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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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182/295

182.肩まで浸かって報告会

「まず、ニャルヴィオンが抜けたあとの割り当てですが」


 衝立ついたての向こうから、ノインの落ち着いた声が聞こえてくる。

 率先して初めてくれたその態度に、トウマは心からの感謝を抱いた。


「石炭及び、第二層からの物資の運搬効率は低下いたします。しかしながら、在庫が逼迫しているわけではございません」

「予定の一ヶ月ぐらいなら、問題はないということでいいかな?」

「はい。そのようにお考えいただいて結構です」

「粉ミルクと言うたか。マテラに必要な物資が足りなければ、妾が向かっても良い」

「そうだな。シアに限らず、そのときは誰か人を工面しよう」

「リリィが行っても良いのですよ~」


 ニャルヴィオンが卵の孵化にかかり切りになっても、当座は問題ない。

 では、マッスルースターたちはどうなのか。


 その点について、ノインが続ける。


「ニャルヴィオンの……正確には、卵の周囲ですが。集まっていたマッスルースターたちですは、半分が住居へ戻りました」

「全員が、ずっとつきっきりってわけじゃないんですねぇ」

「そもそも、なんで出てきたのかも謎だけどな」

「卵仲間だからなのです?」

「それを否定できないから、逆にさっぱり分からないんだよな」


 ようやく慣れてきたのか。トウマがリラックスした様子で、お湯に体を沈めた。かなり長時間は行っているはずだが、特にのぼせた感じはない。ただ、そろそろ指先がふやけていた。


「とりあえず、ゴーストたちの仕事はマテラが来てから決めたので大きな変更はなさそうか」

「その通りでございます。空いた時間で、私めはノートパソコンの動画閲覧を」

「ノインも映画見るのです? リリィもご一緒するですよ?」

「いえ、動画を順次再生し有用な知識を得るつもりでございまして」

「あ~。面白いのがあったら教えて欲しいのです……」


 すごすごと、撤退したようだ。

 哀しそうな表情を浮かべているのだろうと思うと、トウマは声を出さずに笑ってしまった。


「センパイ、笑ってますね?」

「そんなわけないだろう」

「次は、妾が報告しようかの」


 衝立の向こうから、ミュリーシアの朗々とした声が聞こえてきた。

 ふとそちらに目をやれば、湯煙に月がかぶっている。


 風雲月露。自然の美しさにドラクルの姫の声が加わり、素養があれば詩を読みたくなるような光景が生まれた。


 トウマは散文的な性質なため、ただただその美しさに感心している。


「取り急ぎ、精霊殿の掘削を進めておいた。もう、ニャルヴィオンでも中に潜れるぐらいのスペースはあるの」

「早いな」

「もう少し早く進めたいところだがの」

「そこは、シアと親方の判断に任せる」

「うむ、任せよ。そっちが一段落したら、次は“王宮”の拡張をしたいところだのう」


 精霊殿の次。ミュリーシアが“王宮”の拡張まで考えていることに、レイナが驚きの声をあげる。


「増築とか、そんな簡単にできるんですか?」

「地下室を作ることを、視野に入れておる」

「地下か」


 思わず、口に出していた。

 その反応に、トウマ自身が驚く。


「ほう、乗り気だの」

「男の子って好きですよね、地下とか屋根裏とか」

「狭いところが好きなんだろうな。自分専用という感じがして」


 一般的な嗜好であると主張するが、肯定も否定も飛んでこなかった。

 ミュリーシアたちは、どんな顔をしているのか。それを想像するのは憚られる。


「収納庫などは、地下にあると都合がよろしいかと存じます」

「確かにそうだな」

「トウマがうれしそうなのです」


 そんなことはない。

 そんなことはないが、トウマは温泉で顔を洗ってなにも言わなかった。


「じゃあ、次はあたしですね」

「ああ。ミミックルートの件だな」

「はい。センパイと相談して、ミミックルートをダンジョンで栽培してみようかと考えています」

「ほう、考えたの」

「それならば確かに、安全が保たれるかと」

「完全に収穫するんじゃなくて根っこを必要な分だけ切って、長く収穫できるようにしたいんですよね。紫蘇とか豆苗みたいに」



 野生動物を取り込んでしまう、ミミックルート。それを野菜と同列に語る緑の聖女。

 相変わらず大物だなと、トウマは思う。口にはしない。


「なので、森でミミックルートが見つかったら退治せずに生け捕りにしたいですね」

「狩人さんたちに、言っておくのですよ~」

「急ぎではないので、見つかったら……程度でいいですけど」

「了解なのです!」


 リリィが元気よく手を挙げたようだ。見えないが、雰囲気で分かる。


「そうなると、妾が作った畑は用無しになるのかの?」

「いや、そんなことはないぞ」

「ええ。カレーの木を開発したらあそこを使います。それから、その日の料理に使いたい野菜とかキノコは、相談してくれればにょきっと作りますよ」

「ありがとうございます。頼りにさせていただきます」


 自分のことであれば、ノインは遠慮しただろう。

 しかし、食事を口にするのはトウマたちだ。であれば、質はできる限り上げたい。


 ……と、ノインは考えているのだろう。


「美味しい食事はうれしいけど、無理はしない範囲でな」

「はい。承知いたしております」


 これも、嘘ではない。

 余計な気を使われては、元も子もない。


 だからノインは、全力で奉仕する。無理のない範囲で。


「俺のほうは、特にないというか……。仕事は、みんなのサポートだな。なにかあったら遠慮なく言って欲しい」


 それぞれ、やりたいこととやるべきことがある。

 そんな中でなんともやる気のない報告に聞こえるかもしれないが、余剰人員というのは必要不可欠なものだ。


 それに、トウマだけの役割も存在する。


「それから、夢のお告げがあったらすぐに知らせるようにする」

「大事なところですね」

「有用じゃが、急だからのう」


 マテラのことと、家の増設の件。

 どちらも、知らなかったら詰みかねないところだった。


「精霊像には、毎日挨拶に行くことにしよう。お供えでも持ってな」

「お供え! 当然、食べ物なのです?」

「まあ、そうなるな……」

「準備は、お任せください」

「ありがとう。頼む」


 また、ノインの負担が増えてしまった。

 それを申し訳なく思いつつも、トウマが口にしたのは感謝の言葉。


 ノインの良き主人であろうとするなら、価値観の違いを理解して歩み寄らなくてはならない。


「はいはい! リリィも報告があるのです」


 一段落したと、気を抜いたタイミングでリリィが衝立の上まで飛び上がった。よく分からないけど変えられたという、タオル姿が垣間見える。


「温泉から上がったら、みんなでトランプするのです! 大富豪がいいのです!」

「さっき革命の話をしたから、やりたくなったんですね……」

「ふっ。妾を大富豪の座から引きずり下ろそうなど、1000年早いわ」

「なんのっ、なのです! ノインも一緒に革命するのですよ~」

「私めもでございますか?」

「たまにはいいじゃないですか。マテラも、あたしたちが楽しそうにしてたらよく眠ると思いますよ」

「そうだな。俺の代わりに頑張ってくれ」

「なにを言うておる。共犯者も参加するに決まっておろうが」

「なのですよ!」


 隣から、和気藹々とした声が聞こえてくる。


 ワスプアイズのお陰で、のぼせたりはしない。

 そのはずだが、トウマはぼーっとしてまぶたが重たくなるのを感じた。


「そろそろ、上がらせてもらう」

「うむ。明日からも、頑張るとするかの」

「ああ。ほどほどにな」


 輪切りにしたローリングストーンの湯船から出たトウマの口角が、わずかに上がっていた。ほどほどなど、言ったトウマも信じてはいない。


 なのに、それは現実のものとなった。


「この島に来てから、初めてかのう」

「そうだな……」


 朝から、しとしとと雨が降り始めたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 雨か……そもそも建国するなら安定した気候じゃないとまずいですよね。毎年台風とか来られても困るし。
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