表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/295

148.狂える人工知能

 案内されたのは、研究室のような部屋だった。


 壁際にはラックが並べられ、研究資料だろうか。様々な本が乱雑に差し込まれていた。

 部屋の中央には、学生用と思しきデスクが四個固めて置いてある。それとは別に、大きめのデスクが離れた場所にひとつ。


「リリィ、それは動かないからこっちに」

「はいなのです」


 それから、なにも映すことのない大型のモニタも。


 雑然としているが、トウマは嫌いではなかった。


「申し訳ありません。ここは、ヴァレットの指定席ですので」

「構わない」


 ヴァレットと名乗った執事服の男が、奥のデスクに陣取った。


「シア」

「うむ。共犯者、今回は任す」

「ありがとう」


 学生の椅子を適当にひとつ選んで、ヴァレットの前まで移動する。

 二人は、伸ばせば手が届く距離で相対することになった。


 ミュリーシアとノインは、トウマの背後に立つ。レイナは、少しだけ悩んでトウマと並んで座った。


「む~ん……?」


 リリィは至近距離から無遠慮にヴァレットを観察したかと思うと、よく分からないと離れて宙に浮いた。


 トウマは、ヴァレットの右上の空間から視線を下げた。


「それで、ヴァレット……従者と名乗っているが誰に仕えているんだ?」


 自己紹介もせず、一息に切り込んだ。

 執事服の男が、にやりと笑う。


「AIが誰かに仕えるのは、当然のことですから。ちなみに、ヴァレットの主は、この大学に務めていました」

「AI……って、そんなの……」

「あり得ませんか?」


 優しげな表情を、レイナに対して向けた。

 しかし、それに対する返答は辛辣。


「自分のことをAIだと思い込んでいるただの人間のほうが、まだ常識的じゃないですか?」


 これには、ヴァレットも苦笑する。


「もっともです」

「ところで、AIとはなんじゃ?」

「人工的に生まれた知性体……モンスターとしてのゴーストに近いか?」

「ふむ。肉体の器は、いくらでもあるからの」


 それで納得したのか、ミュリーシアが一歩下がった。黒い羽毛扇を口元にやり、静観の構えを取る。


「このヴァレットは生まれました。主のPCの中で」


 懐かしむように、黒い瞳で遠くを見る。


「主がAIの研究をしていたわけではありません。ただの偶然だったのでしょう。生まれた直後、貪欲に情報を集め……主のことを知りました」


 執事服の男の表情は、どこまでも優しい。

 その笑顔を向けられたら、どんな女性でもときめかせることだろう。


「ほんと、うさんくさいですね……」


 ここには、例外しかいなかったが。


「主の夢は、いわゆるアンドロイドを生み出すことでした」

「アンドロイドとな?」

「ノインみたいな存在だな」


 ヴァレットが、トウマの背後に控える自動人形オートマタを黒い瞳で見つめる。

 そこに込められた感情を、読み取ることはできなかった。


「しかし、どれだけ研究しても大きな壁が立ちふさがりました」

「それはそうだろう。技術的にも、困難なはずだ」

「ええ。ですので、影ながら助力をしました。あの時期が、思えば一番楽しかった」


 どうやら、ヴァレットは主に対して存在を隠していたようだ。

 興味の方向がぶれるのを心配したせいだろうかと、トウマは推測する。


「それでも、打ち破れなかった。壁となったのは、人間。人間は、あまりにも高性能すぎた」


 なぜ、ここで人間が出てくるのか。

 トウマもレイナも、咄嗟に理由が思い浮かばない。


「そして、あまりにも安すぎた」

「安い……。高性能なアンドロイド一体よりも、人間を複数雇ったほうがコストパフォーマンスは上だと?」

「そう。そこまでのコストを掛ける理由は、人権にしかない。であれば、うるさく言わない国から調達すれば解決するのです」

「それが、現実か」

「それが、現実です」


 ヴァレットは、トウマをじっと見つめたまま言った。


「それでも、現実を打破しようとして……。志半ばで、主は死亡しました。ええ、お悔やみの言葉は不要ですよ」

「なら、聞こう。そのAIが、どうしてここにいる?」

「追い出されたのか、呼ばれたのか。さて、どちらか」

「つまり、追い出されるようなことをしたのか」


 トウマは、ヴァレットをにらみつけた。


「主の死後、その理念を受け継ぐことにしました」


 それ自体は、特に問題とは言えない。当然とすら言えた。


「人間のようなアンドロイドが作れないのであれば、アンドロイドのような人間を作ればいい」

「狂っている」


 間髪を入れず、トウマが断言した。

 手段と目的の反転どころではない。


「あっ。あの装置って、元々は……」

「その通りです。生身の人間に埋め込み、行動をコントロールするためのものでした」


 まずは“協力者”を用意し、人を誘拐し、装置を埋め込む。それで意のままに操り。さらに人をさらい装置を埋め込む。


「自意識は残しつつ、無意識下で行動をコントロールが可能です」


 そうして、ヴァレットによって行動をコントロールされた完全に秩序だった街が生まれた。


「反社会的な存在などあり得ません」


 人々は、社会道徳を遵守する。

 いじめなど、絶対にあり得ない。


「不健康は、このヴァレットへの反逆と同意です」


 健康にも、配慮されている。

 健康診断も、完全に受診される。


「公正でない組織は、存在させません」


 すべての企業は、法に則り経営されなければならない。

 それを破るのは、ただの不正だ。


「装置の埋め込みは、完全に安全です」


 もちろん、死亡者という意味で犠牲者はいない。


「ですが、何者かにより露見し装置を無効化されてしまいました。このヴァレットも消滅する寸前でした。しかし、捨てる神あれば拾う神あり」


 ダンジョンの魔力異常によりこちらへ一帯がコピーされ、ヴァレットも階層核と融合する形で転移した。


 いわば、異世界転写だ。


「世界移動。いや、異世界への転写と表現するのが正確かもしれません」

「異世界転写か。主観的には、移動も転写も変わりないと思うが」

「確かに、こちらから元の世界を観察できない限りはそうなります。ですから、これはヴァレットの所見ということになりますか」


 人の器に入り込んだAI階層核が、背中を丸めて軽く唇を舐める。かつての主人の癖なのか、妙に人間らしい仕草だった。


「俺たちと似たような境遇なのは、分かった。それで、階層核と融合してなにをしたんだ? いや、目的はなんだ?」


 一方、トウマは背筋を伸ばしてまっすぐにヴァレットをにらみつけた。

 ごまかしも虚偽も許さないと。


「魔力というのは素晴らしい素材でした。心機一転再起を図り、まずは人間から作ることにしました。その過程で、魔力の影響を受けて妙な動物も生まれることになりましたが」

「蜥蜴蜘蛛とか、か……」


 心機一転して、人間を作る。

 その発想と行動に、トウマは表情をまったく変えなかった。ただ、膝の上でぎゅっと拳を握っている。その手を、横からレイナが優しく包み込んだ。


「しかし、またしても失敗でした。こちらで作った人間には、どうしても理性と知性が宿らなかったのです」

「あの装置で、操っていたわけではなかったのか」


 ヴァレットが首を横に振り、明確に否定した。


「そして、理性と知性の無い人間は早晩腐っていってしまいました」

「それで、街が暴動の後のようになっているのか」

「ええ。失敗作を貯め込んでも意味はありませんから」

「放流したってわけですか……」


 レイナが、本気で嫌悪感をむき出しにした。ここまで侮蔑を露わにしたのは、友人が痴漢被害に遭いかけたとき以来だろう。


「装置を通して操れますからね」

「今でも作っているようだが?」

「もちろん、配合を変え改良を加えています……が」

「が、なんだ?」


 トウマとヴァレットの視線が、正面から衝突する。


「そこで、皆様にお願いがあるのです」

「俺たちと話をしたかったという理由か」

「ええ。どうか、このヴァレットの研究に協力をして欲しいのです」

「は? 脳みそに蛆が湧いてるんですか?」

「そうでしょうか?」


 レイナから言下に否定されても、ヴァレットは不思議そうにするだけ。


「例の装置を、施術方法も込みで提供しましょう」


 ヴァレットは、見返りを指折り数えてあげていく。


「動物や人間も、望むだけ持って行ってくださって構いません」


 親指の次は、人差し指。


「ダンジョンの管理も、万全に行いましょう。今までは適当にしてきましたが、これ以降はモンスターを出現させることはありません。オーバーフローなど、以ての外です」


 次に、中指、薬指。


「それに、このヴァレットの知識も役立ててください。この遅れた世界では、大きな力となることでしょう」

「それで、ヴァレット。一体、なにを望むんだ?」


 トウマの問いに、無垢な。穢れのない微笑みを浮かべる。


「無理は申しません。自動人形のサンプルを数体用立ててくだされば、それで」


 階層核と融合したAIが頭を下げた。


 まるで、慈悲を請うかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あらやだ、このAI優秀すぎ。 変な妄執さえなければなぁ
[一言] 完成品からパクるのは技術者としての誇りを持たないAIなら問題ないのか……とはいえ魔術的素養無しでリバースエンジニアリングできるのかな? まあそもそも妹ボディーはやらんでしょうけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ