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04

 ルーシーはエリオットに、自分がアングラード家の後継を生すのだと伝えた。

 婿を取らなければならないのだから諦めて欲しいと。

「じゃあ僕が婿になるよ」

 けれどエリオットは即答した。

「少し時間はかかるかもしれないけど、父上たちを納得させるから」


「……どうして……そこまで私のことを」

 出会ってからまだ数ヶ月しか経っていないのに。

 それに、好意を示すエリオットに対するルーシーの態度はあまり良くないものだろうに。


「初めて会った時に思ったんだ、『この子が僕の運命だ』って」

 少し顔を赤らめてエリオットは答えた。

「運命……ですか」

「うん。どうしてそう感じたかは説明できないけど……でもルーシーのことを知る度にその気持ちは間違っていないと思うし、会うたびにもっと好きになっていくんだ」

 エリオットの言葉に、今度はルーシーがその顔を赤らめた。

「綺麗で可愛くて、優しくて。強いところもあるけれど守りたくなるところもあって。それに……」

「もう結構です!」

 止まらないエリオットの言葉をルーシーは思わず遮った。

「分かりましたから……」

「分かってくれたの?」

 エリオットはルーシーの手を握りしめた。

「じゃあ僕と結婚してくれる?」

「え? いえ、そういう分かったではなくて……」

「ルーシー。僕に君を守らせて」

 真剣な顔でルーシーを見つめてエリオットは言った。


「いつも穏やかで笑顔だけど、ルーシーの目は寂しいって、悲しいって言ってるように見えるんだ。僕はそんな君を守りたいんだ」

「殿下……」

「君に寂しい思いはさせたくない」

 手を引き寄せるとエリオットはルーシーを抱きしめた。

「僕は君を一生をかけて守りたいんだ」


 じわり、と温かなものが胸に広がるような感覚を覚えた。

 養父母も今の家族も、ルーシーのことを実の娘のように可愛がってくれている。

 けれどずっと心のどこかで、本当の家族ではないことが引っかかっていた。

 自分の場所はここにはないような。

 心の中に足りないものがあるような。

 顔も覚えていないとはいえ、姉と母が死んだという話を聞いた時はひとりベッドの中で泣き崩れた。


 そんな不安な心を隠すように、ルーシーは常に笑顔でいるように心がけていたけれど。――エリオットはそれに気づいていたのだろうか。

「殿下……」

「お願いだから。僕の傍にいてほしい」

 抱きすくめるエリオットの背中に、ルーシーもそっと腕を伸ばした。



 エリオットに心惹かれていることを自覚したけれど、彼と一緒になることはまた別の話だ。

 悩んだルーシーは家族に手紙を送った。

 アングラード辺境伯家の父と兄からは『ルーシーの望むようにすればいい』と返事が来た。

 たとえそれでルーシーが王家に入ることになっても、ルーシーの幸せを一番に考えればいいと。


 けれどルーシーにとっては、家に残り兄の代わりに血を繋ぐことはとても大切なことだ。

 ルーシーにアングラードの血を繋いでもらいたいという父の願いと、兄の想い。

 それらを無視することはできない。

 さらに悩んでいると実の父から返事が届いた。

 そこには『悩むということは、殿下との結論は自分の中で出ているんだろう』と書かれてあった。『殿下がルーシーの立場を理解して婿入りしてもいいと言うのなら、それに甘えればいい』とも。


(甘える……)

 それまで考えてみたこともなかった、その言葉にルーシーの心がふと軽くなったような気がした。

(甘えてもいいのかな)

 ルーシーはエリオットに、アングラード家に入ってくれるならば彼からの求婚を受け入れると伝えた。

 エリオットは大喜びし――そして早速、他の王族たちに紹介されたのだ。


 エリオットの家族はルーシーを見てひどく驚いていた。――かつて追放されたパトリシアにそっくりなのだから、無理もない。

 彼らの驚きようから、あの出来事は彼らにとってまだ強い記憶を残しているようだった。


(私が妹であるということを知ったら……エリオット様はどう思うだろう)

 自分の兄がルーシーの姉を追放したと知ったら。

 優しいエリオットが気に病んだり、自分の兄を恨むようなことにならないだろうか。

「お父様……どうすればいいのでしょう」

 万年筆を見つめてルーシーは呟いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「話せる範囲はここまで」と普通に話せば良いと思う。 王宮内でゴタゴタが発生しても第一王子の自業自得 アメーリアに利する形になる様に心掛ける必要はありますが。
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