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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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229/295

229.慌ただしい出発。あるいは帰還

「マクイドリが、このような存在だったとはの……」

「うちのピヨウスは、生まれも育ちも特別だからな……」

「確かに、テレポートが基本だっていうのならノートパソコンに書いてありますよね」


 ピヨウスは、希少種なのか。とにかく、特別なのは間違いなさそうだ。


「まあ、それでなにか変わるわけでもないし。構わないか」

「そうだの」

「はい。わたくしもまったくその通りだと思います」


 蛇の下半身を大きく動かし、ステカが全面的に賛同した。


 それに、もっと重要なことがある。


「ピヨウス! リリィ! そろそろ、戻ってくるんだ!」

「ぴぴぃ」

「分かったのですよ! ピヨウスも、充分だって言っているのです」


 聞き分けよく、リリィが大きく手を挙げた。


 直後。


「ただいまなのですよ~」

「ぴぴぴ~」


 デモンストレーションは終わりとでも言うのか。

 頭にリリィを乗せた巨大なピヨウスが戻ってきた。


「このままだと、島から出ていきそうでちょうど良かったのです!」

「ああ、リリィちゃんと一緒だと島からは出られませんよね……」

「領空を設定する場合、リリィがどの高さまで行けるかが根拠になりそうだな」


 現実逃避のつぶやきをもらしたところ、頭上に浮かんだ巨大なピヨウスが淡く発光した。

 それが収まると、ふわふわの黄色の羽が抜け落ちる。


「ああ……」


 ステカが絶望したかのような声をあげた。モルドは、どうしたらいいのか戸惑っている。この場合、なにを言っても不正解にしかならないだろう。


「ご主人様」

「ノイン、どうした?」

「ピヨウスの羽根を、拾い集めてもよろしいでしょうか?」

「それは構わないが……」


 和装のメイドの意図が掴めず、トウマが首を傾げる。

 その横で、レイナがぽんっと手を叩いた。


「もしかして、布団にでもするつもりですか?」

「羽根の布団ですか?」


 間髪を入れず、ステカが反応した。モルドは、静観の構えだ。


「はい。ふわっふわかと存じます」

「いいんじゃないですか? 余ったら、ミュリーシアの扇にします?」

「それはどう……。どうなのじゃ?」


 ミュリーシアが、珍しく戸惑いを見せる。さすがに、黄色い扇では格好がつかないようだ。


「ピヨウスの羽根を使わしてもらうのはいいが、それよりも……」


 トウマが、目の前に降り立ったピヨウスを指さす。


「なんだか、ピヨウスが少し小さくなっているような気がするのだが」

「……目の錯覚ですかね?」

「いや、気のせいじゃないよ」

「そうか……」


 ベーシアが言うのなら、間違いないのだろう。

 情報量の海に、溺れてしまいそうだ。


「にゃ~」

「ニャルヴィオン?」


 さらに、ニャルヴィオンがキャタピラを響かせて目の前にやってきた。

 だけでなく、すぐさまタラップを下ろす。


「乗れと?」

「トウマ! ピヨウスが乗っけてくれるって言ってるのですよ!」


 ピヨウスの頭から、リリィが下りてきた。


「一体、どこへ?」


 ピヨウスが、ニャルヴィオンを載せられるほど大きくなったのは分かった。

 ニャンコプターモードよりも、あるいはミュリーシアよりも早く移動できるのも実証された。


 それで、どこへ行こうというのか。


「どこか、魔力が豊富な場所へ行きたいとか?」

「ベーシアにしては、常識的な意見だ」

「でも、センパイの魔力しか食べないっぽいですよ?」

「タガザ砂漠へであろうな」


 黒い羽毛扇をばっと開いて、ミュリーシアが言い切った。


「モルドとステカの故郷か……」


 その瞬間、トウマの見ている風景が変わった。





 グリフォン島の上空。

 そこに、トウマが一人で浮いていた。


 ミュリーシアたちはいない。しかし、慌ても騒ぎもしなかった。

 もう、三度目。すぐに一人ではなくなるはずだ。


「精霊アムルタートだな」


 目の前に美しい女性が現れた。


 ノインのように優しげだが、凛として。

 数年後のレイナのように整った顔で。

 エメラルドグリーンという違いはあるが、ミュリーシアのように繊細な髪。


 そして、瞳はリリィのように輝いている。


 精霊殿に安置している精霊像と同じ容姿。だが、それよりもさらに生命力に満ちあふれた女性。


「モルドとステカに加護を与えてくれて、ありがとう。感謝する」


 トウマが頭を下げると、精霊アムルタートはそんなことないとぱたぱた手を振った。

 照れたように頬を染めるが、はっとして真剣な表情を浮かべる。


 それで、トウマは彼女の言いたいことを察した。この白昼夢を見ている時点で、確信が持てた。


「行けばいいんだな? 砂漠へ」


 うんうんと、可愛らしくうなずいた。


「それも、今すぐに」


 話が早いと、精霊アムルタートが親指を突き立てた。意外と、フランクだ。


「分かった。行ってく――」


 久し振りだから、油断していた。


 無防備な頬に唇を落とされ。

 トウマは、白昼夢から目覚めた。





「……今、精霊アムルタートからお告げがあった。タガザ砂漠へ行ってこいと」

「いつの間に……」

「ありがたい。これで、憂いもなくなったわ」


 黒い羽毛扇を振りかざし、ミュリーシアが指示を出す。


「ピヨウスがあの状態にいられるのにも、無制限とはいかぬようじゃ。ノインには悪いが、このまま疾く出発するぞ」

「いえ、そのようなことはございません」


 籐で編んだバスケットを持って、トウマの背後にノインがいた。


「昼食を詰めて参りました」

「……ありがとう。助かる」


 いつの間にか厨房に戻り、準備をしてくれていたらしい。

 自動人形オートマタの面目躍如だ。


「それから、チョコレートもあるだけお持ちしました」

「ああ、そうか。魔力……」


 トウマの魔力を吸って、ピヨウスは成長した。

 どうやら、それを消費して飛ぶことができるらしい。


 つまり、タガザ砂漠に到着する前に魔力が尽きてしまう可能性がある。


 その場合は、トウマが補充しないと墜落だ。ニャルヴィオンがいるといっても、避けなければならない。


「となると、センパイは気絶するほど魔力を注いでおくことになるわけですね」

「俺、長距離移動するときに気絶してること多くないか?」

「一度だけであろうよ」

「一度もないのが普通だと思うんだが」


 ミュリーシアは、赤い瞳を逸らした。

 その視線の先は、ノインへ。


「それよりも、余っておる食料の類をニャルヴィオンに運び込んだほうが良いのではないかの」

「承知いたしました」


 慌ただしく、動き出す。


「あ、移動中に鑑定するから階層核のマジックアイテムも忘れず持ってきてね」

「ご主人様、こちらになります」

「ああ、ありがとう。代わりじゃないけど、玲那」

「はいはい、スマホですね」


 マジックアイテムを交換し、食料などの物資を積み込み。


 忙しなくニャルヴィオンへと乗り込んだ。


「にゃ~」

「いってらっしゃいなのですよ~」

「お帰りをお待ちいたしております」


 リリィがぶんぶんと手を振り、ノインが瀟洒に腰を折る。


「ああ。後は任せた」

「心配するでない。共犯者は、妾がしっかり守るゆえな」

「ミュリーシアだけじゃないですよ。あたしもですよ」

「どうして、俺が――」


 ――守られる前提なのか。


 最後まで口にはできず、ニャルヴィオンがニャンコプターモードになって空を飛び巨大ピヨウスの羽毛に飛び込んだ。


 ニャルヴィオンが、背中にしっかりと乗っかれる大きさ。サイズ感がおかしくなりそうだ。


「ふわっふわ。ふわっふわですね……」

「ステカがうれしそうで、俺もうれしい……」

「村長にできるぐらい大物ですね……」

「恋をすることとは、他のすべてが色あせるということだ……じゃな」

「ぴぴぴ~」


 ピヨウスが鳴くと、あっさりと地面が遠くなった。

 次の瞬間には、グリフォン島も視界の遙か先になる。


 慌ただしい出発。あるいは、帰還となった。


 だから、気付かなかった。


 ニャルヴィオンに、密航者が潜んでいたことに。

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[一言] 密航者? レッドボーダーさん「(……守護らればならぬ)」
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