表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/295

056.ワスプアイズ

「まあ、それはそれとしてこの部屋を調べねばなるまいて」


 黒いドレスの裾をひるがえすことなく。ミュリーシアは優雅に振り返った。代わりに星空のような銀色の髪が舞い、否応なく注目させられる。


「ああ、そうか。それがあったか」


 飾り板の向こう。ほの昏い道へと進みかけていたトウマが歩みを止めた。


「でも、マジックアイテムは望み薄じゃないか?」

「どうでしょうね? 弱めの――魔力が低いモンスターだったとしても、あの数でしたから」

「そうか。結局は、魔力が世界に還元されるかどうかの問題になるか」


 一〇〇の魔力を持つモンスター一体も、一の魔力を持つモンスター一〇〇体も総量としては変わらない。

 それならば、マジックアイテムが残されている可能性はあるということらしい。


「マジックアイテム、楽しみなのですよ~」

「でも、リリィちゃんは装備できないですよね。残念です」

「その分、トウマたちが強くなれば問題ないのです」

「ああ、もう。リリィちゃんは、本当にいい娘ですね」


 レイナがリリィの頭を撫で、尻尾の付け根を撫でられた犬のようにリリィが身をよじる。

 羽毛扇をぱっと開き、ミュリーシアがいたずらっぽく微笑んだ。


「レイナと違ってかの?」

「ええ。あたしは、ペアリングの代わりを期待していますからね」


 リリィを撫でたまま真顔で言うレイナに、ミュリーシアは肩をすくめる。


「共犯者よ、甲斐性を見せる場面のようじゃぞ」

「運次第なのに、どうしろと。探すしかないのは分かってるが」


 溢れ出たマグマが冷えて固まり、でこぼこになった地面。

 レッドボーダーのときのように、分かりやすく出てきてはいない。そもそも、マジックアイテムがドロップしているとも限らない。


 有言実行。トウマはしゃがみ込み、小さななにか――それこそ指輪でも見逃さないように捜索を開始した。


「ハチさんだったら、ハチミツを落っことしてほしいのです」

「ハチミツですか。それでもいいですね」


 とはいえ、危機を切り抜けて多少気が緩んでいるのだろう。

 集中していないわけではないが、自然とおしゃべりが始まった。


「砂糖があるのに?」

「なにを言っているんですか、センパイ。砂糖とハチミツは別物ですよ」

「そうなのです。砂糖もハチミツも、みんなちがって、みんないいのです」

「ああ、うん……」

「共犯者よ、気持ちは分かるが妾を見てもなにも出てこぬぞ」

「俺が悪かった」


 地面を捜索しながら、トウマは白旗を掲げた。


 男性の国民が増えないことには、どうしようもない。

 なお、売り物があれば悩みつつも喜ぶのでヘンリーのことは考慮に入れないこととする。


「仕方ないですね。センパイはきっと、盾の対になる剣とかがいいのでしょう」

「剣が来たら盾! 剣が来たら盾! なのです!」

「そんなことはない。個人的には、日常生活で役に立つようなマジックアイテムがいいんだが」

「あ、ドライヤーとかほしいですね」

「ああ。水道……勝手に水が湧く水瓶とか、そういう方向性だな」

「夢がないのう」


 ミュリーシアの声に、非難めいた響きはない。

 むしろ、トウマらしいと白い牙を覗かせる。


「なにか見つけたのです」

「ここに、なにかあるな」


 偶然にも、その声が上がったのは同時。


 トウマの視線の先。マグマが冷えて固まった亀裂に、きらりと光るものがあった。


「妾が取り出そう」

「こっちは、リリィが取れるのです!」


 ミュリーシアが羽毛扇をあっと開くと、影術で縒った糸がドレスから伸びる。それが亀裂に潜り込み、まるで釣りでもするかのように光る物体を取り出した。


「器用だな……」

「この程度なんでもないわ」

「それで、一体なにが出てきたんです?」

「こっちは指輪だったのです!」


 リリィが天高く掲げたのは、銀の台座に六角形のルビーがはめ込まれた指輪だった。


「同じ物みたいだな」


 そして、トウマが見つけたのも同じ物。


「指輪じゃな」

「指輪ですね」


 レイナが、二重の瞳をさらに大きく見開く。緑がかった瞳が、さらにきらきらと輝いていた。


「これはもう、運命なのでは?」

「その場合、共犯者とリリィの運命ということにならんかの?」

「うっ。いや、でもリリィちゃんなら……」


 サイドテールを振り乱して苦悩するレイナ。

 その間に、トウマはミュリーシアから指輪を受け取って左手にはめた。


「……なんだか、涼しくなってきたような気がするな」


 明らかに、体感気温が下がっていた。

 まるで《エボン・フィールド》を展開していたときのように熱気も感じない。


「熱への耐性でしょうか」

「環境への適応かもしれぬぞ」


 環境への適応であれば、雪山でも快適に過ごせるということになるのだろうか。だが、今は確かめる術はない。


「なるほど~。名前はどうするのです?」

「任せた」


 耐性の指輪と言いかけるが、素早く飲み込む。

 トウマの学習能力は高かった。


「まあ、あんまり飾らずワスプアイズとかでいいんじゃないですか? 宝石も六角形ですし」

「ハチの瞳の指輪か。ひねりはないが、良いのではないか?」

「じゃあ、トウマ。こっちの指輪を、レイナにつけてあげるのです」

「ああ、分かった」


 リリィから指輪――ワスプアイズを受け取り、トウマはレイナの手を取った。


「必要があったとはいえ、大切な指輪をジルヴィオに渡してしまって悪かったな」

「いえ。まあ、それはあたしも賛成したことですし?」


 語尾を上擦らせて、レイナが挙動不審に視線を彷徨わす。

 利き手では邪魔になるだろうと、左手の人差し指にワスプアイズを通す。サイズを自動調整する機能があったようで、ぴったりとはまった。


「うう……。迷いますね……」


 せっかくトウマにはめてもらったのだから、そのままにするか。それとも、薬指にはめ直すか。レイナは、選択を迫られる。


「さて」


 ミュリーシアが羽毛扇を開き、飾り板の向こうに開いた道へと向き直った。その表情は、誰からも見えない。


「他にはなにもなさそうじゃ。先に進むとするかの」

「リリィの前は、誰にも歩かせないのですよ!」


 リリィが先行し、あたふたとレイナが追いかける。


 暗い、緩やかな下り坂。

 傾斜はそれほどでもなく、継ぎ目のない石造りで足下も問題ない。


 しばらくして、レイナも落ち着いたのか。周囲に警戒をしつつ、隣を歩くトウマに話しかける。


「そういえば、さっきミュリーシアが言っていた階層核のことなんですけど」

「ああ。とりあえず、重要な存在というのは伝わってるけど」

「はい。定義的には、その階層で最も魔力を保持している存在。一般的には、いわゆるモンスターのボスですね」

「無力化するまで、モンスターを無尽蔵に生み出しつつづける魔法陣という例もあるぞ」

「その階層における、魔力異常の中心ということか……」


 前を行くミュリーシアが、軽く羽毛扇を振る。正解、ということらしい。


「ダンジョンがある限りは、しばらくすると復活しちゃいますけどね」

「うむ。ゆえに、同じ階層核の討伐を繰り返す場合もあるの。階層核となれば、確実にマジックアイテムを残すからの」

「知らないだけで、光輝教会もやっていそうだな」


 適切に管理できれば、マジックアイテムが確実に手に入るマラソンのようなもの。

 このダンジョンも、そうできる可能性がある。


「まあ、俺も玲那もその管理の手からは逃れられたけど」

「その通りじゃな。愚者も時に鏡となるというからの」


 反面教師と同じ意味だろうか。

 ミュリーシアの言葉に、トウマはうなずいた。


 そのまましばらく、薄暗い下り坂を進み――


「トウマ! でっかい扉があるのですよ!」

「思わせぶりな、扉じゃな」

「いかにもですね」


 ――高さ10メートルはある、巨大な門に出くわした。

 火口にあったダンジョンの門に、少し似ている。


「そうか。ここで、さっきの鍵を使うのか」


 しかし、その予想は外れた。


 重低音を響かせて、自動的に扉が開いたのだ。


「結局、あの鍵はなんだったんだ?」

「せっかく取ってきたのに、失礼なダンジョンなのです」


 ぷんぷんと、リリィが頬を膨らませる。

 怒ってはいるのは明らかだが、かわいい以外に言葉がなかった。


「不満は分かるが、濃密な魔力が漏れ出ておるぞ」

「間違いなく、階層核です」


 巨大な蛇が這いずるような音を立てながら、扉が開く。徐々に、その向こうの景色が露わになる。


 そこは、そこが小さく天井が広いすり鉢状の空間。


 扉は、その中腹当たりに設置されていた。

 どこからともなく照明が灯り、全景が露わになる。


 壁には、無数の棺が安置――立てかけられていた。そのひとつひとつから、黒いケーブルがへその緒のように伸びている。


 その先は、うずくまる巨人につながっていた。


 暗く赤い。赤銅の装甲をまとった巨人に。


「ああ、そうか。ロボットの図面……」


 なんとか反応できたのは、トウマだけ。


 それ以外の全員が驚きに固まっている間に、無数のケーブルが脱落した。


 それが起動の合図。


 背中の煙突から煙を噴き出し、赤銅の巨人が大地を踏みしめ直立する。


 直方体を横に倒した両眼に、黄色い光が灯った。


 あの紙束に書かれていたロボットの絵。

 ただの概念図だと思っていた。


 あれが実際に作られていたとは、予想外にもほどがある。


 あまり変わらないトウマの表情が、わずかに引きつった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 図面付きロボ、対霊処理されてなかったらリリィが適当に断線させたら勝てる予感……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ