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第六章  光剣の勇者と神導の魔術師  3 反撃開始!

 「水導ノ三、水泡壁アクアヴェール!!」

 「やっぱり技名とか叫ぶとかっこいいよね~」

 「えっと、一応言っておくけど別にかっこつける為に叫んでいる訳じゃなくて術名自体が短縮詠唱に……」

 「そんな世間話している場合じゃないと思うんだけど!?」


 男が女の子の前で取り乱すのはかっこ悪いとは思うが窓の外を炎が流れていく光景をただ見ているしかできない誠は不安に押しつぶされそうで気が気ではなかった。


 「大丈夫だって。私とメイリルさんのダブルバリアで熱気も完全ブロックよ!」


 横倒しになった部屋、その床に固定されている誠が使っていた椅子の背もたれに腰をかけた亜由美が両目の魔眼を輝かせながら自信満々に胸を張る。

 実際、亜由美の言葉通り現状唯一の出入り口である窓からはメイリルの魔術と亜由美の魔眼で水と氷の壁を作ってやり過ごせてはいるのだが。


 「いや、そもそも家自体が持たないんじゃないかな!?」

 「それならだいじょ~ぶ。この家はアイツら自身で手厚く保護してくれているからね。外部からの攻撃で壊れる事は絶対にないのよ」

 「それは結界で時間を止めているということですか?」


 亜由美の言葉にベッドのフットボードに立って残った高価なポーションをがぶ飲みしているメイリル、更にその奥、壁を床にして同じく立っている誠が矢継ぎ早に質問を重ねる。


 「時間を止めているとか、存在そのものを固定させているだとか言われているけど実際の所原理は不明みたい。まぁ、確かなのはちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしないってこと」

 「それで、なんでアギト、じゃない喰らうモノが俺の家を守るのさ?」

 「より完璧に地球で生まれたモノを理解するためにできるだけ原型を留めて喰らうためよ。千夜一夜にも書いてあったと思うけど地球の環境は喰らうモノにとっては厳しいを通り越して地獄のような場所なの。そしてそれは喰う事においても同じ。地球産のモノはアイツらにとってスゴイ食べにくいみたいでね。だからゆっくりと消化していくの」

 「しょ、消化するって、じゃあ俺の家も?」

 「そう、少しずつ溶かされているの。今、喰らうモノが一番求めているのは地球の情報なの。だからその情報をより正確に集める為に原型を出来るだけ留めた状態で吸収することが望ましいと考えている……と思われているけど実際のところは分からないけどね。ただ私たちにとって重要なのは消化しきる前に喰らった奴を倒せば全て元通りにできるってこと」

 「元通りに……」

 「誠くんは気になった事がない?少し前からやたらと関東地方限定で行方不明者が発見されたってニュースが流れることに」

 「行方不明者が発見……あっ!」

 

 驚く誠を見て亜由美はニヤリと笑う。

 喰らうモノの被害は人知れず出ている。だがそれをやはり人知れず解決する者たちがいる。

 亜由美はまさに自分たちこそがこの世界の守護者であると暗に言っているのだ。

 なにより生還の実例があるというのは誠に大きな希望を抱かせた。なんといっても家がいきなりなくなってしまったら色々困る。

 そんな話をしているうちに炎の勢いは弱まり周囲が静かになる。


 「さてと、じゃあ誠くん、君に前衛を任せたいんだけどいけそう?」

 「俺!?」 

 「私の本分は敵を見つけ出す調査、偵察だから戦闘はサポートがメインだしね」

 「……え、あれだけ戦えるのに?」

 「もちろんサポートはするよ。それに無理なら逃げる事もできるしね。どうする?」

 「……行くさ。メイリルは助けたけど、それだけじゃ終われない。あいつが持っている神性武具を取り戻さないと!」


 試すような亜由美の問いに誠は決意を示す。それがどれほどの困難を伴うとしてもやらなければならない。それがメイリルとヴィエルに約束したことだから。そして、なにより何も出来ないと諦めていた自分を変える為に、この戦いを避けるわけにはいかない。


 「なら、私も……!」

 「メイリルさんは私と後方で援護してもらうわ。でもその前に一つ聞きたいんだけどいいかな?」

 「ディーオルフトについてですか?」

 「そそ、その武器の特殊能力とかね。情報は多い方が有利だから」


 そして、短い作戦会議は終わり、開いた窓へ向けた誠が跳躍する。。


 「それじゃ、行きます!」

 「ゴー、ゴー、ゴー!!」「気を付けて!」


 戦争を題材にした映画のアメリカ兵みたいな事を言っている亜由美と心配そうな顔をしているメイリルの声援を受けて誠は窓から外へ飛び出した。


 「うわっ、なんだよ、あれ」


 カマキリの左腕が槍に変化したのは見たが再生した頭がネコ科の動物っぽくなっている。しかも鎌だった右手も銃のような形に変わっており無造作にソレを誠の方へ向け一撃を、翅を広げその背に隠れていた六つの穴からも垂直に火砲が上がり上空で軌道を変えて誠へと迫る。


 「本当にデタラメな変化をするんだなっ!」


 とにかく今まで喰らったモノの中で使えそうなモノをチョイスして体に付け足していく。喰らったモノへの敬意も哀憫もなく、ただ己の部品とするその所業は生命、文明への冒涜に他ならない。

 だからあらゆる世界のヒトはこの侵略者に例外なく嫌悪を感じるのだ。

 そしてヒトは知る。このおぞましき侵略者には対話も共存も成立しない。だからどちらかが滅びるまで戦うしかないのだと。

 そしてヒトは絶望する。このあらゆる攻撃を喰らってしまう怪物になすすべもなく蹂躙されていく。

 

 誠の目に映るのは絶望の象徴。

 だが二年前とは違い今の誠には三つの力がある。

 右手のヴィエルヴィント、いつの間にか形を腕輪に変えて誠に力をくれた不思議な石、そして後ろにいる二人の少女。

 

 (あとは、俺が、色々な人が信じてくれた俺を信じるだけだ!) 


 向かってくる炎の力に臆することなく誠は大地を疾走する。

 砲口から放たれた砲撃を頬スレスレの紙一重で避け、普通なら絶対に出来ない体操選手のような動きで上から降る炎を纏った砲弾を軽やかに避けてみせる。

 一発地面に落ちるたびに激しく地面が揺れる。そのせいで一瞬誠のバランスが崩れたのを喰らうモノは見逃さなかった。

 左手側に回り込んできた誠を貫かんと左腕を僅かに引き力を溜め解き放とうとした瞬間、喰らうモノの動きが不自然に止まった。


 「いけーっ!」

 

 窓から上半身を出した亜由美の魔眼で作り出してくれた一瞬の隙をついて誠は光刃でカマキリに似た胴体、その膨らんだ腹を横に切り裂きながら走る。その先、尻に当たる部分が紅く輝いている。

 以前、メイリルは言っていた。「壊せる物なら壊して見ろ」とアギトは挑発しているのだと。

 だが、もしもその核を、自慢の防御能力を突破して破壊できる者がいたのなら?

 

 「切り裂け、ヴィエルヴィント!!」


 誠の叫びに被せるように無情なる暴君が今までに上げたことの声、悲鳴を上げて地面に崩れ落ちた。

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