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魔術師は最強になるために禁忌をおかした  作者: 五日 八一
第二章 生き辛い現在、乗り越える過去
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最終話


「つまり、そのままメタ達は放ってきたのか?」

「そう。クメン達も呼んだし、ある程度は回復させたし、別にもう私はいらないなと思って。それにヘキス(くそ)野郎を治療してやるのも癪だし」

「ああー、まあな……。いるよな、ああいう奴。普段は無口なのに突然空気読めない発言する奴」

「それな」


 二人はベンゼンから遠く離れた故郷にいた。

 山と川に囲まれた自然豊かな地だ。捨てたはずの実家はまだ借り手がつかなかったのか、空き家のままだった。それもそのはずで、両親がひと目を気にして集落からかなり離れた非常に悪い立地にあるからだ。よほどの物好きでなければ、ここに定住しようなどとは考えない。手放した家畜がいた柵は朽ち果てていた。

 家の中は埃だらけだったけれど、二人で手分けをすれば一日もせずに掃除を終えた。


 二人は芝生に寝転んで日向ぼっこをするのが日課になっていた。

 そんな二人が落ち着いてから、ようやくあの日の詳細を会話するに至っている。それまではお互いに安寧を求めて、努めて違う会話をしていた。


「なんで俺の場所がわかった?」

「勘」

「返事、雑すぎん?」

「いや本当なんだって。多分、長いこと封印して魔獣と一緒にいたから、なんか、匂いみたいなのを覚えてて、その匂いを辿ったらすぐに会えたし、魔獣が焦ってるのもわかった」

「だから助けてくれた魔術団員を放置してきたわけか」

「そう」


 二人はお手製の木苺ジュースをずずっと飲んだ。甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。


「魔力が暴走したっつう話はなんだったんだ?」

「わからん」

「それまでは呪文が魔獣の魔力を食ってたけど、それがなくなって、命が削られて? なのに魔力貰って目が覚めたら普通に魔力使える? なんだそりゃ」

「わからん。けど、ある程度の魔力が私にもあって、突然使わなくちゃいけない局面になったから使い方よくわかんなくて命を喰らわれそうになったところを魔術団員の魔力で持ちこたえて、目が覚めたときに自分の魔力使えるようになったって感じじゃないかなと思ってる」

「あーね」

「うん」

「呪文消えたのに、なんで魔術使えるんだ?」

「まっっったくわからん。体が覚えたのかな」

「あーね」

「うん」


 テトラが『稠密六方格子の棺』に固執したのは、封じ込めたあとで魔力を必要としないからだ。魔獣を封印さえすれば、テトラはすぐに時間回帰を使って魔術から逃れるはずだった。そうでなければ自分が死ぬからだ。

 しかし呪文が消えれば魔術は使えなくなる。

 棺以外にも魔獣を封じ込める魔道具は流通していたが、封印し続けるにはどうしても魔術を要する。それでは駄目だ。

 結果的にオルトが魔獣を受け入れたため棺は無用となった。

 時間回帰したのに魔術が使えるのは一瞬不安になったが、命が削られている感覚もないし、以前のようなドカ食いの衝動もない。

 とにかく、一件落着と考えて良さそうだった。


 これで、静かに暮らせる──。


 ここには結界を張っている。

 魔獣はおろか、人からも見付けられないように。歩く人が見れば、霧が掛かったように隠してくれるから、二人は誰にも邪魔されずに過ごすことができる。


 この数週間、それはそれは長閑だった。


 オルトも人に化ける術も思い出したし、逆に魔獣のままで人語を話す方法も思い出した。本来の魔獣なら何十年と生きて覚えるのだが、さすが半魔獣ともいうべきか、半分は人間だからこそ幼いころに習得した方法をオルトは難なく記憶を蘇らせた。


「そういえば昨日、野鳥を狩っただろ?」

「うん」

「実は手羽先唐揚げにしようと思って漬けこんであるんだよな。多分そろそろいい仕上がりになってるはず」

「それは優秀すぎる。さすがオニーサマ」

「食うか」

「食いましょう」


 そして二人で起き上がろうとすると、二人は同時にぴくりと反応した。それは互いに別の感覚だった。オルトは嗅覚、テトラは魔力に異常を感じた。


 結界が破られた。


 自分達のテリトリーに入ってくる匂い。

 結界が破られた感覚。

 それは平穏を望む二人にとって、最も忌み嫌う感覚だ。


 オルトは途端に魔獣の姿へと戻った。臨戦態勢である。


「わざわざ結界を破ってくるなんざ、殺す気まんまんの奴らに違いねえ」

「もう少し強い結界にしとくべきだったか」


 ちょっと待てよ──。


 二人は同時に互いを見合った。

 この匂いは──。


 そうして草むらの中から顔を出してきたのは──


「やっと見付けましたよ、二人共!」

「とんずらとはどういうことだ、無礼者!」

「すっごく心配したんだからね!!」


 パラとメタとペンターだ。三人共ぼろぼろなのは、この家を目指すうちに険しい自然によって(もたら)された代償に違いなかった。

 二人は拍子抜けした。

 なんでベンゼンの奴らが遠路遥々訪問しにきたのだ。


「無事なら無事であると! 手紙のひとつくらい! 寄越すのが礼儀というものでしょう!」


 服の至るところに刺さっている草を苛立ちながら外していくパラ。


「俺達がどんだけ探し回ったと思ってんだ!」


 兄妹を指差しながら怒鳴るメタ。

 ペンターはというと、呆れ顔で草むらを振り返っている。


「早く来なよ! いつまで隠れてんのさ!」


 促されて出てきたのはヘキスだ。非常に気まずそうに俯いている。その顔を見て兄妹はあからさまに苦虫を潰したような顔をした。


「「うわ、出た」」


 言うと、ヘキスがさっと目を吊り上げた。


「出たとはなんだ! 俺はちゃんと謝ったぞ!」

「「謝ったら許さなくちゃいけないなんて誰も決めてませーん」」

「だから! 本当に、申し訳なかったとは思って!」

「「とりあえず、何しに来たの君達」」

「俺の謝罪を聞けって!」

「聞いて驚け! 俺達の魔術団員が魔獣の血を引いてても弾かない椅子を発明したんだ! 今、既に『ベンズの間』に設置している!」


 どや顔で答えるメタに、兄妹は互いに顔を合わせて肩を竦めた。何も驚かない。


「テトラ様が椅子に弾かれたのは魔獣を封印していたからだと考えての研究です! これでオルト様も含めて適合者が六人揃いました! 是非、我が国に結界を張っていただきたく──」

「「断る」」


 そんなもののために平穏をかき乱されるのはごめんだ。

 二人は踵を返して家へ戻ろうとした。


「送迎もしますから!」

「「いらん」」

「国章だけじゃなく、栄誉勲章の授与も考えている!」

「「いらん」」

「ねーえ! テトラ! 一緒に行こうよー!」


 しまいにはペンターに抱き付かれる始末だ。

 なんなのだ。静かに暮らしたいだけなのに、こいつらときたら。


「自分達で努力するっつー話はどうなったんだよ!」

「それが、なかなか手一杯でして……」

「「はあ!?」」

「承諾してくれるまで毎日くるぞ! というか、ここに居座るからな!!」


 メタは玄関の前にいきなり胡座をかいて座り、頑として動かないとでもいうように腕を組んで目を閉じてしまった。

 テトラは頭を掻きむしった。


「「ほんと、この国、しつこすぎ」」


 でも、兄妹の声はどこか楽しそうだった。



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