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冷笑の令嬢と紅蓮の騎士。〜婚約破棄を終えたので冒険をしたいのですが。〜  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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03 冒険の同行者。




 真っ赤な花びらがとても美しい薔薇の花束は、透明なガラスの花瓶に移す。

 密かに買ったアパートの部屋は、キッチンとワンルームだ。一人暮らしには、これが十分だろう。

 シングルベッドは、こだわっている方だ。

 でも他の家具は安物である。棚とクローゼット。それにテーブルと椅子があるだけ。


「……ルヴィ様」

「はい」


 ドアの元に立っているルヴィ様を、振り返る。私の新しい部屋を見回していた。

 結局、ここまでついてきてしまった”紅蓮の騎士”……。


「着替えるので、ドア閉めますね」

「おや、失礼しました。では、外で待っていますね」

「いえ、待ってなくていいですよ?」

「いいえ、待っています」


 にこっと遠回しに帰ってくださいと笑いかけたけれど、ルヴィ様もにこりと笑ってドアを閉じた。

 ……はぁ、と肩を竦めた。

 やっと婚約破棄されて、好きに生きれるようになり冒険に行こうって時に、好意を持った騎士が阻んでくるとは……。

 なんだか一難去ってまた一難って感じだ。

 今日は、ちゃんと冒険者デビュー出来るだろうか。

 とりあえず、ドレスを脱ごうとコルセットの紐を解く。着た時は使用人が二人がかりで着させてくれたので、結構時間がかかってしまう。これからはこんなドレスを着なくて済むと思うと気が楽だ。でもこういう豪華なドレスが着れて、嬉しいものだし楽しかった。着飾る楽しさを味わえたのは、結構よかったものだ。

 王妃になるように育てられたけれど、着飾る点だけはお姫様気分だった。

 これからは違う着飾りを楽しみたい。

 そう思って用意していた服を、クローゼットから出す。

 裾が丸いレースのワンピースに、黒いコルセットを合わせてキュッと紐をきつく結んだ。

 黒のレギンスとブラウンのブーツを履いて、着替えは終わり。

 さらりと、長い黒髪を後ろに払う。腰まで届くこの長い黒髪。結ぼうかしら。

 でも、学園の剣術大会や魔法対決大会では髪を束ねることなく一位を獲ったし、戦う際でも下ろしたままでも大丈夫だろう。

 あとは剣を携えればいい。適当に購入しておこうか。

 問題は……ルヴィ様である。本当に冒険についてくるつもりだろうか。

 好意を持たれていると、邪険にしずらい。悪い気はしないじゃない? だって、相手は、あの”紅蓮の騎士”様だもの。今まで女っけがなかったのは、私を一途に想っていたからだと思うと、キュンとするところだ。でも婚約者から解放されたばかりの私は、受け入れられない。

 冷たくあしらうと言っても”冷笑の令嬢”は私にとってはもう過去だし、何よりそれを偽りだと知っている彼には効果はないだろう。

 しょうがない。ここは……逃げる!

 私は窓から逃走することにして、開いた窓に足をかけて飛び込んだ。

 二階だから余裕で着地が出来る、はずだった。

 しかし、何故かルヴィ様に抱き留められる羽目になったのだ。

 え。なんで。この人。私の部屋の前にいたのでは?

 ルヴィ様もどうやら私が逃走すると気付いてここに来たわけじゃないみたいで、驚いた表情をしている。

 私もびっくりですわ!


「私の天使が、腕の中に落ちてきましたね」


 やがて、にこりと嬉しそうに微笑んだルヴィ様。

 私の天使って。恥ずかしい。


「ルヴィ様、な、何故ここに?」

「ここでお待ちしようと思って出てきたのですが、よかったです。レティエナ様から腕の中に飛び込んできてくれたので」


 大人しく部屋の前で待っててくれればよかったのに。


「それではどこに行きましょうか? 冒険者登録を丸腰でするわけにはいきませんから、先ずは武器の調達ですかね」

「そうですね。……えっと、下ろしてくれませんか?」

「ふふふ、どうしましょうか?」


 いや、どうしましょうか? ではなく!

 人目もあるので、下ろしてください!!!

 絶対に楽しんでいるルヴィ様に、結局近くの武器屋まで運ばれてしまい、恥ずかしい目に遭った。

 武器屋の前で下ろされた私は、すぐに人目から逃げるために中に飛び込んだ。

 ルヴィ様は、クスクスと笑いながらついてきた。


「遅くなりましたが、ドレスとはまた違う質素な服でも、着こなせるなんてすごいですね。お綺麗です」

「……それはどうも、ありがとうございます」


 褒めるが、私はむくれている。


「ご機嫌斜めですね」


 誰のせいだと思っているんですか!


「むくれたお顔も、とても可愛いです」


 う、うるさい!!

 私は武器選びを始めることにした。

 ナイフを一つと、長剣を一つがいいだろう。吟味をしてから、所持金を考えて、購入を決めた。

 ホルダーもセットでもらえたから、その場で付けた。ナイフはスカートの下に忍ばせ、長剣は腰に携える。


「あの剣をください」


 そんな私の横で、一番高い長剣を買ったルヴィ様。

 それで私の冒険に同行するつもりだろうか。

 ……逃げなくては。

 今度こそ、逃走して見せる。

 私は昔から逃走も上手かった。鬼軍曹のような教師の稽古を、死に物狂いで逃げては隠れたことが数えるほどある。

 それで得たスキルがある。私がこの世界の仕組みを聞いて、転生を承諾した理由。ゲームのように魔物がいて、そして魔法だけではなく、スキルという技が習得できて使える世界なのだ。

 幼い頃の稽古からの逃走で覚醒したのは【忍者】というスキル。しのぶもの。にんじゃ。

 敏速で隠密に行動が出来るようになった。このスキルで本当に逃げてしまおうと思ったけれど、神様と約束があったからめげずに稽古に戻ったものだ。十六年、本当によく耐えた。私エライ。

 スキル【忍者】発動!

 スキルを発動した私は、普通に歩いて店をあとにした。これなら、見つかることもない。

 人ごみをするりと避けて歩き進み、東にある冒険者ギルドに向かった。

 教会のような作りの白い建物。中に入れば、がやがやと賑わっている。冒険者達だろう。テーブルを囲って何やら談笑をしている人達は、武器を携えている。それを一瞥した私は、スキルを解除した。たちまち、注目を浴びる。それもそうだ。右端の冒険者登録と掲げたカウンターに向かう姿からして、冒険者志望だと予測出来るだろう。


「おい、あれ、見たことないか? ほら、確か……”冷笑の令嬢”じゃないか!?」


 違った。私を”冷笑の令嬢”だと知っている冒険者達が気付いて騒めき出す。

 どうやら学園の剣術大会か魔法対決大会で、観客席にいたみたいだ。


「まさか! 貴族令嬢が、ましてや”冷笑の令嬢”が冒険者登録にくるわけないだろう」

「でも、あの容姿は……」


 私の黒い髪を持っているのに、黒に縁取られた瞳が白いのは特徴的で稀な容姿だもの。


「冒険者登録に来ました」


 私はにこやかにそうカウンター席にいた女性に伝えた。


「……あれのどこが”冷笑の令嬢”だよ」

「全然、冷笑じゃねーじゃん」


 素の笑みを見て、違うと判断した冒険者達は、会話に戻る。


「冒険者登録ですね、お名前を教えてください」


 長い金髪を一本に束ねた受付の女性は、特に反応を示さない。

 でも流石に名前を聞いたら気付く可能性がある。


「レティエナ。……家名も必要ですか?

「もちろんです。素性や素行を調べる必要がありますので」

「……ですよね。レティエナ・ピースソーと申します」

「レティエナ・ピースソー様ですね」


 なんてことはなかった。

 受付の女性は、すらすらと用紙に記入をしていく。

 幸い、私の名前を聞き取った冒険者もいなくて、騒ぎにはならなかった。


「歳はいくつでしょうか?」

「十六歳になります」

「そうですか。これから素性をお調べして、問題がなければ冒険者プレートを作成しますが、その間に冒険者試験を受けてもらいます」


 冒険者プレート。私は心を躍らせて、ニコニコになる。

 確かレベルやスキルが表示されるプレートだ。

 学園にも触れれば確認できるものがあったけれど、冒険者プレートと言うくらいだ。冒険者の証となるものになる。


「今回の冒険者試験は、ゴブリンです。正門を出て南西に進むと野原があります。そこで出没情報がありますので、そこで退治をしてください。ソロ、つまり単独の冒険者でも容易く倒せる相手ですが、ただし、注意点があります。野原にいないからと奥へとは進まないでください、深追いは以ての外です。いいですか、ゴブリンは一匹ならソロでも対処出来ます。しかし、洞窟などで集団に遭うと……恐ろしい目に遭います」


 そうか、ゴブリン狩りが私の冒険者試験か。

 早く向かいたかったが、受付の女性が真顔で女性は凌辱されて見付かった件があったと怖い話のように話した。

 ルヴィ様が追いつく前に出発をしたいのですが。


「最近の若者が、特に自分の力を過信して、ゴブリン達に返り討ちに遭う傾向があります」

「はい。ご忠告をどうもありがとうございます」


 やれやれといった様子で、肩を竦めた彼女に、私は一度頭を下げた。

 自分の力を過信せずに、ゴブリンを狩る。

 私は冒険者になるための試験を受けるのだ。気を引き締めて、取り掛かる。


「では、ゴブリンの首を持ち帰ればいいのでしょうか?」


 にこりと笑って、確認した。

 ゴブリンを退治した証拠がいるだろう。


「えっ、そんな笑顔で……」


 受付の女性が、狼狽えた姿を見せる。

 え? 違うのですか?


「持ち帰らなくても大丈夫です。原則として、監督する同行者を一人つけるので……あっ」


 言葉の途中で、女性は声を上げた。

 ポッと頬を赤らめた顔と、私の肩に置かれた手で、ルヴィ様に追いつかれたと知る。


「私が、彼女の同行をします」


 立ちはだかる”紅蓮の騎士”様。


「特例で、構いませんか?」

「は、はい……もちろんです。”紅蓮の騎士”……いえ、ルヴィ様なら実力も問題ありません」


 ぽーっと見とれた様子で、コクコクと頷く受付の女性。

 もういいよ。同行者がついてくるなら、もう彼でいい。


「では行きましょう、レティエナ様」


 今度は見逃さないためなのか、ルヴィ様は私に掌を差し出す。

 ルヴィ様は見惚れてもしょうがないほどのキラキラな笑みを向けてくる。


「はい、ルヴィ様」


 私も笑みを返して、掌を重ねた。



 

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