。石の外皮も一緒に食せるのだ。珍重されておる食材じゃぞ」

「それは、良いことをうかがいました」


 ノインが、口元だけで笑う。

 次の瞬間、いつの間に集まっていたのか。おばちゃんたち、C班のゴーストシルク組がストーンスキンディアに群がっていた。


「解体や処理は、私めらにお任せを」

「ああ、うん」

「殻ごと食べられるって、カニですか」

「ソフトシェルクラブというやつか。食べたことはないけどな……」


 魔力異常が絡めば、そういうものなのだと納得はできる。

 しかし、普通の動物に分類される生物がこれだと理解が追いつかない。


「そういえば、共犯者たちはなにを話しておったのじゃ?」

「ん? ああ。ノインとニャルヴィオンの歓迎会でなにをやろうかってな」


 トウマは、“王宮”へと戻りながら今までの経緯をミュリーシアに説明した。

 背後からは、ゴーストたちを指揮するノインの声が聞こえてくる。


「ふむ。ならば、狩りで勝負というのはどうじゃ? レイナが言うたように、班対抗で良かろう」

「それは、普段からやってるB班が有利にならないか?」

「なら、適当にハンデをつけましょう。例えば、他の班に比べて遅くスタートするとかならどうです?」

「ありだな。もしくは、大きさとか数とか部門を複数作るかだな」

「両方やっちゃえば、いいんじゃないですか?」

「ああ。計画は詰めるけど、基本はこの方向でいこう」


 バランスを取るため、ミュリーシアをどこかの班に編入するのもいいだろう。


「できそうな気がしてきたな」

「そうですね」

「やるか、狩猟大会」


方針は決まった。

 問題があるとしたら、ストーンスキンディアのお陰でしばらくは食料に困りそうにないところだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 保存しきれないくらい獲物が増える問題もどうにかしないと。
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