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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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034.アンデッド・パイレーツ

 アンデッドには、大まかに三種類ある。


 神蝕紀に、神々の手によって創造されたモノ。

 負の生命力に未練が宿り、自然に生まれたモノ。

 死霊術師が創造し、支配したモノだ。


 しかしながら、神々に創造された原初の不死種。俗に永遠の戦士と呼ばれる存在は、すでに滅び去っている。


 そうなると、あのスケルトンは自然発生したモノか。背後に死霊術師がいるかのどちらか。


「共犯者よ。あれは、倒してしまっていいアンデッドかや?」


 甲板を埋め尽くすスケルトンを前に、ミュリーシアはぱちりと音を立てて羽毛扇を閉じた。


「未練を宿したモノであれば、話し合うこともできよう」

「いやでも、見るからに話が通じそうにはありませんよ?」

「リリィも、最初はそんなものであったぞ」

「ええ……。あのリリィちゃんがですか?」


 好きな原作が実写化。ただし、演技は期待できないキャストで……と聞いたときのような表情を浮かべるレイナ。


「ああ……。どうやら、話はできないみたいだ」


 トウマが、静かに頭を振った。

 どうやら、死霊術師の感覚でその辺りを探っていたらしい。


「じゃあ、モンスター扱いでいいってことですね?」

「魔力異常で生まれたわけではないはずじゃが、見敵必殺なのは変わらぬな」

「いや、俺がやろう」


 やる気満々のレイナとミュリーシアを制して、トウマが前へ出た。

 様子を見ていたスケルトンたちが、雪崩を打って襲いかかってくる。


 カタカタ。カタカタ。カタカタ。


 骨が鳴る音は、不吉そのもの。


「魔力を10単位、加えて精神を5単位、生命を5単位。理によって配合し、不死種を威伏す――かくあれかし」


 しかし、その重圧など遥か遠くから目にしただけの魔都にも及ばない。

 トウマは、淀みなくスキルの詠唱を終えた。


「《リビューク・アンデッド》」


 死霊術のスキル。その初歩である、アンデッドを威伏いふく――支配するスキル。

 トウマから漆黒のオーラが放射状に放たれ、カットラッスを手にしたスケルトンたちを塗りつぶした。


 自らが出すよりもさらに不吉なオーラを受け、スケルトンたちは再び動かなくなる。いや、動けない。


「もう、心配ない」


 スケルトンたちがひざまずき、髑髏しゃれこうべを垂れた。

 まるで、トウマの正しさを証明するかのように。


「センパイの死霊術、ほとんど見たことなかったんですが……。さすがに、アンデッドの専門家ですね」

「これは、共犯者一人で充分であったか」

「いや、さすがに魔力と体力は無尽蔵じゃないぞ」


 ふらつきこそしないが、先ほどから口数が少ない。

 レイナはトウマの背後に回り、さりげなく肩を支えた。


「まったく、センパイは昔から無理をするんですから」

「別に、この程度なら無理というほどじゃ」

「辛いけど動けるは、無理しているんです」

「……むう」


 自らの言葉の矛盾にも気付かず、不満に頬を膨らます。

 やや童顔気味なトウマの場合、可愛く見えるだけだった。


「さて、共犯者よ。無理でなければ、支配したスケルトンから情報を得られぬか探ってみてくれぬか?」

「ああ。すぐにやる」


 レイナの緑がかった瞳でにらまれるが、ミュリーシアは肩をすくめただけ。

 トウマはといえば、むしろ嬉しそうだ。


「随分と、センパイの扱いに慣れているみたいですね」

「聖女がおらなんだら、妾も止める側に回っていたであろうな」

「む。勝手に父親面ですか? 何様ですか?」

「王様では、あるのう」

「勝手に、俺の教育方針でもめないでくれ」


 まぶたを開き、精神集中から戻ってきたトウマがあきれたように言った。


「もめてはおらぬが、結果はどうであった?」

「未練と呼べるようなものは、残っていなかった」

「死霊術師の見解としてはどうなります、センパイ?」

「単に命令を受けて動いているだけだな」


 今のスケルトンは、その命令者がトウマに変わっただけに過ぎない。


「センパイ以外に、死霊術師がいるということですか?」

「もしくは、より上位のアンデッドがいるかだな」


 例えば、アンデッドナイトと呼ばれる不死種は眷属としてゾンビやスケルトンを多数従えていることがある。

 この種のアンデッドは、より強い負の生命力で縛り強制的に従属させている。死霊術と理屈は同じ。それを、手足を動かすのと同じく自然に行っているだけ。


「どちらかと言えば、そっちのほうがマシですかね」

「場合によるとしか言えないな」

「どうやら、結論が出るようじゃぞ」


 霧に覆われ、星明かりも届かぬ暗い甲板。

 その一角に、闇よりもなお黒い穴が出現した。


 そこから、浮かぶように現れた一体のスケルトン。


 身長は、2メートルを超えている。この場の誰よりも大柄。巨大と言っていいだろう。

 アイパッチをして派手な羽根飾りがついた丈の低い三角帽子をかぶっている様は、まさに海賊。

 その巨体に相応しい長大なカットラスと、フリントロックピストルによく似た魔導銃を手にしていた。


「噂の上位アンデッドですか。完璧に、海賊船ですね」

「あれは、アンデッドナイトの亜種だな」

「差し詰め、スケルトンキャプテンといったところかの」


 スケルトンキャプテンが出現すると同時に、精神集中を始めたトウマ。

 しかし、得られた答えは哀しいものだった。


「駄目だな。未練は奪いたいってだけだ。命も、財産も。なにもかもを」

「リリィちゃんが、特別なだけでしたね」

「ああ。俺もご飯を食べたいゴーストなんて、聞いたことない」

「交渉の余地なし、じゃな!」


 ミュリーシアのドレスから影の杭が伸び、スケルトンキャプテンへ迫る。

 魔導銃から放たれた闇の弾丸が、杭を射抜き砕け散った。


 同時に、スケルトンキャプテンの足下に黒い穴が出現する。

 次の瞬間、トウマたちの目前に再出現し、そこからまたスケルトンキャプテンが姿を現した。


「ほう。やりおる」

「シア、少しだけ時間を稼いでくれ」

「任された」


 ミュリーシアの手に、影で編んだ大鎌が握られていた。

 闇の中、スリットの深いドレスをまとった美女が得物を振るう。


 光彩奪目。スケルトンキャプテンは一瞬動きを止め、慌てて長大なカットラスで影の大鎌を受け止めた。


「では、次は力比べといこうかの」


 ミュリーシアは、そのままぐっと踏み込んだ。

 これでは、瞬間移動どころか魔導銃を撃つ余裕もない。スケルトンキャプテンはその場に釘付けになり、骨が軋み、甲板が沈む。


「あの人、遠距離攻撃だけじゃなかったんですね」

「あれだけの力なんだ。当然だろう」

「……この船、壊れないですよね?」

「壊さないうちに、決着をつけよう」


 二人の脳裏に浮かんでいたのは、空へぽんぽんと投げられる偽竜の姿。

 トウマとレイナは、無言でうなずき合った。


「とりあえず、回復頼む」

「任されました。魔力を20単位。加えて精神を15単位。理によって配合し、活力を取り戻す――かくあれかし」


 モルゴールの時と異なり、触媒となる神樹は存在しない。

 しかし、聖女のスキルはその程度で制限は受けない。


「《プライマル・ヴィゴー》」


 自然の活力を注ぎ込まれ、トウマの全身に力が戻る。

 険のある瞳には、闘志すら灯っていた。


「魔力を40単位、加えて精神を10単位、体力を40単位。理によって配合し、衰亡の運命を導く――かくあれかし」


 詠唱が完了し、スキルが完成する。


「《コラプスフェザー》」


 空から、羽根が降ってきた。

 ただし、真っ黒な羽根が。


 柔らかそうで不吉なそれが、スケルトンキャプテンにまとわりつく。身をよじるがはがれず。さらに降り積もっていく。


「弱くはなかったが――」


 勇者、聖女、ドラクルの姫。

 さらに、勇者は死霊術師。


 勝ち目があるはずなどなかったのだ。


「――あまりにも相手が悪かったの」


 影で編まれた大鎌が、黒羽で拘束されたスケルトンキャプテンの巨体を縦に両断した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボロ船(人足付き)と魔導銃にカットラスが戦利品か……。まあまあかな?
[一言] 防衛用モンスには出来なかったか……
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