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第三王子の「運命の相手」は、かつて追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした  作者: 冬野月子
第三章 誠実な恋人たち

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02

「兄上」

 一人、先に出てきたエリオットは廊下の向こうから王太子メイナードが歩いて来るのを見て立ち止まった。


「エリオット。どうしてお前がここに?」

「ルーシーがアメーリアに呼ばれたので様子を見にいったのですが、母上もいて。女同士で盛り上がっていたので出てきました」

 ため息をつきながらエリオットは答えた。

 ルーシーの義兄の結婚話から、理想の男性像、そして貴族たちの評判や噂話といったことまで話が盛り上がっていった。

 その場で唯一の男であるエリオットが聞くにはいたたまれないような話題にもなってきたので退散してきたのだ。


「そうか……では私も戻ることにしよう」

「兄上は何をしにここへ?」

「アメーリアの様子を見にきたんだ。最近は動くのも大変そうだからな。だが今の話なら大丈夫だな」

 そう答えて、メイナードは意外そうな表情のエリオットを見て眉を上げた。

「何だ、その顔は」

「いえ……兄上がアメーリアのことを気にかけているとは思わなかったので」


「彼女は私の妃だ、当然だろう。――まあ、確かにシャーロットの手前もあるからあまり訪れてはいなかったが。さすがにもうじき子供が産まれるからな」

「……兄上は、アメーリアのことをどう思っているんです?」

 側妃であるアメーリアは公の場に出ることが滅多にない。

 そしてエリオットが知る限り、二人は私的な場でもあまり会うことがないように思えた。

「そうだな。始めは気まずさしかなかったな」

「気まずさ?」

「彼女はパトリシアの親友だ、私など憎くて仕方ないだろう。それが父親である宰相の命令で側妃にさせられたのだ。気まずさと申し訳ない気持ちと、けれど子供を儲けなければならないという……最初の頃は顔も見られなかったな」

 首をかきながらそう語る兄をエリオットは横目で見つめた。


 王太子は優しい穏やかな性格だが、流されやすく弱いところもある、というのが周囲の評価だ。

 その弱さは国王として相応しくないという者もいるが、周囲に優秀な者を揃えれば、民の心に寄り添える優しい王となれるだろうとも言われている。

 追放されたパトリシアが婚約者に選ばれたのも、家柄だけでなく彼女の気質がメイナードを補えるものだったからだと以前聞いたことがあるのをエリオットは思い出した。


「兄上は……どうして前の婚約者を追放などしたのですか」

 エリオットの問いにメイナードはぎくりと肩を震わせた。

 パトリシアのことをエリオットは知らないが、少なくとも今の王太子妃よりは良いように思う。

 母親やアメーリアから、ルーシーは顔だけでなくその品のある立ち振る舞い、そして芯の強さもパトリシアに似ていると言われた。

 ルーシーのように美しさと強さを兼ね備えていたというパトリシア。

 それに比べて王太子妃シャーロットは周囲への気配りが足りない、将来の王妃としての品位にも欠けるなどと言われているしエリオットもそう感じている。

(側妃という選択肢があるならばパトリシアを追放しなければ良かったのに)

 ルーシーと出会い、昔の話を色々と聞くにつれてエリオットは疑問を抱くようになった。


「――本当に、愚かだったと思っている」

 宙を見つめてメイナードは言った。

「だがいくら悔いたところで失ったものは取り戻せない……だからエリオット、お前は選択を間違えるな」

「……はい」

 表情の消えた兄の横顔を見ながらエリオットは頷いた。



「エリオット様……」

 恋人の声が聞こえてエリオットは振り返った。

「ルーシー。解放されたの?」

「はい……王妃様はまだいらっしゃいますが」

 そう答えると、ルーシーはエリオットの傍に立つメイナードに向かってドレスの裾を摘み膝を折った。

「王太子殿下にはご機嫌麗しく……」

「そんな改まった挨拶はいらないよ。君は家族になるのだろう」

「……いえ、それはまだ……」

「母はすっかり君が気に入ったようだ」

 そう言ってメイナードはルーシーへと歩み寄った。

「先日は挨拶もできなくて悪かったね」

「いいえ……」

「――ああ、最初会った時はそっくりだと思ったけれど。改めて見ると違うね」

 ルーシーを見つめてメイナードは言った。

「『彼女』はいつも困っているような顔をしていたからかな」


「困って……?」

「初めて会った時から私にどう接していいか迷っていたようだったよ」

「……それは、どうしてですか」

「さあ……私には最後まで彼女の本心は分からなかったよ。もっと彼女のことを理解していれば、あんなことにはならなかっただろうね」

 メイナードは困ったような、泣きそうな表情で答えた。




「ルーシー?」

 アメーリアの元へ向かうというメイナードの背中を、ルーシーがじっと見つめていることに気づいてエリオットは声をかけた。

「どうしたの」

「……聞いていたのと印象が違うなと……」

「兄上が? 誰に?」

「……お兄様です」

「セドリック殿?」


「エリオット様」

 ルーシーは傍のエリオットを見上げた。

「お話ししたいことがあるのです」

「何?」

「ここでは……」

「じゃあ僕の部屋へ行こう」

 エリオットが差し出した手をルーシーが取ると、二人は歩き出した。

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