シーニス国の老人と木
そろそろ次の仕事を見つけて移動だ。
護衛の仕事は、狩りや探検や傭兵などを仕事とする者たちの組合があり、どの国でも詰所があって、そこで受けられる。
顔の効かない俺は仕事を選ぶ余裕は無い。だが今日は困った。
この辺りにオークがいると聞いた、という羽振りの良さそうな商人が俺を探していた。
なんでも商談相手が連れて来いと言ったらしい。
取って食われてたまるか、と隠れようとしたが、すぐ見つかってしまった。
給金は出すから、と頭を下げて頼まれた。
断ると恨まれそうなので引き受けた。
案内された館は、その辺りの建物とは少し異質な雰囲気だった。
シーニスという国の人間が住んでいるらしい。
館の主人は白い髭の老人だった。
庭には細くうねった幹の木が、紫色の房状の花をたくさん咲かせていた。
聞けば豆の仲間で夏には実がなるそうだ。
腹いっぱい食えそうだな、と言ったら老人に大笑いされた。
実は食えないらしい。
同じ庭には、嗅いだことのない強烈な、甘ったるい匂いがする木があった。
葉を取って茶にすると美味いと言って、断る間もなく用意された。
不思議な味の茶だ。口がきゅっとする味で、胸がすうっとする匂いだ。
美味いな、と庭を眺めながら言うと、老人は「それは良かった」と目を細めた。
翌日商人から信じられない量の金貨を渡された。
あの館の主人は大層機嫌よく、交渉に応じてくれたらしい。
あまり大金を持つと危ないので、詰所に大半を預けた。
いい稼ぎだったが、次の仕事は慎重に選びたい。