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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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022.沸騰塩

「待たせたの、二人とも」

「こっちこそ、使いっ走りにさせて悪い。ありがとう」

「ミュリーシアは、働き者の王様なのです!」

「無論よ。王たる者、民の見本でなくてはならぬからの」


 それはそれでブラック化の危険があるような気がしたが、トウマは言えなかった。

 なにしろ、塩を回収するための壺。それを運んでもらう為だけに、ゴーストタウンとの間を飛んでもらったのだ。


 トウマやリリィは、その間にまたヤシの実やマンゴーなどの果実を回収しただけ。

 ミュリーシアの労働量には及ばない。まったく、頭が上がらなかった。


「とはいえ、シアに頼りきりというのも問題だ。やっぱり、馬とかの移動手段が必要だな」

「不死種の馬と言えば、ナイトメアかの。確か、首がないんじゃったか」

「首がないのですか……。それは大変なのです。ご飯が食べられないのです」


 トウマもミュリーシアも、ご飯が基準のリリィに微笑ましさと哀しさを憶える。


「なに、共犯者と契約すれば味は分かるであろう」

「ナイトメアって、なにを食うんだ?」

「草じゃないのです?」

「草は食えないんだが」


 歯の平らさと、胃の数が足りない。


「それに、馬の不死種もナイトメアだけとは限らないけどな」


 馬車を引く前提であれば、幽霊馬ファントムスティードでも構わない。

 問題は、このグリフォン島に未練を残した馬の霊魂がいないことだろう。


「仲間になってくれるんなら、外からスカウトしてもいいんだが……」

「はいはい! リリィ、どうせなら空飛ぶお馬さんがいいのです!」

「ペガサスかの。生息地は、妾も知らぬのう」

「残念なのです」


 三つ編みにした金色の髪が、しょぼんと垂れ下がる。


「これ、共犯者。どうにかならぬか?」

「そう言われてもな。光輝騎士が、幻獣や霊獣を支配して乗騎にしてるって話は聞いたことがあるけど……」


 だが、実物に触れたことはなかった。少なくとも、ジルヴィオが使役しているところは見たことがない。


「幻獣を使役のう。光輝教会は、妾たち“魔族”が知らぬ技術を握っておるのだな」

「俺がそういうのを知る立場だったら、そもそもシアに出会ってないからな。難しいところだ」


 トウマは、淡々と事実を指摘する。そこに、自虐は含まれていなかった。


「ああ。そうか。玲那なら、なにか聞いてるかもしれない」

「緑の聖女か。確かに、知っていても不思議はないの」

「玲那の教導役は、確か結構偉い女騎士だったな」


 トウマがジルヴィオを宛てがわれたのは、暗殺能力が理由。そういう意味では、地位など最初から考慮の外。

 しかし、それを考慮に入れてもジルヴィオがまともに教育をしてくれる場面は想像できなかった。


「同性だから選ばれたと思ってたんだけど……やっぱ、警戒が足りてなかったな」

「気にするでない。それだけ、光輝教会が悪辣ということよ」

「最初から、頼れるのは光輝教会だけという状況に追い込まれてるんだよな。まあ、後知恵だけど」


 振り返りながら、トウマは話が盛大に逸れていることに気付いた。

 ミュリーシアも、形が整っているが柔らかそうな頬を閉じた羽毛扇で軽く叩いている。


「それより、塩を回収せねばな」

「じゃあ、スケルトンシャークを呼んで……」

「せっかく大海を満喫しておるのじゃ。邪魔をしては悪かろう」


 一笑千金。宝石よりもなお輝く笑顔を浮かべると、ミュリーシアは羽毛扇を振った。

 ドレスから影の帯が伸び、一抱えもある壺をつかみ取る。


「どぼんっなのです」


 それを釣りのように海へと投げ入れると、深く海底を漁った。

 なにが面白いのか、リリィが手を叩いて応援する。


「ミュリーシア、頑張ってなのです!」

「ふっ。任せるが良い」

「影術は、熱とか大丈夫なんだな」

「まあ、沸騰した湯程度ならの」


 これくらいの強度がなければ、攻防一体の術にはなり得ないということらしい。

 それがドラクルとして一般的なのか。それとも、ミュリーシアだからこそなのかは聞きそびれてしまった。


「これくらいで良かろう」


 どんっと、鈍い音を立てて砂浜に塩が入った壺が着地する。


「おおー! たっぷり入ってそうなのです」


 水分も含んでいるが、かなりの量だ。それこそ、トウマとミュリーシアの二人だけなら年単位で賄えそうなほど。


「まずは、焼いて水分を飛ばしてみよう。石板を熱すればいけると思う」

「ほう。それは楽しみだの」


 羽毛扇で口元を隠すミュリーシアは、なにも言わずに影術でハーネスを編んだ。


 トウマは、険しい視線で。けれど、諾々とそれを受け入れた。





「さあ、準備はできているのですよ!」


 リリィを通してゴーストたちにお願いをしており、すでに火起こしと石板の予熱は完了していた。


 無表情で“王宮”に戻ったトウマは、まずは一掴み分だけ石板に塩を置く。


「将来的には、ざるかなにかで汚れを取っておきたいな」

「先に天日干しをしておくというのも手かの」

「そういえば、共犯者のスキルで水分を飛ばすことはできぬのか?」

「負の生命力を操るんだから、できる……けど……」

「けれど、塩自体もどうにかなってしまうかもしれぬと?」

「そういうこと。まあ、この方法で乾燥が上手くいかなかったら試してみよう」


 将来の試行錯誤を相談していたのは、しばらく変化がなかったから。


「失敗かの?」

「もう少し様子を見よう」


 そう言った直後に、塩がパチパチと音を立て始めた。

 ミュリーシアが、恥ずかしそうに頬を染める。けれど、幸いと言うべきか、トウマは塩に集中して見ていない。リリィも、石板の塩に夢中だ。


「面白いのです!」

「弾けたりはせぬようだな」

「まだ、水分が多いんだろう」


 石でできた……というよりは、ミュリーシアが作ってくれたへらでならしながら火を通していくことしばし。


 大きな変化が訪れた。


「おお、煙が出ておるのではないか?」

「むせるのです」

「気分的には、そうなるかもな」


 濡れてひとかたまりになっていた塩が、バチバチと音を立てながら弾け結晶に分かれていく。

 ここまでいくと、見慣れた形状にかなり近い。


「おお、これは完全に塩であろう?」

「もうちょっと、かな?」


 しかし、現代日本で過ごしたトウマの基準は高かった。


 さらに、待つことしばし。


「もう、いいかな」

「どれ、味見を……」

「熱いぞ」

「それはそうであるな」


 ミュリーシアは、大人しく手を引いた。

 塩を口にする代わりに、将来のことを語る。


「のう、共犯者よ。まだ先の話であるが、塩作りが成功したら売りにいかぬか?」

「賛成だけど、そう言うってことは宛てがあるのか?」

「うむ。一度ミッドランズへ行ってみようと考えておるのだがの。どう思う?」

「そう……だな……」


 唐突とも思える話の展開に、トウマは驚かなかった。少なくとも、表面上は。


 安全第一。それに重きを置くならば、無用なリスクだけを背負うことになる選択。


 しかし、いつまでも避けてはいられない。


「いずれ必要なら、今でも一緒……か」

「どうせなら都会が良かろう。そうじゃ、光輝教会のお膝元というのも面白くないかの?」


 アンドレアス公国に存在する、神都サン=クァリス。

 その北側を占める光輝神殿こそ、トウマとレイナが召喚された因縁の土地。


「……玲那に会いに行けと?」

「おお、共犯者の幼なじみはそこにおるのか。それは知らなんだ」


 白々しく、視線を逸らすミュリーシア。

 トウマは新しい塩を石板に撒いてから、深く頭を下げた。


「道案内はするから、是非頼む」

「共犯者も、人生の墓場に入るときだの」


 年貢の納め時と同じ意味の慣用句なのだろう。ミュリーシアだけでなく、リリィまでも意味ありげな表情をしている。


 そういう関係ではないので邪推するだけ無駄だと、トウマは思う。


 それよりも、結婚が人生の墓場という表現が地球と同じなのは……。


 なんとも、業が深い話だった。

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[一言] 結婚が人生の墓場ならハーレムは……
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