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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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160/295

160.チャンピオンベルト?

予約投稿ミスってました。すみません……。

「確かに、ただの動物というよりもモンスターと言われたほうが納得はするな」

「あたしたちが知ってる普通の動物は、雷とか吐かないですからね」

「リリィも知らないのです!」


 ライトニングベアが魔力へと還元されていく。

 ショーのような光を見つつ、トウマとレイナは乾いた笑いを浮かべた。


「さて、あたしたちが知る限りこの森にモンスターはいないはずでしたが……」

「いたなぁ」

「無論、偶発的にモンスターが発生することはあるが……」

「夢のお告げとタイミングが合いすぎているか」

「うむ。特定はできぬが、なんらかの異常が起こっている前提で行動すべきであろうの」

「精霊アムルタートが警告をするわけだ」


 タマゴとニワトリの話になりつつあるが、知らされずにいたよりはずっといい。

 森からモンスターが大挙して襲撃してくる……などという最悪の可能性よりは、ましだ。


「こうなると、なにが出てくるか分からぬからの。しっかり、警戒したほうが良かろう」

「つまり、あの亀とかハチとかティラノサウルスとかゴリラが出てくる可能性もあるってことですか? ティラノサウルスとかゴリラとか」

「天使が出てくることはないだけましか……」


 カテゴリとしては、マッスルースターやストーンスキンディアのような。もっと言えば、天使は人間や“魔族”に近い存在だ。


 少なくとも、魔力異常により発生するということはないはずだ。


「天使なのです?」

「リリィは、やり合ってはおらなんだな。ひとつの体に頭がふたつある、異形のバケモノであったの」

「最悪なのが、天使ビームを食らったらその人も天使にさせられるところですね」

「ふええええ……。そんなの天使じゃないのですよ! ひどいのです!」


 リリィが魔力還元されていくライトニングベアの上をでたらめに飛び、ぷんぷんと頬を膨らます。

 本気で憤っているのは分かるが、愛らしさが勝っていた。


「どうやら、魔力還元が終わるようじゃぞ」

「あまり時間がかからなくて良かったな」

「これは、ベルト……ですか?」


 還元光が収まり、ライトニングベアの巨体がマジックアイテムに置き換わる。

 レイナの言葉が疑問形になったのは、それが一般的なベルトとは形状を異にしているから。


「ベルトはベルトでも、チャンピオンベルトみたいだな」

「バックルが大きすぎますね」

「まあ、これを好む者もおろう。自分の好物は、他人の苦手というからの」


 ミュリーシアの言葉は、蓼食う虫も好き好きといったところだろうか。

 ライトニングベアが残したマジックアイテムは、見た目だけで散々な言われようだった。


「でも、熊がチャンピオンベルトっておかしくないです?」

「つまり、チャンピオンベルトじゃないんだろうな」


 形が似ているというだけで、能力とは関係がない。そう考えるのが自然だった。


「もしチャンピオンベルトだったら、どうなるのです?」

「シアがつけることになる」

「それは、いささか遠慮したいの」

「ジャージは良くて、チャンピオンベルトはなしですか」


 レイナとしては両方なしにしたいところなのだが、そこはセンスの問題だ。


「どんな効果があるのか気になるが、後回しでいいか?」

「そうだの。あとでゆっくり確かめれば良かろう」

「ベーシアの魔法だけ、あればよかったんですけどね」


 今は時間もないので、検証はしないことになった。

 巨人のつるはしと同じく、ミュリーシアの影に収納することにする。


「ミュリーシアの影って、一体どうなってるんです? 四次元的なポケットですか?」

「あそこまで便利ではないのう。大した量は持ち運べぬ。前にも言うた気がするがの」

「無尽蔵だったら、温泉もあんな力技で運ぶ必要ないからな」


 少し便利な入れ物。その程度の認識が良さそうだ。

 そう結論が出たところで探索を再開する……前に、やるべきことに気付いた。


「……このこと、ノインに報告しておくか」

「早速、スマホの出番ですね。距離の実験にもなりますし」

「ああ。便りがないのは良い便りとしたかったんだがな」

「はいはい! リリィがすまほしたいのです!」


 優しげな微笑を浮かべて、スマートフォンを手渡した。


「ありがとうなのです!」


 リリィが背中を丸めて、必死に操作する。

 程なくして、ノインのスマートフォンとつながった。


『もしもし、こちらノインでございます』

「おおうっ。すぐに出たのです」

『リリィ様でございましたか。なにかございましたか?』

「トウマに代わるのです!」


 本当に、電話を掛けたかっただけのようだ。びゅんっと飛んで、バトンのようにスマートフォンをトウマに手渡した。


「ノイン、突然すまない」


 冷静に考えると、通話ではなくメッセージで充分だった。かといって、今から切るのもおかしい。

 そんな中途半端な気持ちで通話を続けたのだが、聞こえてきたのは浮き足だったようなノインの声。


『本当に、ご主人様のお声が……』

「ノイン?」

『いえ、失礼しました。少し、驚いただけでございます』

「こっちは森だからな。つながったことに驚くのは当然だろう」


 気を取り直し、続け……ようとしたところで。トウマは、くるっと反対側を向いた。リリィやレイナから、粘度の高い視線を向けられていることに気付いたからだ。


「早速ですまないが、良くない報告がある」


 悪いではなく、良くない。その表現で、スマートフォンの向こうかのノインからややほっとした様子が伝わってくる。

 少なくとも、誰かが怪我をしたというわけではないのが分かった。


「森に、モンスターが出た。こっちの調査が一段落するまで、ゴーストたちを近づけないようにして欲しい」

『承知いたしました。こちらからも伝えるようにいたします』

「あと、念のためニャルヴィオンにも」

『……左様でございますね』


 ゴーストだけであれば、トウマから直接命じればいい。

 それなのにスマートフォンで連絡してきたのは、ニャルヴィオンのことがあったから。


 主人の意図を、ノインは完全に理解した。


『私めとニャルヴィオンは、森の外側で待機に変更とはなりませんでしょうか?』

「……そうだな」


 その上で、なんとか役に立とうとする自動人形オートマタ。トウマも、その有効性は認めざるを得ない。


「分かった。ただし、森に入るのは基本的にこっちの要請があってからだ」

『承知いたしました』


 スマートフォンの向こうで、ノインが瀟洒に一礼した気配がする。

 トウマの思い込みかもしれないが、その様は簡単に想像できた。


「それじゃ――」

『離れていても、声を聞くことができる。すまほとは、本当に素晴らしいマジックアイテムでございますね』

「――あ、ああ」

『それでは、急ぎ出立の準備を整えます。どうか、気を付けてくださいませ』

「ああ、そっちも」

「ありがとうございます」


 お互いを心配する言葉で、通話が終わった。


 何事も無かったように振り返り、スマートフォンをレイナに返しながらトウマは口を開く。


「ノインとニャルヴィオンが、森の外で待機することになった」

「すぐに駆けつけられるようにですか」

「森の異常ということは、“王宮”に黒騎士が現れるようなことはないと言えるだろうからの」

「そうだな」


 北の沸騰湾のように、魔力異常が起こっていても放置できるのならいい。


 そうでなければ。


 たとえば、すでにダンジョンのオーバーフロウが発生しているような場合。戦力はいくらあっても困らない。


「なんにせよ、こっちの探索結果次第か」

「ふむ、共犯者よ。モンスターが出ると分かった以上、《エボン・フィールド》を展開して移動したほうが良いのではないか?」

「できることはできるんだが……」


 トウマが腕を組み、渋い表情を浮かべる。


「下生えの草とか、虫とかに悪影響を与える可能性がある」

「ぬう。ネイアードたちのようなものだの」

「ネイちゃんたちみたいに、抑えられないのです?」

「無理だな」


 少なくとも、今すぐは。


「あたしの《プライマル・フィールド》は、基本固定なんですよね」

「できぬのであれば、仕方があるまい。なに、レッドボーダーには負けぬぐらい働いてみせよう」

「そこは対抗しなくていいんだが……。ありがたいけど」


 このまま、森の奥を目指していいものか。

 誰も口に出さないが、逡巡の気配がする。


「精霊アムルタートが指摘していた問題もある程度はっきりしたことだし、探索の方針を改めて決めるというのはどうだろう?」

「……そうじゃな。焦って、自らの踵を踏む愚を犯す必要はあるまい」


 急いては事を仕損じるといったところだろうか。


 レイナも、反対はしない。

 グリフォンの翼で、青空円卓会議が始まった。

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