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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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168/295

168.お酒はいくつになってから?

「ただいま~なのですよ~」

「マテラの粉ミルクとかを回収できた」

「おかえりなさいませ。それは、安心いたしました」


 一旦“王宮”に戻ったトウマとリリィ。そして、ニャルヴィオンは火口のダンジョンの第二層へと遠征した。


 そこでベビー用品を確保して戻ったとき、ノインは厨房で調理の真っ最中だった。


「確認は後ほど。まずは、空き部屋に運ばせていただきます」

「それくらい、俺がやるから」

「料理が最優先なのです」

「……かしこまりました。お言葉に、甘えさせていただきます」


 瀟洒に頭を下げるノインに見送られ荷物を置き、円卓の間へ移動するとミュリーシアとレイナがいた。


 もちろん、レッドボーダーのゆりかごのマテラもだ。

 ノートパソコンから流れるBGMで、ご機嫌にぐっすり眠っている。


「センパイ、リリィちゃん。おかえりなさい」

「ああ。ノインのフォローを頼んで悪かったな」

「大したことじゃありませんよ。温泉を運んで来たミュリーシアに比べれば」

「なに、それこそ大したことではないがの。食事が終わったら、ゆるりと浸かるが良い」


 トウマはうなずき、円卓に座った。リリィはマテラにただいまと言うと、緊張の面持ちで空中に待機する。


「お待たせいたしました」


 ノインは他にも用意しているが、今回の目玉は魚介とキノコのアヒージョ。


 グリフォンの尾で獲れた……スケルトンシャークが獲ったイカやタコをノインがさばき、キノコと一緒にオリーブオイルで煮たものだ。


「お口に合えば良いのですが」

「ほう。香辛料をふんだんに使っておるようじゃの」

「はい。献上品は、まだございますので」

「ふえ~。なんだか不思議なのです」


 ミュリーシア謹製の石のスキレットには、オリーブオイルに浸かった具材が浮かんでいる。

 トウマも、実物を見るのは初めて。煮物のようで、煮物ではない。


「では、いただくとするかの」

「ええ。マジックアイテムから出てきたオリーブオイルの味を、確かめてあげましょうか」

「いただきます」


 トウマが、石のフォークでキノコを刺して口に運ぶ。


「……へえ……これが」

「むむむむむ」


 言ってしまえば、ただのオイル煮だ。

 しかし、素材の味が絶妙に絡み合い遙かな高みへと誘っていた。これは、ノインの技術もあるだろう。


「簡単に美味しいとは言えないような気がするのです。でも、不快なわけではなく……。なんだか、刺激的なのです!」


 リリィが腕を組み、円卓の周囲を飛び回る。


「トウマ、一口ではよく分からないのです!」

「……そうか」


 リクエストがなくとも、そのつもりだった。

 今度は、タコを口に運ぶ。


 弾力があり、噛むと旨味が弾けた。味だけでなく、食感も楽しめる。


「う~ん。これは美味しいですよ。向こうの世界で食べたのよりも、ずっと」

「様々な香辛料も用いましたが、沸騰湾の塩が味の決め手かと存じます」

「塩は、料理の基本ですね」

「最初に手に入って、良かったな」

「うむ。僥倖であったの」


 白ワインとともに、ミュリーシアがアヒージョを楽しむ。

 食事を嗜好品と言い切るドラクルだけに、じっくりと楽しんでいる様子だった。


「それから、あのマジックアイテムの油壺についてなのですが」

「なにか分かったのか?」

「量が減りませんでした」

「それはストレートにすごいな」

「まるでファンタジーですねえ」


 キノコを口に運ぶレイナの緑がかった瞳が、驚きに見開かれた。


「無限にというのは考えにくいですので、一日の上限があるものと思われますが」

「それでも、便利だな」


 日本のように、好きなときに好きなだけ買えるわけではないのだ。

 それに、油は過酷な労働とセットになっている。それが一定量とはいえ、労せずして手に入るのだ。


「マテラ、ナイスアシストなのですよ~」


 レッドボーダーのゆりかごで眠る白い赤ん坊を、リリィが慈しみをこめて撫でる。


「理論的には、欲しいマジックアイテムを手に入れられるわけですよね」

「倫理的に、NGだけどな」


 マテラが何者なのかは、さておき。トウマに、モンスターや他の生物を生み出すシャボン玉を活用する気はない。


 イカロスになりたい願望など、持ち合わせていないのだ。


「そうですね。それよりも、そろそろバゲットの頃合いじゃないですか?」


 当然、ノインが焼きたてを用意してくれている。

 素材の出汁がたっぷりと染み出した油に、パンを浸して一口。


「ほう……」


 まず、ミュリーシアの赤い唇から官能的な声が漏れ出た。


 それくらい、絶品だった。すべては、このバゲットのための前座だと言ってしまえるほどに。


「バゲットとの組み合わせも、かなりのものだの」

「ガーリックトーストの上位互換って感じがするな」

「油、これ全部油なんですよね。でも、食べずにはいられない!」


 レイナが深刻な表情を浮かべるが、結局アクセルを踏み込んだ。

 そして、リリィも珍しく難しい顔をしていた。


「トウマ、トウマ」

「どうした?」

「みんなから、お酒が足りないってリクエストされているのです!」

「酒か……」


 険のある瞳を、ミュリーシアに向ける。

 カティアからの献上品であるワインを、手製の石のグラスであおる様は堂に入っていた。


 実際の味は分からないが、実に美味しそうに見える。地球にいたら、あちこちのCMに引っ張りだこだろう。


「共犯者とレイナであれば、ともに杯を交わすことに異存はないのう」

「あたしも、興味がないではないですが……」


 言葉を濁しつつ、レイナがちらりとトウマを見る。


 いつもそうだが。いつにも増して仏頂面をしていた。


「異世界に来て、元の国の法律に縛られる必要はない。そもそも、国によって飲酒可能な年齢も違う」


 だがと、トウマは首を振った。


「染みついた意識は、なかなかそういうわけにもいかない」

「ですよねー。センパイですものねー」

「我らがアムルタート王国における、ひとつの課題ではないかの?」


 石のカップを円卓に置くと、ミュリーシアが赤い瞳でトウマを見つめた。


「さて、共犯者よ。アムルタート王国は、飲酒を何歳から解禁すれば良いと考える?」

「あたしたちの故郷じゃ、20歳からでしたけど」

「その基準、こちらでも適用できるとは思うておらぬであろう?」

「あっ、そうですね……」


 意味ありげに微笑む、ドラクルの姫。

 その表情で、レイナは察した。


「やたら寿命が長い種族もいるんですよね」

「それなら、種族毎に成人年齢に達したらでいいんじゃないのか?」


 肉体的な成長は、それぞれだ。一律で、決める必要はない。


「うむ。それで良いとしてだ」

「……俺は、なにか見落としているのか?」


 ミュリーシアが、ぱっと黒い羽毛扇を開く。


「ミッドランズの人間たちは、共犯者の年にはとっくに酒を飲んでおるぞ」

「そういうことか……」


 日本の法律を盾に、こちらの慣習を歪めるわけにはいかない。


「俺と玲那だけ例外にはできないしな……」

「あたしも、お酒勧められたことありますよ。なにされるか分かんなかったので、けちょんけちょんに断りましたが」

「俺は、ないな……」


 トウマに飲ませるのが、もったいないとでも思われていたのかもしれない。ジルヴィオなら、充分あり得る。


「というか、これが正解な気がしてきた」

「クズですね」


 レイナが、一刀両断した。


「なに、妾はそんなに吝嗇ではないぞ。ささ、試しに飲んでみるが良い」

「今後、いろんな席で勧められる可能性はありますね」

「……なるほど」


 ゴーストに、自動人形に、粘体種ネイアード。

 飲酒どころか食事をしない相手ばかりだったが、今後はそうとは限らない。


 そして、レイナの言う通り宴席に出る場合もあるだろう。


「自分の限界を知っておくのも重要か」

「無理は禁物でございますが、ここであれば失敗しても問題はございません」

「飲むですか? 飲んじゃうですか?」


 リリィも、大人が飲むアルコールに興味があるようだ。わくわくと、手を握ってトウマを見守る。


「じゃあ、せっかくだから少しだけ」

「おお。遠慮せず飲むが良い」

「今、用意いたします」


 ノインが厨房と往復して、石のカップを運んでくる。

 ミュリーシアと、お揃いだ。


「ふふふっ。興が乗って複数作ったが、まさか共犯者と杯を交わすことになるとはの」

「息子と飲めてうれしそうなお父さんみたいですね」

「ジイさんとは、できなかったからな」

「いや、違うからの?」


 それは、ドラクルの姫が求めるシチュエーションではなかった。

 変な方向へ行く前に、白ワインをとくとくと注ぐ。


「ありがとう」


 トウマがカップを手にし、軽くミュリーシアのそれと合わせる。

 石だが極限まで薄くしているため、グラスのように澄んだ音がした。


 四対の瞳に見守られながら、ぐいっとあおる。


 こくりこくりと、トウマの喉が鳴った。


「……酸っぱいな。でも、美味いような気が……する?」

「う~ん。アヒージョよりも、不思議な感じなのです。でも、みんなは喜んでるみたいなのです!」


 どうやら、酔いまでは共有できないようだ。リリィとしては、少し変わったジュースを飲んでいる感覚らしい。


「そういえば、おじいちゃんは欠かさず晩酌してましたね」

「ほうほう。いける口ではないか、共犯者」


 ミュリーシアが、うれしそうに微笑む。


「まだ飲めるであろう?」

「大丈夫だとは思うが……」

「一人で飲むのも良いが、相手がおるとなお良い。それが共犯者であれば格別よの」

「そういうことなら」


 トウマが首肯すると、ワインがまた石のカップになみなみと注がれた。


「まあ、ジイさんもこれくらい飲んでいたしな。ワインじゃなかったが」


 それを一息であおる。


「そ、そんなペースで飲んで大丈夫です?」

「いや、特に問題はないな」

「リリィも大丈夫なのですよ~」

「ふむふむ。共犯者はうわばみじゃな。善哉善哉」


 飲み仲間が増えそうで、良かった。


 このとき、ミュリーシアはそう思っていた。


 本心、から

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[一言] 酒癖か、酒量か……?
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