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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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178.卵の行方

「そもそも、この卵は生きているのでしょうか……?」

「確かに、どれだけ岩の中にいたのか分からないな」


 ノインがアメジストのような紫の瞳を細めて、巨大な卵を上から下まで観察する。小さな和装のメイドがそうしていると微笑ましく見えるが、表情は真剣だ。


 トウマも、その背後から卵に手を伸ばした。


 ところどころ岩が付着して汚れてはいるが、白い楕円形の物体は間違いなく卵だろう。少しざらっとした感触も、鶏卵を思わせる。


 しかし、触れても暖かさは感じられない。生きているのか死んでいるのか、区別は付けられなかった。


「産まれなかった卵って、腐っちゃうものなんじゃないですか? よく知らないですけど」

「少なくとも、腐っておる様子はなかったの」


 ミュリーシアが、地面に立つ卵の殻をこんこんとノックをする。運び出したときからそうだが、硬い殻の感触しか感じない。


「やっぱり、食べて確かめるしかないのです……?」

「食べたら、その時点で生死が確定するだろう」

「確か孵化寸前の卵を茹でて食べる料理も、あることはあるんですよね……」

「ひぇっ。それは無理なのですよ~~~」


 想像してしまったのだろう。リリィが自分で自分の肩を抱いて、卵から距離を取った。トウマも、さすがに無理だ。


「如何するかの。まさか、海に捨てるわけにもいくまい」

「それはだめなのです」


 何回も見た動画のことを思い出し、離れた場所でリリィがぶんぶんと首を横に振った。


「トウマにも、この卵が生きてるか死んでるか分からないのです?」

「俺だと、未練があるかどうかしか分からないからな……」


 あまり意味があるとは思えなかったが、情報がほとんどないのだ。確認してもいいだろう。

 そう考え直したトウマが、手のひらを卵に押しつけ集中するためまぶたを閉じる。


「我が名は稲葉冬馬。我、死者の声を聞く者なり。未練ある魂、行き場のない心、生き続ける意思。願いあれば、我に届けよ」


 心の裡から湧き出る言葉で、死霊術師が問いかけた。


 ……しかし。


「応えはないな」

「生きておるか、未練も抱かず産まれる前に死しておるか……」

「まだ、魂が宿ってないという可能性もあるかと存じます」

「つまり、アンデッドになる状態ではないということが分かったってことですか」

「最悪の可能性はなくなったと、いうことじゃの」


 ミュリーシアの前向きな言葉に、レイナが口元に手を当て考え込む。


「じゃあ、孵化するまで暖めます?」

「どの程度の期間をみれば良いのか……」

「なにをするにしろ、情報が足りないな」


 行き詰まりを感じたトウマが、不意にぽんっと手を叩いた。


「そうか、ノートパソコンで……」

「いや、どうやって検索するつもりです?」


 逆に言えば、検索できるぐらい情報があればここまで困っていない。

 そう緑がかった瞳で訴えかけるが、トウマには成算があった。


「卵の大きさから、調べられないだろうか?」

「なるほど。それなら、ある程度は絞り込みができるかもですね」


 ここまで卵の大きい生物が、複数いるはずがない。そう断言できないのが異世界の難しいところだが、現状よりはましだろう。


「では、私めが持って参ります」

「頼む」


 瀟洒に一礼すると、急いでいるようには見えないのに猛スピードでノインが“王宮”へと戻っていった。


「あれ、どうやって動いてるんでしょうね?」

「妾も易々とは真似できぬな。自動人形オートマタ特有のものではないかの?」

「易々とはってことは、できなくはないんですね……」

「それだと、ヘンリーもできることにならないか?」

「それはなんか、嫌ですねえ……」


 トウマは、レイナを叩く……ことはなかった。

 嫌とは思わなかったが、積極的に見たくはなかったので。


「お待たせいたしました」

「ありがとう」


 程なくして戻ってきたノインからノートパソコンを受け取り、片手で支えながらキーボードを叩く。

 ノインが、そのまま捧げ持っていれば良かったという痛恨の表情を浮かべたがトウマは作業に集中して気付かない。


「今回は、候補が複数か」

「ちゃんとした文字で、出てきましたね」

「何度も、あんな事が起こっても困る」

「それで、結果はどうなのだ?」


 トウマの背後からミュリーシアが液晶ディスプレイをのぞき込み、艶やかな銀髪がトウマにかかる。

 それを振り払うこともできず、トウマは検索結果に集中した。


「出てきたのは、ルフ、フェニックス。タラスクス、それに真竜だな。海の生物はマイナス検索で省いたお陰で、ある程度絞り込めたんじゃないか?」

「ドラゴン全般ではなく、真竜とでたか。となると、東大陸の地竜は違うようだの」

「東大陸? ああ、ヘンリーが交易路を開拓しようとしていた土地か」

「確か、巨人が竜に乗って暴れ回ってるとか言ってましたっけ」


 改めて、おかしな土地だと思うが今は関係ない。


「フェニックスは、不死鳥ですよね。ルフって、なんですか?」

「ロック鳥とも呼ばれる、シンドバッドの冒険にもでてきた馬鹿でかい鳥……らしい」

「タラスクスは、不死の竜種じゃな。外見は、亀のほうが近いの」

「それに、真性のドラゴンというわけですか」


 どの卵だとしても、大物が生まれそうだ。


「……どうやら、恐竜でも卵は30センチぐらいらしいな」

「恐竜というと、あの駅ビルとやらで出てきた地竜の一種のような生物じゃな……」

「ティラノサウルスだな」

「ああ、そうであった。ふむ、あのサイズでも卵はそこまで大きくはならぬわけか」


 全員の視線が、発掘された卵へと向けられる。


 もし生まれて成長したら、ティラノサウルス以上の大きさになるということだ。

 それ以前に、そこまで育てるのにも困難が待ち受けていることだろう。


「あの卵が死んでいるという確証はない」


 ミュリーシアが羽毛扇をぱっと開いた。自然と、耳目が集まる。


「であれば、見捨てることはまかり成らぬ。このグリフォン島で生まれた以上、アムルタート王国の民である」


 ミュリーシアの決定に、誰も反対しない。するはずがない。


 トウマも、同じ気持ちだった。


「俺は、シアに賛成だ。卵になったということは、生まれる意思があるということだと思う。それを、無下にはしたくない」

「共犯者は良いことを言う。将来の心配は、まず生まれてからすれば良い」

「コケー!」

「コケケー!」

「ココココココ」


 結論が出た。

 そのタイミングを見計らったかのように、雌鳥の声が響いた。


「マッスルースター……」

「黒いのもいるのです!」


 猛スピードで駆け寄ってきた筋肉質なニワトリたちが、地面に立つ巨大な卵を取り囲んだ。


「妖しい儀式みたいなんですけど……」

「恐らく、卵を温めるつもりではないかと……」


 マッスルースターの飼育担当であるノインも、予想外の事態に見守ることしかできずにいる。


「なるほど。餅は餅屋……」

「確かに、専門家ではあるな」

「豚のお母さんが子犬を育てるニュースとか、ネットで見たことありますけど……」


 白と黒のマッスルースターが、巨大な卵の下や上に陣取っている。

 ノインの言う通り、卵を温め守るつもりのようだ。


 ようだが、これでいいのかという疑問は残る。


「あれで、温まるのかの?」

「サイズ以前に、筋肉って暖かくなさそうじゃないですよね」

「羽毛があるんだから、大丈夫じゃないか?」

「……卵を入れる小屋みたいなのは作ってあげましょうか」

「にゃ~~!」

「あ、ニャルヴィオンが帰ってきたのですよ!」


 そこへ、火口のダンジョンで石炭の採掘を終えたゴーストたちとニャルヴィオンが戻ってきた。

 揃って、突如出現した巨大な岩のモニュメントに驚きの表情を見せる。


「ああ、小屋を作るのは保留にしたほうがいいかもですね」

「なるほどの。ニャルヴィオンの中で卵を温めるということだの?」

「とりあえず、本人の意思を確認してからだな」


 マッスルースターたちが付き添うのであれば、ノインにマナーを叩き込んでもらう必要もあるだろう。


「なんとかなりそうで良かったのです!」

「……そうだな。筋道は立ったな」

「ここに来て、ベビーブーム到来の予感ですね」


 レイナに言われて、レッドボーダーのゆりかごで眠るマテラを見る。

 なんとなく、喜んでいるように思えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベビーラッシュ…拾ってくるラッシュはちょっと聞かないなw
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