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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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211.Quod Erat Demonstrandum

 愛。

 それが動機だと、トウマは断言した。


『人を殺すぐらいだから、それは強い動機があるんでしょうけど……』

『じゃが、【貴族】はなにも得ておらぬではないか』


 しばらくしてから、スマートフォンの向こうから反応があった。

 けれど、良く言っても懐疑的な反応。


「シアは、気付いているはずだ。【貴族】が【当主】を殺して、どうなった?」

『どうもこうもあるまい。【令嬢】は家を出て行き、館には誰も住まなくなったのであろう』


 婿を取って家督を継ぐということはしなかった。

 このことから、【令嬢】に立場への未練がないことが分かる。


「それはつまり?」

『【令嬢】は、【騎士】を殺した共犯の使用人とよろしくやってるんじゃないですか? そのために、やったんでしょうし』

『よろしくやるとは、どういうことなのです?』

「シア、代理で頼む」

『承知した』

『ちょっ、ミュリーシアに折檻されたらあたしなんて血煙ですよ?』

『安心せよ。原形は残すよう注意するからの』

『ひっ――』


 それから、しばし。


『……で、結局、【貴族】の人はなんにも得てないですよ? むしろ、寝取られてるじゃないですか』

「実のところ、【貴族】様は地下牢で【商人】様を道連れに自殺されております」

『なんにも得てないどころか、やっぱり命まで失ってるじゃないですか!』


 あまりにも支離滅裂。

 とても、正気だとは思えない。


「そうだな。だが、【令嬢】には幸福をプレゼントできているだろう?」

『…………』

『…………』

『…………』

「…………」


 【貴族】が【当主】を殺害した動機。

 それは、愛する【令嬢】が愛する者と幸せに暮らすため家から解放するためだった。


 例え、その隣に【貴族】自身がいなかったとしても。


 間違った。

 同時に、信念に基づいた愛情。


『はっ? いや、それは確かにそうでしょうけど……。え? マジでこれが正解のやつなんですか?』


 まったく理解ができない。

 ダンジョンの第二層にいるレイナから、困惑の気配が伝わってくる。


 理解できないのが普通。

 その点は、トウマも密かに安堵していた。


『だって、【貴族】の人は【令嬢】の顔があれなのはフェイクだって知らないんですよね? それなのに?』

「【令嬢】様の顔を変えるという提案を受け入れたのは、現実と異なる展開になるかと期待したためでもございました」


 にもかかわらず、結果は同じだった。

 【貴族】の魂を受け継いだアンデッドは生前と同じ行動をして、崩壊のトリガーを引いた。


 ちなみに、【商人】も結局は犯行に及ぼうとして捕らえられている。


『なんですか、それ。一歩間違えたら、めっちゃ迷惑じゃないですか』

『でも、お話の騎士みたいなのですよ~』

『こっちの【騎士】は、かなりあれですけど……。う~ん』

『献身を受け取るのも、淑女の役目じゃぞ。レイナは、なにやら納得いかぬようだがの』


 主従ではないが、奉仕の関係。

 それは、現代日本から来たレイナには理解しにくいようだった。


『そう言われても……。う~ん。いえ、でもセンパイのためなら多少は……?』


 理解されないほうが良さそうだった。


「ちなみにだが、館には【貴族】の真意は分からないんだよな?」

「すでに申し上げております通り、筒抜けというわけではございません。恐らくは、魂の最も深い部分でございましょうし」

『無理やり契約してるのなら、リリィたちも必死に抵抗するのですよ~』

「ああ、今話をしたリリィはゴーストで俺と契約している」


 館が、片眼鏡モノクル越しに目を大きく見開いた。これも、モデルにした【執事】の癖なのかもしれない。


「もしかしたら、俺や館の知らないところで【令嬢】と【貴族】はやり取りをしていたのかもな。メイドとかを通して手紙のやり取りぐらいなら、館にも分からないだろう」

「それは……その通りでございます」


 城館そのものとはいえ、全知でも全能でもない。こうして、階層核となったことからもそれは自明のこと。

 それに、プライバシーを侵害するのは館としても憚られるところだったはずだ。


『【貴族】は、【令嬢】のことを心の底から愛しておった。ゆえに、【令嬢】も他に好きな人間がいると告白した。そして、【貴族】は愛に殉じて【令嬢】を解放することに決めた……ということかもしれぬな』


 ミュリーシアが、【貴族】の動機をまとめる。

 ドラクルの姫をして育てられた彼女には、理解しやすかったようだ。


『確かに、【令嬢】のためにやった説を採用しないとただの狂人でしかないですけどね……。まあ、【令嬢】のためにやったとしても重たすぎて狂人一歩手前ですが』

「あんまり、難しく考える必要もないだろう」


 レイナが変に共感しないよう、トウマはあえて気楽に言った。


「結局のところ、愛憎のもつれがすべての元凶みたいなものだ」

『実際の殺人も、怨恨が多いとは聞きますね』

『【商人】も、未遂だっただけではあるのう』

『好きなら、大事にしなきゃダメなのですよ!』


 トウマは、思わず苦笑いを浮かべた。まったくその通りだ。


「ちょっと、とっ散らかったな。まとめよう」


 スマートフォンを片手に、トウマが館に向き合った。


「最初の事件――【騎士】を事故に見せかけて殺したのは、館の外の存在。恐らくは、馬丁を務めていた使用人だろう」


 館が認知していない使用人なら、誰にでも可能性はある。

 だが、犯行現場や殺害方法からして大きな間違いはないはずだ。


「あの雨の中で【騎士】を呼び出せた以上、【令嬢】も共犯なのは明らかだ」


 あの大雨の中、外に出るのは余程のことがない限りあり得ない。

 その余程のことを起こせるのは【令嬢】だけ。


「そして、【令嬢】と使用人が恋仲なのも【貴族】の行動から推察できる」


 もし、【令嬢】が他の男を好いているという事実がなければ【貴族】もあそこまではやらなかっただろう。


 保身を考えない行動は、愛に殉じようとしたから。


「最終的に、【令嬢】は自由と愛を得た。とんだファム・ファタルなのか。それとも、ただの籠の鳥だったのかは分からないが」

『やっぱり、魔性の女だったんじゃないですか?』

「館の認識を通してしか、【令嬢】のことは見れないからな」


 籠の鳥だったとしても、周囲がこぞって解放しようとしていた。

 それを本人が望んで誘導してたのか。それとも、回りが勝手にやったことなのか。


 もはや、知る術はない。


「その意味では、【令嬢】の完全犯罪を眺めさせられたと言えるのかもしれないな」

『他人事みたいに。まあ、他人事ですけど』

『じゃが、他人でなくては真相にたどり着けなかったとも言えるわけだの』

「ああ。そういうわけだ」


 ともあれ、最大の受益者は【令嬢】だった。

 それは揺るがない。


 トウマは、改めて館に険のある瞳を向ける。


「家のせいじゃない。ただ、彼女の幸せはこの家にはなかった」


 厳しいような。気遣うような。


「ただ、それだけのことだ」


 けれど、決して逃げることを許さぬ声。


「以上、証明終了だ」


 それを耳にして、【執事】の姿をした館は呆然と膝をついた。





 どこかの世界のどこかの土地に、古い城館があった。

 土豪の一族が代々引き継ぎ、大事に使われてきた。


 長い時を閲してきた城館には、やがて自我が宿った。

 キキーモラやブラウニーのような妖精ではない。城館そのものが付喪神化して、魂が宿ったのだ。


 魂が宿った城館は、さらに長い年月を閲しても廃れることはなかった。


 そこに住まう一族は繁栄し、あるとき非常に美しい娘が生まれた。


 娘の美しさは評判となり、何人もの求婚者が現れた。

 いずれも甲乙付けがたく、家の繁栄を願った当主は求婚者を城館に集めて婿を選ぶことにした。


 しかし、悲劇は起こる。


 晩餐が行われた夜に、求婚者が一人死んだ。殺された。


 折悪しく、外は暴風雨で城館から出るのは自殺行為。


 そんな中で事件は続き、当主も求婚者もすべて死んだ。


 残った娘は家もなにもかも捨てて、出て行った。


 城館は取り残された。


 やがて、住む者のいなくなった家は崩壊する。


 城館は願った。


 事件の真相を知りたいと。


 魔力異常によるダンジョン化は、その願いを叶えた。


 その結果として得たのは、飾り気の一切ない結末。


 うっすらと憶えていた予感。

 それを具体的な形で突きつけられた現実だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族の持ち込んだ結納金が足のつきにくい砂金だったというのももしかしたら……。
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