繕いもの
家族で村を追われたのはほぼ半年前だった。
結局戻れることになったが、俺だけ戻らなかった。
だから旅の道具は色々と揃っているが、服があちこち傷んで来た。
オークの道具では繕えず放置していたが、ズボンの股の破れがそろそろ限界なので、例の学者先生の宿を訪ねた。
とりあえず学者先生と大声で呼んだら、先生は顔を真っ赤にして飛び出してきた。
恥ずかしいから名前を呼べと言う。フランというらしい。
俺はボイドだ、と言ったら「かっこいい名前だね」と言われた。
ボイドと言うのはオークの住む密林にある木の名前だ。
枝葉も花も実も毒があって、食べると腹を壊す。
夏には赤い花がたくさん咲くが、枝は細く他に使い道も無い。
おまけにすぐあちこちに広がるので、見つけたら引っこ抜く事になっている。
要するに厄介者という意味で、村を追われる時に付けられた名前だが、フランに皮肉のつもりはなさそうだった。
針と糸を借りて繕いものをすることになった。
人間の布は極端に目が細かいせいか、針も糸もびっくりするほど細い。
爪の先より細い。指で挟むと見えなくなるくらいだ。
まず針に糸を通せと言われた。
無茶言うな、と言ったが出来るまでメシ抜きだと言われて、何とか通した。
なんとか股の破れを繕う頃には日が暮れていた。
だがその間に、フランが他の服や荷物袋などを全部繕ってくれた。
本当に助かった。