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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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062.聖域なき行政改革

「それでは、本日より私めも調理担当に参加させていただきます」


 かまどの他は、ミュリーシアが用意した最低限の調理器具しかない“王宮”の調理場。

 アメジストのような紫色の瞳を輝かせ、小柄な自動人形オートマタが厳かに宣言した。


「初日から、そんなに張り切らなくてもいいんだが」

「初日どころか、帰ってきた直後ですけどね」


 火口のダンジョンから、ゴーストタウンへの帰還。

 元々の人数に加えて、ノインとニャルヴィオン。


 ミュリーシアがまとめて運ぼうとしたが、トウマが止めた。そのためニャルヴィオンに乗っての帰り道となったが、それ自体に問題はなかった。


 ミュリーシアが、拗ねたこと以外は。





「共犯者は、随分楽しそうだの」

「別に普通だと思うが」


 ニャルヴィオンの背中はふかふかで、キャタピラにもかかわらず振動も抑えられていた。その方向性や倫理感はともかく、地霊種ドワーフの技術力は本物だ。


 座席があるわけではないので安定性には欠けるが、その分風が気持ちいい。暗い夜道も、ニャルヴィオンの目が光って照らしてくれる。


 総じて、快適と言っていいだろう。


「そうかの? てっきり空を飛ばずに安心したとでも思っているのではないかと思うたがの」

「いや……。もし楽しそうに見えるとしたら、あのとき思ったことが叶ったからかもしれないな」

「なんの話じゃ?」


 なぜかニャルヴィオンには乗らず並行して飛んでいるミュリーシアを見上げながら、トウマは続けた。


「レッドボーダーに乗せてもらって飛んでるとき、ミュリーシアも飛んでいただろう?」

「うむ。妾は戦闘中じゃったが」

「いつもみたいにつり下げられてるんじゃなくて、一緒に飛んでいる感じがしていいなと思ったんだ」

「共犯者……」

「だから、こうやって……って」


 言葉を遮って、ミュリーシアがトウマの隣に座った。特に気にすることなく、ニャルヴィオンはキャタピラを回して走り続ける。


「まあ、そこまで言うのであれば厄介になろうではないか」

「そこまで言ったつもりはないんだが?」

「ちょっとこの吸血鬼ちょろすぎません?」


 レイナの野暮な言葉ツッコミを、ミュリーシアは当たり前のように黙殺した。





 と、最終的に機嫌は直ったので問題はない。

 レイナはあきれたりむっとしたりしたが、地上移動手段を否定するわけにはいかず直接的なツッコミは控えた。


 ゆえに、なにも問題はなかった。


 表面上は。


 多少時間がかかったのは、仕方のないことだろう。


 それに、今の問題はノインに調理場を任せるか否かだ。ずっと担当していたリリィがおばちゃんと呼ぶゴーストも、腕組をして見守っている。


「まあ、帰ってきたばっかりだっていう他にも問題はありますけどね」

「なるほど、私めの手腕に不安があると。そういうことでございますね、奥様?」

「ドワーフって、石炭をかじるんですよね? それなのに、人間が食べるような料理ができるんですか?」


 ずいっと、レイナが距離を詰める。

 しかし、ノインは冷静そのもの。


「奥様のご懸念も、ごもっともかと。しかしながら、私めの姿を見ていただければご納得いただけるものと存じます」

「そういえば、ドワーフではなく人間なんだな」

「その通りでございます」


 肯定しつつ、華麗に一礼。前下がりボブの黒髪が垂れて、両耳に付けたピアスが露わになった。


「様々な種族・状況にあわせた調理法をマスターいたしております。残念ながら、ほぼ披露することはできませんでしたが」

「そんな人材を、なんでロボットに閉じ込めたんですかねぇ」

「それは、未練が残るというものよな」


 ミュリーシアが頭を振ると、銀色の髪がさらさらと光を反射した。


「じゃが、共犯者はそなたの歓迎会を行うつもりなのではないかの。もはや、伝統じゃからな」

「身に余る光栄ですが、不要に願います」

「そういうわけにもいかないと思うんだが」

「お気遣いは大変ありがたく存じます。しかしながら、皆様方と私めの料理を同じ卓に並べるのはいささか問題が」

「それはそうか……。石炭だからな……。」


 見た目もそうだが、衛生的にもどうなのかという状態。トウマも、諦めるしかなかった。


「なら、歓迎会は別に開けばいいじゃないですか。食事はできなくても、ゲームとかはできるでしょうし」

「共犯者たちの世界のゲームか。興味があるのう」

「人狼でもやりますか? まっさきに吊ってやりますけど」

「そういうゲームではなかったはずだが」


 それに、ニャルヴィオンが参加できないのも問題がある。


「リリィは、おなかぺっこぺこなのですよ~」


 そのニャルヴィオンと外で戯れていた。正確には、他のゴーストたちに蒸気猫スチームキャットを紹介していたリリィが“王宮”へ乱入してきた。


「……ノイン、頼む」

「お任せください。皆様、申し訳ございませんがしばらくお待ちくださいませ」


 完璧なお辞儀をして、自動人形のメイドは自らの存在意義へと立ち向かった。





「これ絶対、料理は下手なドジっ子パターンだって思うじゃないですか?」

「思わないが?」


 それは失礼すぎると、トウマは視線でたしなめる。

 レイナは舌をぺろっ出して、ごまかした。


「食事が必須ではない妾にも分かるのう。今までよりも、一段レベルが上がっておる」

「良い魚貝がございましたので」


 ゴーストたちが集めてきていた、新鮮な魚介類。

 正確には、スケルトンシャークが捕まえたものを運んで来た。トウマの知らないところで、契約アンデッド同士の交流が行われていたらしい。


 その魚介類に、ハーブや自生している野菜をまとめて煮たアクアパッツァが今日の主菜だった。


「おいしーーーーのですーーーー」

「正直、日本……故郷で食べた料理より美味いと思う」


 リリィのリアクションも、あながち大げさとは言えない。


 ごった煮と言ってしまえば、それまで。

 調味量が足りないと言えば、その通り。


 それなのに、口いっぱいに広がるこの旨味はなんなのか。もちろん、このグリフォン島で食べてきた様々な食材も料理も美味しかった。


 しかし、それらとはステージが違う。


「まるで、魔法だ」

「もったいないお言葉です」

「一体、どうやったんです? 見当もつかないんですけど」

「それは、自動人形の秘密でございます」


 そっと人差し指を唇に当て、たおやかに微笑む。

 コケティッシュで、とても魅力的だった。


「うっ。センパイ、やばくないですか?」

「玲那は語彙力をどうにかしようか」

「それより、妾はワインが欲しくなるのう」

「そこは、交易に期待したいほうがいいんじゃないだろうか」

「あたしとミュリーシアの足踏みワインということで、売りに出すんですか?」

「違う」


 短く否定したトウマは、付け合わせ……というにはボリュームのある串焼きに手を付けた。

 いつものマッスルースターだろうと思ったが、これもまた段違い。


「これもまた美味い……」

「すごいのです。びっくりなのです。ニワトリも喜んでいるのですよ!」

「ダンジョンで活動され、皆様空腹を憶えられているからかと」


 謙遜するノインの周囲を、リリィがぐるぐる飛び回る。


 こうして賑やかな夕食を終えた後。


「奥様のお陰で、良いハーブが見つかりました」

「いや、これはどう考えても淹れる腕のお陰ですよ」

「ありがとうございます。ところで、僭越ながら確認したいことがございます」


 フレッシュハーブティーをサーブしながら、ノインが遠慮がちに目を伏せた。


「なんだろう? 答えられることなら、なんでもいいけど」


 甘く香ばしいリンゴのような香りにリラックスした気分でいたが、切り出されたのは意外なことに仕事の話だった。


「北部グリフォンの頭での採集と塩作り。東部グリフォンの翼での狩猟と下ごしらえ。ゴーストシルクの加工。建物の補修。ゴーストの皆様方の役割は、以上となりますでしょうか」

「たぶん、そうだな」

「しかし、どなたが従事されるかは決めていないとか」

「そこは適当に任せておったのう」


 トウマたちがいろいろなことに、手を取られて指示が徹底できていなかった。これは、純然たる事実だ。

 今日も、ちょっとグリフィンの爪を探索に行ったらダンジョンを発見してしまった。それくらい、忙しい。


「なぜ、このような聞き取りをしたかと申しますと――」

「ああ。これから石炭が必要になるからだな」

「ご慧眼、恐れ入ります」


 さすがに、毎日自分一人でというわけにはいかない。ニャルヴィオンの分もある。そうなると、人手が必要だ。示唆されれば、すぐに思い当たる。


「分かった。じゃあ、その辺は全部ノインに差配してもらおう」

「承知いたしました……はい?」

「いいよな、シア」

「うむ。良きに計らえ」

「一回言ってみたかったって感じですね」


 なんでもないことのように話を進めるトウマたちに、円卓の外に立つノインはアメジストのような紫の瞳をしばたたかせる。


「そうじゃな、役職は宰相秘書官で良かろう」

「うん。みんなには俺からも言っておくから、協力進めて欲しい」

「は、はい……」


 それで話は終わったと、石の円卓は雑談の様相を呈す。


「中間管理職ってなんのためにいるのか分かってなかったですけど、こういうことなんですねえ」

「ああ……。無駄に、昔からいるわけじゃないんだな」

「女王じゃ大臣じゃと言うても、それだけで国は回らぬというわけじゃな」

「承知いたしました。一命を賭して、務めさせていただきます」


 奉仕精神に火が点いたのか。ノインの全身からやる気がみなぎった。


「では、僭越ながら今後のご予定を把握いたしたく」

「明日のことは特に決めていないけど、食事の後に行きたい場所がある」

「もうですか? あ、あたしはパスしておきます」

「ならば、妾は同行しようかの」

「承知いたしました」

「ああ、幽霊船の主に会いに行く。ノインも一緒にな」

「かしこまりました」


 説明されずとも、要件を理解したようだ。

 ノインの手にぎゅっと力が入る。


 少しだけ、気分が高揚していた。

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[一言] 性転換か……魂と肉体の性的不一致ってどうなんだろう?
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