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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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218/295

218.第一印象は?

 しばらくして、モルドとステカの二人を包んでいた光は淡く消え去った。


「へえ。こういう力もあるんですか。初めて見ましたね」

「は?」

「精霊像の気配りかもしれぬな」

「え?」


 興味深そうに精霊像を観察するレイナに、黒い羽毛扇を開いてゆらゆらと動かすミュリーシア。

 珍しい物を見た程度の反応だが、言われたモルドとステカは消化しきれない。


「全然違う環境から来たから、病気をしないようにとか。そういうことかもしれないな」

「あり得るのう」

「今まで来たのって、あたしたち以外だとヘンリーとネイアードだけですもんねぇ」


 入り口近くから精霊像を祀る祭壇へと移動してきたトウマに、ミュリーシアとレイナがうなずいた。


 ドラクルの姫は元より。勇者も緑の聖女も病気知らずだ。

 その意味では、加護を与える甲斐のない住民ばかりだったといえるかもしれない。


「というわけで、お二人さん。今のところ、ボクたちアムルタート王国の印象はどうかな?」


 空気を読んだベーシアの言葉に、精霊像の前で固まっていたハーフエルフとセタイトが解凍された。


 ただ、すぐに再起動とはいかない。


 モルドは改めて精霊像に礼をしてから、しみじみと口を開く。


「まさか、精霊の息吹をこの身で感じられるとは思わなかった」

「タガザ砂漠だったか。そっちには、精霊はいないのか」

「ええ。見渡す限りの砂と、わずかな水と緑。それから、危険な砂漠の生物たちがタガザ砂漠のすべてですから」


 自嘲気味に言うが、次の瞬間ステカの表情が一気に明るくなる。


「ですから、あんなにふわっふわな動物たちには初めて触れました」


 ニャルヴィオンやピヨウスによるアニマル接待は、結構有効だったらしい。


「好感触……と思ってくれたみたいだな」

「まさか、吟遊詩人の詩に嘘がないとは思わなかったがな」

「面白くなるんだったら、余裕で嘘を混ぜるけどね」


 トウマとモルドが吟遊詩人を見下ろすが、まったく意に介した様子はない。間違ったことを言っているとも思っていない顔だ。


「だが、それだけに疑問が残る」


 モルドは琥珀色の瞳を、ベーシアからミュリーシアやトウマへと向けた。


「我々は、歓迎されざるものだ。それを受け入れてなんの益がある?」

「利益、利益のう」

「強いて言えば、移住してきてくれること自体が利益なんだが」


 レイナは、肩をすくめた。


「無償で移住者募集なんてめちゃくちゃあやしいと思いますけど、これが事実なんですよ。とりあえず、取って食ったりはしませんから安心してください」

「妾も、そこな共犯者も元はモルドの言う歓迎されざるものよ。であればせめて、同じ境遇のものの手助けをしたい。そう思っただけよ」


 建国のきっかけとなった、高貴で真摯な想い。

 その言葉に嘘はない。トウマは懐かしく、暖かな気持ちになる。


 だが、それを万人が理解できるはずもなかった。


「そうか。かといって、別に復讐心が根底にあるわけでもないしな……」


 年長者として、ベーシアがフォローに入る。


「どうしても納得できないんなら、道楽でやってると思えばいいかな」

「サンドワームを倒すほどの弓の腕を持ちながら、吟遊詩人を名乗っているようにか?」

「ボクは、どっちかというと弓のほうが余技だけどね。まあ、物事の見方はいろいろあるってことだよ」


 小さな体躯で、ベーシアが大人びたシニカルな表情を浮かべた。


「まあ、今すぐ納得して欲しいというわけじゃあない。明日以降になるが、この島のことを見て欲しい。まずは、それは構わないだろうか?」

「……もちろんだ。こちらこそ、不躾な言葉を許していただきたい」

「わたくしもモルドも、自分一人が良ければという立場ではないのです」


 当然だ。

 トウマは、静かにうなずいた。


「ついでに聞いておきたいんだが、二人は真剣に付き合っているという認識で構わないだろうか?」

「ぶっ込んできましたね。さすが、センパイ」

「ここは重要なところだからな」


 疲労と眠さのせいか、少し物言いがストレートだったかもしれなかった。

 とはいえ、素通りもできない。


「クロスブラッドとセタイト。ふたつの集落は、敵対とまではいかなくてもあまり交流はない。そこの偉い人間の子供が夫婦になるなどあり得ないと、そういうことだと思っているのだが?」

「夫婦か……」

「モルド、反応するのはそこじゃありませんよ」


 ステカが恋人の肩を叩く。それが答えだった。


「はい。ただ、わたくしたちだけではなく……」

「ああ。あのオアシスに集まってた人たちも、同士だったってわけだ」

「そういうことだ」


 つまり、融和派。架け橋になり得るが、肩身の狭い思いをしているようだ。


「なるほど。それが認められないということであれば、アムルタート王国に来てくれて構わない」

「ですね。許されざる恋は、大いに応援しますよ」

「もちろん、ミュリーシアを女王として認め従ってくれるのであればだが」

「それは、もちろんだ……もちろんです」

「逆らうだなんて、そんな。考えたこともないです」


 二人揃って、首を横に振る。いや、ステカは蛇の尾も左右に振っていた。

 確認するまでもなく、仲間たちも同じ気持ちだろうとモルドとステカは思う。


 それだけのカリスマが、ミュリーシアにはあった。


「……ドラクルって、“魔族”では特別なのか?」

「そういうわけでもないがのう」


 ミュリーシアが、黒い羽毛扇で口元を隠す。

 反応には慣れているものの、なにもしていないのにかしこまられても困るといったところか。


 トウマは、ミュリーシアの感情をほぼ完全に把握していた。


「ふ~ん。でもそうなると、全員漏れなく移住っていうのは難しそうだね~」

「それは仕方がないだろう。というよりも、全員でなくてもいいんじゃないのか?」


 故郷を捨てるというのは、簡単にはいかない。

 それこそ、恋人と天秤に掛けてやっとだろう。


「むしろ、円満に移住してきてもらえれば交易相手にもなると思う。まあ、往復方法が難しいが」

「当面は、妾が行くしかないであろうの」


 モルドとステカは、思ったよりもタガザ砂漠と近いのかと誤解した。

 実際は、ミュリーシアの航続距離がとんでもないだけだ。


「ミュリーシアが行ってくれるのは助かるな。タチアナって娘が、向こうで待ってるし」

「……タチアナじゃと? それは、タチアナ・ルカヴィ・ドラクルのことを言うておるのか?」

「ああ……。そんな名前だったね」

「まさか、タチアナとベーシアがのう……」

「そのタチアナさんって、ミュリーシアの友達……。いえ、そういえば友達とかいないんでしたね」

「今はおるから良いのじゃ」


 ミュリーシアが黒い羽毛扇を振り下ろし、様々なものを切って捨てた。


「ルカヴィは、擬態を得意とする血族での」

「じゃあ、ミュリーシアそっくりの顔してたのは生まれつきじゃなかったんだ」

「……そこまで進んでおるのか」


 やれやれと、深く息を吐く。

 ミュリーシアには珍しい反応。


「シアにとって、タチアナという人は特別みたいだな」

「タチアナは、妾に用意された影武者候補よ。ただ、ルカヴィの者は役目に入れ込みすぎて精神を壊してしまうことがままあっての……」

「自分が本物だと思い込んじゃったりするわけですか。それは、なんとも……」

「じゃから、影武者など要らぬと妾から遠ざけて自由を与えていたつもりだったのだがのう」


 それなのに、タチアナは使命に殉じようとしている。


「まったく通じていなかったみたいだな」

「うんうん。ボクがタチアナから聞いた話と、だいたい一致するね」

「これは、妾が自ら説得せねばなるまいな」

「ミュリーシアのタガザ砂漠行きは確定ですね。灰とか塵にならないでくださいよ」

「ならぬわ」


 白い牙むき出しにして、ミュリーシアが威嚇する。

 それを向けられたレイナは、軽く手を振って門前払いした。


「ちなみに、シアのケイティファというのはどういう意味なんだ?」

「うむ? はぐれ者という意味じゃな。叔父上に追放された後に、名乗ることにした」

「それ、めちゃくちゃ皮肉ですね」


 王族としての氏を捨て、はぐれ者を自称する。

 従順すぎて疑心暗鬼を生じるのもやむを得ない。


「叔父上に逆らうつもりはないという意思表示だったんだがの」

「ミュリーシア以外なら、そうでしょうね」


 ベーシアが、手を叩いて笑った。


「シアがやると、いつか絶対追い落とすという決意に聞こえるのではないだろうか?」

「お前も、同じ境遇にしてやるぞってところですね」

「おかしい……。世界は、悪意に満ちておる……」


 モルドとステカは、賢明にも言及を避けた。


 ただ、もしかすると。


 トウマたちと移住者候補たちとで、初めて心が通じ合った瞬間かもしれなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これでおじさんに王のオーラなかったらもう……w
[一言] 謀略で追い払った側からしたら、疚しいところしかないからこそ疑心暗鬼が際限無く膨れ上がるでしょ……。アムルタート王国が繁栄すればするほど、叔父と仲間の吸血鬼たちは肩身が狭くなるのでは?
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