254.ドラクルの姫と家の設計
「ぴぴぃ~~」
「コケー」
「コココココ」
「クケークケー」
トウマが外に出るなり、アムルタート王国の誇る鳥軍団が駆け寄ってきた。
「ピヨウス、元気そうだな」
「ぴぃっ!」
足下で立ち止まったピヨウスの頭を撫でてやりながら、魔力を分けてやる。
「ぴ~……」
自分から頭を押しつけてきて、気持ちよさそうに目を細めた。
懐いてくれると、自然と情も湧いてくる。
「ピヨウスの羽毛の布団、とても寝心地が良かったぞ」
「確かにふっわふっわだったのです、ふっわふっわ!」
「ぴぴぃっ」
照れているのか、ピヨウスが複雑に身をくねらせる。真似をして、リリィもふしぎなおどりを踊った。
ステカが見ていたら、深く感じ入っていたことだろう。
「クケー! クケー!」
「マッスルースター……」
すっかり放し飼い状態のマッスルースターだが、珍しく友好的にトウマの足下をぐるぐる回っていた。
「俺にそんな懐いてなかっただろ?」
むしろ、カースト的には下位だったはずだ。もしかしたら、ピヨウスの親ということで地位が向上したのかもしれない。
「……まあ、一緒に行くか」
「ぴぴぴぴぴ~」
「コココココ」
鳥類とゴーストの少女を引き連れ、トウマはミュリーシアが作業をしているゴーストタウンの南側へと足を向けた。
途中、温泉に差し掛かった辺りでトウマがリリィに話しかける。
「そういえば、ベーシアがリリィによろしくと言っていたな」
「また、勝手に旅に出て。仕方がないベーシアなのです!」
ぷんぷんっと頬を膨らますが、そこまで怒ってはいなさそうだ。放蕩息子へ向ける母の愛のようなものを感じる。
そういうことも、あるのかもしれない。
深く考えることなく、トウマはリリィとともにミュリーシアの元へと向かう。
「ぴぴぴぴぴ~」
「クケー! クケー!」
場所は、ピヨウスたちを追い掛けるまでもなく分かった。
「共犯者、起きたか」
「ああ。邪魔をして悪い」
「なにを言う。邪魔になるはずがあるまいよ」
ミュリーシアの周囲には、ステカと移住者たちの一部もいた。女性がほとんどだ。異世界でも、間取りなどに関しては女性主導になるらしい。
それから、親方たちを始めとするゴーストの建築班も上から見守っていた。
トウマが来るまで全員の視線を独占していたのはミュリーシアではない。
黒い建物だった。
「これは、家の模型……か」
ステカに場所を譲られ、ミュリーシアの隣に移動する。
そのステカは、ピヨウスの隣を手に入れた。Win-Winの取引だった。
「実際の場所に、建ててみたほうが分かりやすいと思うての。試しにやってみたら、できたわ」
「ふええ……。ミュリーシアすごいのです。ままごとが捗るのですよ!」
建物というよりは、トウマが口にしたとおり模型に近い。
ドレスの裾から伸びた影が、立体的に間取りのサンプルを作っていた。
杭や体を覆う繭を作れるのであれば、理屈としてはできてもおかしくない。
しかし、実際目にすると驚きだった。
「共犯者は、どう思う?」
「入り口は、広めに取ってあるな」
驚きはするが、役に立つのも確か。
感心しつつ、影の模型を眺めていく。
「うむ。要望があったからの」
「あとは、入り口に足下の汚れを取れるような仕組みがあるといいんじゃないか?」
クロスブラッドたちは靴を履いているが、セタイトは蛇の下半身でそのまま歩いている。
どうしても砂が入ってこざるを得ない砂漠であれば気にならないのだろうが、グリフォン島では勝手が違ってくるはずだ。
「こう、こすって土を落とすみたいな感じで」
校舎の入り口にあった、たわしのようなマットをイメージしているがなんとか伝わったようだ。
「ふむ。入り口にそのままというのは、危ないかもしれぬな。脇に、付けるとするかの」
ミュリーシアが黒い羽毛扇を振ると、入り口の横に凹凸が生まれた。
「洗濯板みたいだな。痛くはないか?」
「この程度でしたら、大丈夫かと」
「だったら、これで汚れを簡単に取ってから入るのがいいんじゃないか?」
「これなら、ブランクカードを使わず妾が加工できるの」
ミュリーシアが、満足そうにうなずく。
「他はどうじゃ? 間取りは、これを基本にするつもりじゃが」
「そうだな。デック・オブ・メニィオブジェクトのお陰で、画一的な間取りにする必要はないよな」
トウマが、砂漠の民たちの顔色をうかがいながら続ける。
「将来の人生設計。子供は何人にするつもりとか、そういうのも加味して部屋数とか決めて良いんじゃないか?」
「そうじゃの。スペースは有り余っておるしの」
それに、種族によって身長も違ってくる。大柄なハーフオーガに、人間の間取りを押しつけても意味はないだろう。
「良う気がつくの」
「それが、俺の役割だからな」
恐らく、作ってもらう側のステカたちも近い考えをしていたはずだ。
だが、さすがにそこまでの要求は気が引けたのだろう。
代弁するのは、まさにトウマの役割だ。
「あとは、台所だな」
「もちろん、忘れてはおらぬぞ?」
「ああ。でも、それとは別に共同の炊事場みたいなのもあったほうがいいんじゃないか?」
「はい、そうですね。洗い場だけでもあれば、喜びます」
「ふむ。そういうものかの」
ミュリーシアの感覚としては、家の中で全部完結するほうが便利。
だが、それだけでは生活は成り立たない。
「外で会って話をするきっかけにもなりますから」
「ふむ。そういうものかの。であれば、用意するかの」
「親方が、設計してくれるって言っているのですよ!」
「であれば、それも含めて後でグリフォンの爪で石材をデック・オブ・メニィオブジェクトに与えるとするかの」
とりあえず、方針は決まった。
「ちゃんと、扉と窓のある壁もアクティベートしないとだな」
「うむ。向こうで小屋を作ってきた経験がいきておるの」
やはり、練習は大事。
その程度の認識で作った小屋が聖地化するなど、まだ冗談だと思っていた。
「ああ、そうだ。窓ガラスは、砂浜でアクティベートできると思う。確か、ガラス作りで使ってるのと同じ種類の砂だ」
「ほう。ついでに、そちらも回って行くかの」
「あの……ガラス、窓ガラスと聞こえたのですが?」
「ああ、あったほうがいいだろう」
「それはそうですが……」
トウマとしては、窓にガラスがあるのが常識である。
この世界の常識ではないのは分かっているが、だからといってわざわざ不便な物を使う必要性は認められなかった。
もちろん、ミュリーシアも一緒だ。
「そうじゃな。デック・オブ・メニィオブジェクトには、木製の窓のカードもあるがガラスが作れるのだから使わぬ手はあるまい」
大まかな方針は、決まった。
他にもいくつか細かい点を指摘して、トウマは次に畑を作っているレイナたちのところへ行くことにした……が。
その途中、気になることがあってトウマが振り返った。
「……そうだ、シア」
「なんじゃ? わざわざ、足を止めて」
まさか、そんなことはしないだろう。
そうは思いつつも、トウマは言わざるを得なかった。
「まあ、本気で心配しているわけじゃないんだが」
「だから、なんじゃと言うておる」
「ただの住居に、あっちの小屋でやったような彫刻はいらないからな」
ミュリーシアは、応えない。ただ、さっと赤い瞳を逸らした。
「やるつもりだったのか……」
さすがに、住居に施すようなものではない。
しかも、女王陛下が手ずから彫ったものだ。扱いも慎重にならざるを得ないし、もし好みでなかったら悲劇にしかならない。。
「じゃが、ちょっとした飾り程度ならば……?」
「そこまでして、やりたいのか……」
デック・オブ・メニィオブジェクトは便利だ。それだけに、自分で作ったという手応えがないのかもしれない。
親方たちゴーストも、否定には回らなかった。職人としては、自分の足跡を残したいようだ。
「まあ、壁一面とかでなければいいんじゃないか?」
ステカたちの顔をうかがうが、迷惑そうな感じはなかった。嫌とは言えないだろうが、それとも違うようだ。
「うむ。加減はするぞ。加減は得意だからの」
「……そうか」
加減が得意。
黒騎士を、まとめて排除したミュリーシア。
巨大な赤亀を、螺旋で貫いたミュリーシア。
ロードワームを、無慈悲に押しつぶしたミュリーシア。
とても、そうとは思えなかった。もしかしたら、加減してこれなのかもしれない。
真相は分からないが、ストレートに言ってもこじれるだけ。
「装飾なら、後からでもできるだろう? 個別に、依頼を受ける形にすればいいんじゃないか。できあがってから、こうしたいっていうのもあるだろうし」
「共犯者の言や良しじゃな。ステカ、そのように取りはからってくれるかの?」
「はい。かしこまりました」
ステカが頭を下げると、青みがかった髪が揺れた。
実際、それは名案だった。
“王宮”を差し置いて、そんなことは頼めないと遠慮されてしまわなければ。
結果、“王宮”を大幅にリニューアルすることになるのだが……。
それはまだ、先の話だ。




