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使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記  作者: 藤崎


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146/295

146.戦闘の後は小休憩

「みんな、良くやってくれた。無事で良かった……」


 深い息とともに本音を吐き出し、トウマはその場に座り込みそうになった。

 代わりに、レッドボーダーを地面に突き立てて体重を預ける。


「ダンジョンがヤバいところだって、改めて思い知らされましたね……」

「階層核でないのに、これほどとは。心から、驚かされました」


 トウマに寄り添うようため駆け寄ったレイナとノインが、顔を見合わせ安堵した。


「ノイン、無理をしたんじゃないのか?」

「稼働に問題はございません。ただ、増速機構アクセラレートの再使用は難しいかと」

「それは仕方ないですよね」

「ああ。無理はしないでくれ」


 トウマも回復し、膝と背筋を伸ばす。

 いつまでも、心配を掛けないため。


 それから、ミュリーシアを迎え入れるため。


「なかなかに、厄介な相手であったの」

「ミュリーシア、やっぱりすごいのです!」


 抱きついて感動を表現するリリィを優しい手つきで受け止め、そのままキャンパスへと降り立った。


「ああ、助かった」

「なに、共犯者やレイナのお陰よ。それに、リリィとノインの頑張りもあってこそ。妾だけの功績ではないわ」


 地上へ戻り、羽根をしまったミュリーシアが優しく微笑んだ。

 どうやら、鬱憤は完全に晴らせたようだった。


「もちろん、ニャルヴィオンもじゃぞ」

「にゃ~」


 香箱座りの状態から、前肢を伸ばしてニャルヴィオンが高らかと鳴いた。勝利宣言をしているのかもしれない。


「お手柄なのですよ!」

「にゃ~」

「石炭以外に、あげられるものがあるといいんだがな」

「ドワーフの技術力、すごいんでしょうけど困りものですね」


 戦闘の緊張感から解き放たれ、どれもすっきりとした笑顔だった。


「トウマ、トウマ! クッキーの時間じゃないのです?」

「どうする?」

「そうですね。せっかくですから、食べましょうか」


 戦闘の後だが食べられるかという意味も込めて確認したが、問題ないようだった。こういうところはタフだなと、トウマは感心する。


 レイナの中ではトウマが最優先であり、他は順位が低いせいだとは考えない。


「魔力の還元が終わるまでは、やることもないしの」

「そうだな」


 ミュリーシアの指摘が最後の一押しとなり、小休憩を取ることになった。


 無事だったキャンパスのベンチに、レイナ、トウマ、ミュリーシアの順番で座る。リリィは、その上で浮いたまま。


「にゃっ!」


 ニャルヴィオンは、周囲を警戒して見回りをしてくれるようだ。


 そして、ノインは当たり前のようにトウマの背後で待機する。


「ノインも、座ったほうがいいんじゃないか」

「大変申し訳ございません。こちらのほうが心身ともに休まりますので」

「そうか……」


 無理強いすることもできない。

 正直なところ落ち着かなかったが、トウマはなるべく意識しないことにした。


「じぃ……」


 それに、すみれ色の瞳のほうが気になった。


「今度は、俺がレイナに食べさせればいいのか?」

「受けて立ちますよ?」

「すまなかった」


 あっさりと撤退し、トウマはレイナとチョコレートクッキーを分け合った。


 緊張と疲労した脳と体に、糖分が染みる。飲んだことはないが、恐らくエナジードリンクはこういうものなのだろう。


 同時に、もうひとつ欠けていたもの。魔力が補われる感覚がした。


「魔力が回復するときの感覚は、いつもながらなんとも言えないな……」

「むずがゆいような、ぞわぞわっとするような不思議な感じですよね」


 しかし、それは一過性のものでしかない。

 もっと大きな問題は、口の中の水分だった。


「美味しい……ですけど、次からは飲み物も欲しいですね。お茶とは言わないですから、せめて水を」

「俺が殺菌すれば、拾ったペットボトルも使えるか?」

「それですよ! なんで先に思いつかなかったんですかね」

「仕方があるまい。妾たちは、全知でも全能でもないからの」


 トウマの隣に座るミュリーシアが、ゆるゆると黒い羽毛扇を振る。


「まあ、ペットボトルとやらがなんなのかは知らぬが」

「便利な容器なんだが……そうだ。シアも、クッキーを食べないか?」

「ふむ……。一枚だけ、もらおうかの」


 血を吸った直後でもあり、影術の行使に魔力もそれほど必要としない。

 それでも、食べる気になった。


「別に、一枚だけじゃなくてもいいいんだがな」


 なぜか、トウマは無性にうれしかった。


「魔力回復が必要なのは、共犯者とレイナであろう。それに、あまり妾が食べてはリリィが良い顔をせんからの」

「そんなこと……ないのですよ?」


 ぷいっと顔を背けるリリィ。

 ノインまでも、自然と笑顔となる。


「あのまま日本にいたら、こうやってセンパイと同じ大学に通ったりしてたんですかね」

「可能性はある」


 トウマは否定しなかった。

 だが、肯定したかというとそういうわけでもない。


「で、その可能性はどのくらいあります?」

「玲那の頑張り次第で上下するな」

「つまり、全然一緒の大学に行く気がないってことじゃないですか!」


 トウマは、黄金の沈黙を選んだ。

 ミュリーシアは、口元を黒い羽毛扇で隠している。


「まったくもう。これじゃ、まるであたしが頭悪いみたいじゃないですか」

「そうは言っていない」

「本当ですかぁ?」

「勉強に向いていないとは、思っている」


 レイナは、無言でトウマの足を蹴った。


 そうして、チョコレートクッキーを食べつつ休むことしばし。


 その間にも、魔力還元は進んでいた。

 ゴリラ本体だけでなく、鈍色の全身鎧と巨大な鎖鎌も一緒に。


「あれも、ティラノサウルスと同じでダンジョンのモンスターだったということなんだよな……」

「ゾンビみたいに、何体も出てくるわけではないってことですね」

「お猿さんは、もうこりごりなのですよ~」


 さすがのリリィも、疲れた様子で肩を落とした。

 まったく、完全に同意だった。


「マジックアイテムになるとしたら、武器か鎧でしょうか?」

「使います?」

「そもそも、ちゃんと俺たちが使えるサイズなんだろうか」


 トウマの疑問に、誰も答えられなかった。


「ま、まあ。ミュリーシアなら振り回せるんじゃないですか?」

「共犯者をたちを巻き込まずに……とは、断言できぬの」

「鎧のほうは、ネイアードが使えなくもないだろうが……」

「必要とは思えぬの」


 しかし、その心配は杞憂に終わった。


 そのまま休むことしばし。


 魔力還元が終わり、光が収束する。

 それが消え去ったとき、地面に残ったのは小さな板状の物体だった。


「また、すまほってやつなのです!」


 真っ先に飛んでいったリリィが、地面を指さした。

 トウマたちも、ベンチから立ち上がる。


「ゴリラのスマホですか」

「そこは、関係ないみたいだけどな」


 魔力還元が終わり、残ったスマートフォンをトウマが拾い上げた。


 ティラノサウルスのときと同じく、デザインに元のモンスターの特質は反映されていない。背面には世界中で有名な、かじられたリンゴのマークが描かれている。


「前は、これでロック解除されたが」


 画面に軽く触れると、液晶画面に光が灯った。


「地図で、ございますか?」

「ああ。前回と一緒だな」


 だが、違いはもちろんある。

 具体的には、その縮尺だ。


「マークがついているのは、図書館みたいですね」


 地図は、より細かくなっていた。


「図書館? 書庫かの?」

「本屋さん、なのです?」

「本がたくさんあるという意味では、同じだな」


 一緒にスマートフォンの画面を見ていたレイナが、ふと顔を上げる。


「ここまで来てなんですけど、このあからさまなヒントってどこまで信じていいものなんですか?」

「疑う理由があるのかの?」

「罠じゃないかって言いたいんだな?」

「そうです。だって、ダンジョン的にはあたしたちにクリアーされたくはないですよね?」

「それが、そうでもないのだ」


 黒い羽毛扇を閉じ、手のひらでもてあそびながらミュリーシアが言葉を探す。


「ダンジョンは、なにから生まれるか」

「そこまで遡るんですか?」

「魔力異常だな」

「うむ。共犯者は、良い生徒だの」


 レイナが頬を膨らませ、身振りで話の先を促す。


「では、その魔力異常が頻発するきっかけはなんだったかの?」

「神蝕紀に、神々が異界の神に滅ぼされたせいだったな」

「うむ。敷衍すればダンジョンは、神であるともいえる」


 強引なのは分かっているのだろう。

 反論の声を黒い羽毛扇で制し、ミュリーシアは続ける。


「神は、人に試練を与える。だが、乗り越えられぬ障害を課すこともない」

「ゆえに、ダンジョンは攻略可能である……と? シアが言いたいのは、こういうことか」

「うむ。無論、個々の難易度はあるがの。また、挑む側の実力も勘案はせぬであろうが」


 トウマは、第一層の数々のトラップを思い出す。

 少しは勘案して欲しかった。


「それはちょっと、自分に都合よく捩じ曲げすぎじゃありません?」

「そうなのです! 第一層の宝箱の罠は、リリィじゃなかったらトウマのお世話になっていたのです!」

「そもそも、入り口の石と溶岩のカーテンで死ねますけどね」

「戦車もそうだな」

「個々の難易度はあると言うたであろうが」


 赤い瞳を向けて、各論を封じ込めた。


「だいたい、第一層でも鍵があったであろう。あのときは、特に疑問はなかったようじゃが?」

「あれは……。確かに、そうですね……」


 腕を組んでいたレイナが、それを解いて降参するように両手を挙げた。


「よくよく考えると、第一層も第二層も、ここの難易度が異常なだけな気がしてきました」

「殺意と悪意はあっても、本質的には攻略可能な存在であるというわけだな」

「うむ。このすまほとやらも、見合った報酬と言うことになろう」


 あの巨体に対して、残ったのはスマートフォンひとつ。

 拍子抜けしてしまいそうだが、この際、情報の価値は黄金よりも重たい。


 トウマはスマートフォンをロックすると、制服の胸ポケットにしまった。

 そして、険のある瞳を鎧のゴリラが倒れていた方へ向ける。


 その先には、巨大鎖鎌の被害免れた大学の図書館が存在していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドロップが進行アイテムのみというのは渋い……やはり進ませる気はあまりないような?
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