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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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026.再会と邂逅

「まさか、本当にここへ戻って来ることになるとはの……」


 背中から羽を生やし、トウマを影術で編んだハーネスで運んだミュリーシア。

 宙空に留まりながら、眼下の廃墟を赤い瞳で睥睨する。


 その表情は、達成感からは遠くかけ離れたものだった。


 数時間飛び続けた疲労は、確かにある。

 リリィたちを残してきた不安は、ずっと傍らにある。

 トウマの幼なじみの危機に間に合わないのではないかという焦慮も、存在している。


 しかし、廃墟となった魔都モルゴールへたどり着いた感慨は言葉にできなかった。


 同じ“魔族”のために、一人こもって不死種を率い。

 そして、使い捨てにされた場所。


 かつての偉容は面影もなく。

 腐肉漁りの巨大トカゲ――偽竜が徘徊しているとなれば、なおさら。


 素直に嘲笑うことができれば楽なのだろうが、それも性に合わない。


「まったく、急ぎでなければ偽竜どもを片付けておきたいところじゃが……」


 物事には優先順位というものがある。


「因縁の地というやつだの。数奇な運命だとは思わぬか、共犯者よ」


 死霊術師のスキル《シルヴァリィ・レギオン》を使用したせいで意識の戻らぬトウマの寝顔を一瞥し、廃墟の中心へと翼を向けた。

 銀を溶かして梳いたような髪が風になびき、滑るように黒影が飛ぶ。


 ここまで来れば、指輪を確認する必要もない。トウマの幼なじみ――レイナの居場所は、一目で分かった。


「緑の聖女のう。その名にふさわしき……とでも、言えばいいのかの?」


 長き時をアンデッドが闊歩し続けたモルゴール。

 負の生命力に満ち、正の生命力とは無縁だった魔都に巨木が生えていた。


 いくら魔力異常による環境変化が珍しくないとはいえ、これは奇妙だ。木が生えるにしても、もっと負の生命力に溢れた……禍々しい存在のはず。


 となれば、原因は明らか。


「共犯者の幼なじみか……緊張するが、先にゴミ掃除をせねばならぬな」


 張眉怒目。ミュリーシアの赤い瞳が、苛烈な光を帯びる。


 その視線の先には、巨木のたもとで目に見えぬ壁へと無感情に攻撃し続ける黒騎士たち。

 まるで、砂糖に群がる蟻だ。


 グリフォン島に発生したのと、同じ魔物がここにもいる。


 なぜ、こちらにも出現しているのか。

 疑問ではある。


 だが、ミュリーシアに確かめるつもりはなかった。


 トウマの幼なじみを回収し、一刻も早くグリフォン島へと帰る。


 そう、帰る場所なのだ。

 このモルゴールではなく、グリフォン島が。


 もう、なにも失うつもりはなかった。


「間に合ったのは良いが……不遜極まりない。万死に値するわ」


 女王の意志に従い、彼女のドレスから伸びた影が無数の杭と姿を変えた。

 それが雨のように降り注ぐ。


 黒騎士たちも盾を掲げて防御するが、影術の杭はそれを紙のように引き裂いた。

 そして、逃げ場もない。


 次々と、黒騎士の串刺しができあがった。


 これは戦闘と呼べるものではない。


 女王の名の下に行われた処刑だった。





「ジルヴィオ・ウェルザーリ……やってくれましたね」


 秦野玲那――レイナは、ぎりっと唇を噛んだ。

 緑がかった二重の目で、害虫のように群がる魔物を憎々しげに見つめる。


 


 しかし、遺恨を抱いている相手はモンスター――目の前の黒騎士ではない。緑がかった瞳に写しているのは、自らをこの地へと連れ出した光輝騎士の姿。


『トウマの力で、モルゴールは陥落した。それは良かった。快挙だ。だが、その過程で魔族に身柄を抑えられちまった。面目ねえ』


 ジルヴィオから話を聞かされた瞬間、レイナの視界は赤く染まった。

 わずかながら冷静さを保てたのは、話にはまだ続きがあったから。


『本来なら、どんな犠牲を払っても取り返すべきだ。だが、トウマのスキルは、まあ死霊術師なんだからアンデッドに特化しすぎている。モルゴールは落とせた。だから、もう用済みだっていう一派がいる』


 光輝教会と聖剣軍の権力争いに興味はない。本当に、砂粒一欠片ほどもない。

 だが、トウマが関係しているとなったら別だ。


『そいつらは、モルゴール陥落の功績をトウマから奪えることに気付づきやがった。見殺しにするのは、むしろ好都合ってわけだ』


 ここでレイナが過激な行動を選ばなかったのは、トウマの安全がすべてだから。

 指輪が正常に働かなかったのも、この話に信憑性を与えていた。


『トウマをみすみすさらわせたのは、オレのミスだ。オレはどうなってもいいが、トウマは絶対に助けたい。協力してくれ』


 とはいえ、ジルヴィオを全面的に信じていたわけでもなかった。


 疑いながらもジルヴィオとともにモルゴールへ向かったのは、他に手がかりはなかったから。


 そして、罠に嵌められてもどうにかできる自信があったから。


 それは、ある意味で正しかった。


 ジルヴィオが突き止めたというトウマの居所は、モルゴールの旧下水道。

 魔都は、地上だけでなく地下にも広がっており、完全に陥落したわけではなかったのだ。


 そのもっともらしい説明に乗せられ、身を隠しながらモルゴールの中心へと足を踏み入れたレイナ。


 そこで、魔力異常により発生したモンスターの群れに襲われた。


 魔族など、どこにもいない。

 地下への入り口もない。


 ジルヴィオは、その瞬間に姿を消していた。


 罠にはめられた。


 しかし、レイナの心に怒りはなかった。むしろ、自分を騙したことこそトウマが無事な証拠だと感じていた。


 対の指輪をなぞり、レイナは決意する。


 緑の聖女。そのスキルで触媒となる巨木を生やし、結界スキル《プライマル・サークル》を使用。安全を確保する。


 その上で攻撃系のスキルも使用したが、すぐにやめた。残念ながら、聖女のスキルは回復・防御特化。攻撃手段もあるにはあるが、無限に湧き出し続ける黒騎士相手には分が悪い。


 だから、《プライマル・サークル》の維持に注力し黒騎士の攻撃を凌ぎ続けた。


 トウマが、絶対に来てくれると信じて。


 それはなんら根拠のない夢。空想に過ぎなかったが、現実はレイナの信じた通りになった。


「不遜極まりない。万死に値するわ」


 鈴を鳴らしたかのような、涼やかな声。


 それが微かに聞こえたその時、漆黒の杭が降り注いだ。


 結界には一切、触れず。

 ただ、モンスター――黒騎士だけを殲滅する黒い雨。


 禍々しく。


 そして、美しかった。


 けれど、レイナがそれに驚愕したのはわずかな時間。


「一体……おにいちゃ……センパイ!?」


 頭上に視線を向けたレイナの視界に、影のような黒いなにかで縛られ宙づりにされたトウマの姿が飛び込んできた。


 しかも、宙づりにしているのはドラクル。


 トウマを捕らえたという、魔族と一緒にいる。


 ジルヴィオの証言は嘘だと分かっているのに、疑念は消えてくれない。

 レイナは、自分は聖女で良かったと心の底から思った。もしまともな攻撃手段があったなら、なにも考えずに使っていたかもしれないから。


「ふむ。その服装、共犯者の幼なじみで間違いないようだの」


 魔族が、こちらを見てうなずいた。

 相手は、こちらを知っているようだ。


「どうして、センパイが他の女と……? しかも、共犯者って……」


 こちらに接触するつもりなのか。ドラクルは、高度を下げていく。

 気を失っているのか、トウマは為すがままになっている。


 トウマが魔族に捕まった。

 この状況だけ見れば、それは嘘ではないようだ。


 しかし、その魔族はモンスターを一掃し、こちらを助けたように見える。


 わけが分からない。

 今にも駆け出したいのに、相手は空にいる。


 せっかく、トウマと再会できたのに。

 レイナは、緑がかった瞳で頭上の美女をにらみつけることしかできずにいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉足らずか! ……肝心の当人は意識不明w
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