地球の反対側まで行ったら日本の法律は届かない
月一投稿って斬新だよね。
エクスポージャー・ブリンカー!前回までのあらすじ!
なんでこんなことになっているんだろう。
私はただ、通学中に、目の前でブリンクメタルを拾ったのが同じ学園に通う先輩だということに気づいて旧校舎で話をしようと思っていただけなのに。
私の時には説明文(顔写真付き)だけ瞬間移動させてきたクダンがわざわざ西京先輩の前に来て説明をするというではないか。
扱いの差はまあ仕方ないかもしれない。西京先輩、ちょっと話した感じ、説明文だけだと理解できなさそうだし。
軽い気持ちで話しかけちゃったけど、大丈夫なのだろうか?
望みを叶えるか、夢破れるか。私の未来はどっちだ。
突然おっぱいの少年となった俺は困惑していた。
俺がおっぱい?なぜ?
俺は少々露出癖があるだけの普通の男子高校生だぞ?左胸に星を描くように黒子があるだけで、それ以外は特徴らしい特徴もない没個性なおっぱいのはずだ。扉を開いた日から折れることなく立ち続ける2本の柱に気づかれたのか?戦々恐々。
「ブリンカーバトルの基本ルールは簡単だヨ。何でもあり、それだけサ」
「そうだったんですか!?」
「キミ、説明書読んだノ?送ったよネ?」
「では、そこのカヴァケを今すぐ戦闘不能にしてしまえば、俺はすぐに1勝を手に入れることができるのか。」
「物騒!話せばわかりますよ!」
「そう言われれば、問答無用と答えるが」
正直、カヴァケに負けるヴィジョンが浮かばない。こんなヘンテコ生命体が鉄砲を持っていたとしてもうまく扱えるとは思えない。シガーカッターで十分に勝てる相手だろう。
「コントってやつかナ?説明を続けていいかイ?」
「続けてください!そこの人が私に戦意を向ける前に!早く!」
戦意と繊維をかけているのか?うまくないぞ。
「まあいいヤ、続けるヨ。基本的にルールはないとはいえ、勝敗だけはキチンとしておかないとネ。負けを認めるか、気絶するとか死亡するとかして対戦の続行が不可能になると敗北として扱われるヨ。重要ルールなので、覚えておいてネ」
「死ぬまでこいつを殴っていいのか?」
「布をつかみながら聞かないで!なんでもしますから離してください!」
「そういう条件でも勝てるってだけだヨ。それに人を殺すとホウリツってやつに引っかかるんでショ?そういうのが気になる人のためにこういうのも用意してるんダ」
「うわっ」
目の前が光り、女子更衣室が視界から消える。
光が消えた。そして、俺は驚愕する。
ジャングルだ。隠語ではなく、本物のジャングルにいる。蒸し暑くて不快だ。
「どうだイ、驚いたかナ?」
「ここは南米なのか?」
「アマゾンっぽいですもんね。って、きゃー!!」
というか、全裸だ。
俺が全裸で元カヴァケの1個か2個下くらいの少女は下着のみ。ジャングルにあってもその丘は程よい起伏だった。良い機会なので目に焼き付けておこう。神に感謝。近くにいるな。
「あ、ごめんごめン。そういえばシエロちゃんとは違って、ジャン君は転移に慣れてないよね。服は自前で用意してネ」
「分かった」
「なんで柱を拝んでるノ?」
「お前が神だからだ。ありがたや」
「チラチラこっちを見ないでください!ついでに死んでください!!」
言いつつも0.5秒で葉っぱを蒸着した少女がそのブリンクメタルを俺に向ける。
それは歪な武器だった。
持ち手がなくそのむき出しの鋼を少女は両の手で握りしめていた。
直方体の中心には深淵を思わせる穴がぽっかりと空いていた。穴は空いている面から、直方体の中心方向に伸び、その様はまさに地獄を思わせた。アリジゴクを。
端的に言って、鉛筆削りだった。ちゃっちい方の。
「恐れましたね!これを!ふっふっふ、今なら命は取りません。降参するのが、身のためですよ」
「何を恐れるというのか?俺は今まで鉛筆削りを恐れたことなどない……!」
強がった俺だが、脇にじっとりと冷や汗をかいていた。
忘れられない痛み。王とはこのように死すのだ、と実感したあの日……。
幼い俺は恐怖という感情を知らず、暴君のように振る舞っていた。
ご飯粒を毎食きっちり1粒残す。左右でそろっていない靴下を穿く。自分の家にピンポンダッシュ(もちろん母ちゃんがいないときだ)。挙句、猿山にぬいぐるみを落としたことまである(お気に入りだったので流石に泣いた)。
そんな俺はごつい方の鉛筆削りしか使ったことがなかった。だから知らなかったのだ。ちゃっちい方の鉛筆削りに潜む王殺しの罠を……。
あの日俺は、学校で放課後に勉強をしていて、鉛筆の先が丸くなって書きづらかったので鉛筆削りを探した。しかし、無いのだ。俺が使っていたようなごつい方の鉛筆削りが。仕方なく俺は黒板消しクリーナーの横の方に置いてあったちゃっちい方の鉛筆削りを使うことにした。
そして、事件が起こった。
力加減の分からなかった俺は回す際に鉛筆をへし折ってしまった。間の悪いことに、俺は筆箱を忘れてきていたため、友達に鉛筆を借りていたのだ。そして、その鉛筆には当時友達がハマっていたゲームのキャラクターが描かれていた。
そこが俺の凋落の日々の始まりだった。
怒りのままに振るわれる拳。頬に感じる痛み。殴り返した時の快感。興奮のままに馬乗りになり、野生を爆発させる俺を誰が責められようか。
クラスでは誰一人しゃべってくれなくなった。修学旅行は例外的に1人班だ。奈良の鹿だけが俺に近づいてきた。
あだ名がゴリラカモノハシ(俺の顔はカモノハシに似ているとよく言われる)から転じてゴリハシになっており、俺の前でしゃべるのを聞いてしまったときは、高橋くん(ちょっとゴリラに似ている)がいじめられているのではと心配になり声をかけ、友達になってしまった。ゴリゴリコンビと呼ばれているのを知ったときは怒りのあまりゴリハシ(本家)くんと縁を切ってしまったほどだ。
しかし、あの殴った瞬間の、相手の顔を歪ませる指の痛みは得難い快感だった。また味わいたいものだ……。
ともあれ、俺は確かにちゃっちい方の鉛筆削りにトラウマを抱いている。
「クダン!ここがブリンカーバトル専用の空間、つまり、決戦のバトルフィールドなのでしょう!?ここならどれだけ相手に危害を加えても法律には問われない。違いますか?」
「確かにそうだネ。ここが決戦のバトルフィールド。ニホンのホウリツからは離れた場所にある。存分に戦うといイ。」
「それじゃあ行きますよ!」
俺とシエロちゃん(クダンが呼んでいた)の初めてのブリンカーバトルが始まった。