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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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153/295

153.利用と配分

「ただいまなのですよ~」


 “王宮”の壁を通り抜けて、リリィが円卓の間に戻ってきた。その勢いのまま、トウマの首にしがみつく。

 どうやら、レイナは置いていかれたようだ。


「トウマもミュリーシアもノインもちゃんといたのです! ほんとに、すまほで遠くからお話できていたのです!」

「うむ。間違いなく声が届いておいたぞ」

「はい。かわいらしいお声でございました」

「えへへへへ……。そんなにほんとーのことを言われると、照れるのですよ!」


 三つ編みにした金髪に触れながら、リリィが霊体をくねくねとさせる。

 図太いなと思わなくもないが、ここは微笑ましさが勝った。


「スマホのこと、気に入ったみたいだな」

「すごいマジックアイテムなのです! 板をポチッとすると、いろいろできるのですよ」


 機能もさることながら、タッチパネルを操作するのが楽しかったらしい。

 天真爛漫。そして、純真無垢。にぱーっと本当に楽しそうに笑った。屈託も邪気もない笑顔だ。ヴァレットと対峙して思うところもあったが、そういった負の感情が洗い流されていく。


「ちょっと、リリィちゃん。先に行くの、ひどくないですか?」


 少し遅れて、片手にスマートフォンを持ったレイナが円卓の間に入ってきた。汗はかいていないが、呼吸は荒い。走ってきたようだが、直線距離で移動できるリリィに勝てる道理はなかった。


「ごめんなさいなのですよ。楽しい気持ちが、抑えられなかったのです」

「そんなの……許しますけどね!」

「レイナ!」

「リリィちゃん!」


 ふたりが、ひしっと抱き合った。


「奥様、よろしければ」

「あ、ありがとうございます」


 ノインから差し出されたゴーストシルクのタオルを受け取り、倒れ込むように椅子に座った。


「ひとまず、能力の確認はできたということで良いのかの?」

「そうだな」


 ノートパソコンの画面を閉じながら、トウマがうなずく。


「知識の検索、動画と音楽の再生。それから、スマホとの連携か。もしかすると、いずれ機能が増えるかもしれないが」

「逆に、スマホのほうはまだまだですね。通話とメッセの距離の確認は必須ですし。あと、マップアプリがダンジョン専門になったっぽいです」


 回復したレイナがスマホを操作し、画面を向けた。

 入り口と思しき場所から真っ直ぐに伸びる道。そこからいくつかへ分岐して、部屋へとつながっていく。


 見憶えはないが、この構造に心当たりはある。


「これは、第一層の地図かの?」

「ええ。ここで切り替えると……第二層になります」

「灰色になっているところが多いようでございますが?」

「ああ。行ったところしか、出ないみたいだな」

「ですね。代わりに、建物の中も表示されますよ」


 さっとタップして表示を切り替えると、駅ビルの内部も表示された。


「食べられないニセモノが、あったところなのです!」

「ああ。食品サンプルだな」


 地図は、最上階のレストラン街。リリィは、その構造を憶えていたらしい。


「説明書きがあるわけでもないのに、よう次々操作できるの。妾にはさっぱりじゃ」

「リリィもなのです!」

「後期高齢者みたいなことを言い出さないでくださいよ」

「いや……まあ、仕方がないだろう」


 年齢だけなら、ミュリーシアも後期高齢者ではないか。

 そう言いかけたが、トウマは寸前で思いとどまった。普通にやってはいけないことだと気付いたからだ。この辺りは、レイナの薫陶が効いている。


 赤い瞳が、剣呑に輝いたような気がしたからではない。決して。


「ああ、失礼しました。あたしたちの基準だと、ミュリーシアは充分高齢者ですよね」

「玲那……」


 なぜ、わざわざ虎の尾を踏みに行くのか。トウマは、頭を抱えずにいられなかった。


「ふっ。そもそも、種族として寿命が違うからの。ドラクルの中では、妾は若輩も良いところよ。そもそも、同年代が数えるほどしかおらんかったがの」

「意外と動じませんね」

「ここには、妾より年長者が二人もおるからの」


 白い牙を見せて、残る二人――リリィとノインに流し目を送る。


「稼働時間を基準にいたしましたら、私めが最も年少かと」

「リリィも、昔に死んでしまっただけなのですよ~」

「よし。この話は止めよう」


 ぱんっと手を叩いて、トウマが一方的に宣言した。地雷原でブレイクダンスを踊る趣味は、持ち合わせていない。


 公の場で年齢の話をしないこと。

 これは、アムルタート王国の法律に明記すべきかもしれなかった。


「そうだの。これ以上続けても、レイナだけが年を取っていくという話にしかならぬからの」

「あたしが悪かったです」


 サイドテールの髪を揺らし、レイナは深々と頭を下げた。

 これで、喧嘩両成敗と言えるだろうか。


 分からないが、トウマは好機を逃さず話を切り替える。


「とりあえず、パソコンは“王宮”に置くようにしよう」

「そうですね。普段から持ち運ぶには、ちょっと重たすぎますからね」

「それは良いが、すまほのほうは誰が持つのだ?」

「はいはいはい! リリィが預かるのです!」

「あたしも、それでいいと思います」

「レイナ、いい人なのです!」

「ふふふふふ。水くさいですね、あたしとリリィちゃんの仲じゃあないですか」


 ふたりが、ひしっと抱き合った。


「茶番じゃな」

「俺も、反対はしない」


 リリィは島から出られない。距離の制限に関しては確認し切れていないが、通信手段を持たせるのは当然の選択だった。


「あと、パソコンのほうも夜の間はゴーストたちに貸し出してもいいな」

「ふえ? どういうことなのです?」

「眠らないのなら、動画を見て暇潰ししてもらおうかなということだな」


 貴重品ではあるが、後生大事に取っておくような物でもない。逆に、使ってこそ意味があるものだ。

 それもこれも、バッテリーが減らないらしいのでできることだった。


「むむむ。それは、魅力的なのです」

「センパイ……。せっかく夜、眠るようになったのに台無しじゃないですか」

「あ、ああ……」


 レイナの緑がかった瞳に半眼でにらまれ、珍しくトウマがたじろいだ。

 しかし、すぐに復活する。この程度のこと、何度も経験してきた。


「でも、全員がそういうわけじゃないしな」

「それはそうですけど……」

「リリィも、二日に一回ぐらいは寝るのです!」


 下手に反対される前に、リリィが妥協の姿勢を見せた。


「みんなと、ニャルヴィオンにも見せるのです! あと、アムルタート様の前で再生したらアムルタート様も一緒に見れるのです!」

「リリィちゃんは、優しいですね」

「照れるのですよ」


 てれってれっと、リリィが体をくねくねさせる。

 それが決め手というわけではないが、ノートパソコンの貸し出しは認可された。


「精霊像も普通じゃないみたいだし、案外本当に喜ぶかもしれないな」

「だとしたら、妾の腕もなかなかのものだの」

「ああ、夜の間と言えば」


 レイナが、タオルを返すついでという風にノインを見る。


「夜の間だけ、あたしのスマホをノインに預けるのもありですね」

「奥様?」


 さすがに意図が分からず、タオルを受け取りながらノインは戸惑う。そうしていると、外見相応に幼く見えた。


「寝てる間に連絡が入ったら嫌じゃないですか」

「なるほ……ど?」


 言っていることは正しいが、現実的にはあり得そうにない。

 その狭間でノインが戸惑っていると、レイナが花がほころぶように破顔した。


「というのは建前で。不寝番なんて、暇でしょう。スマホで、音楽聴いたり動画見たりしたらいいんじゃないですか?」

「ああ。プレイリストには料理番組の動画もあった気がするな」

「おお。じゃあ、動画見るのもお仕事ですよ」

「料理番組……でございますか」

「そうです。新料理の研究ですよ」

「ノインにしかできないことなのですよ!」


 料理と聞いて、リリィも後押しをする。

 これには、さすがに抗しきれない。


「暇ではありませんが……ご配慮はありがたく」


 最終的には、興味が勝ったようだ。ノインが瀟洒に一礼して、受け入れる。


「こうなると、もっとスマホが欲しくなるな」

「ネイちゃんが来たら、一緒に第二層を隅から隅まで探してみるのです!」


 階層核は魔力に還ったが、それでモンスターがすべて消えるわけではない。

 追加でスマートフォンが手に入る可能性は充分にあった。


「スマホは一人に一台。当然ですよね」

「じゃあ、ベーシアにも渡すのです?」

「それは……」

「ちょっと……」


 誰も、なにも言わない。

 誰も、目を合わせようとしない。


 つまり、そういうことだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベーシアはきっとどっかで似たようなの持ってる……互換性は不明だけど。
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