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第五章  全てを喰らうモノ  7 力

 一歩二歩、誠はゆっくりと中央の巨石、その傍らに座るアギトに近づく。



 一方のアギトは完全に誠に興味を無くしたように尻尾を使ってヴィエルヴィントを一飲みにしようと大口を開けた。



 三歩目を踏み出そうとした先には鋭く尖った石、だが誠は躊躇うことなく力を込めて地面を蹴る。後に残ったのは砕けた石と陥没した地面。

 そして、誠の右ひざがすました顔をしていたアギトの顔面に突き刺さった。


 二十メートルは離れていた場所を一足飛びに越えた誠の一撃はアギトの顔面を破壊した。紅いガラス玉のような目はひしゃげ、威容を示していた二本の牙は砕けちり、三メートルを超える巨体が声もなく水平に後ろへ吹っ飛び何本かの木を巻き込んで倒れた。

 だが、それでもアギトは怯まない。

 倒れた状態のまま伸縮自在な尻尾を振るって誠を打ち据えようとする。

 

 「こんなものでっ!」


 横から迫る尾を逆に掴み誠が吼える!

 掴んだ尾を力の限り引っ張りアギトを広場の反対側へと放り地面へと叩きつけた。

 しかし追撃をかける間もなく尾が千切れてしまった。

 そしてもうもうと立ち上る土煙の中からのっそりとアギトが姿を現わす。

 その姿はすでに何事も無かったかのように傷が再生されていた。


 「これは預かり物なんだ、返してもらう」


 そのアギトから視線を外さずに誠はゆっくりとヴィエルヴィントを拾い上げる。

 右手に感じる重みに意識を集中すると次第にヴィエルヴィントの表面に刻まれた文字が輝く。


 「さぁ、やるぞ、ヴィエルヴィント!」


 誠の声と気合に応じるようにヴィエルヴィントが黄金の刃を形成する。

 だがそれはアギトが待ち望んでいた瞬間でもあった。

 既にこのアギトにもこの武器を介したエネルギーを吸収する能力が与えられていた。

 だからこそアギトはなんの躊躇もなく飛び掛かる。

 光を放つエネルギーを吸収するためにあえてその刃に身を晒す。

 

 光と闇の一瞬の交錯。

 

 誠のすぐそばを掠めるように飛んだアギトが地面に降り立とうとしてバランスを崩して無様に地面を転がっていく。

 何が起こったのか理解できないままアギトが立ち上がろうとして、そこでようやく自らに起きたことを理解した。

 左両足が綺麗に切断されていたのだ。そしてその傷を覆うかのように光の粒子が纏わりつき体を再生させる黒い煙の侵入を阻んでいる。


 アギト、いや、喰らうモノは知っていた。

 この地で繁殖していた現地種と同化したときに知ったのだ。

 ここには自分たちが決して喰らう事の出来ない力を操る者たちがいる事を。

 何千、何万の命を、数えきれないほどの世界を滅ぼしてきた自分たちを軽々と屠る存在を。

 今まで目の前にいたのはただの餌だと思っていた。

 しかし、それは違った。

 コレは、この目の前に立つ存在は……敵だ!


 「GOOOOOOOOOOOO!!」


 アギトが吼える。

 魂すらも凍てつかせる咆哮が響くと周囲に存在する木や草が枯れ、それに比例するかのようにアギトの体が巨大化していく。

 傷口についていた光の粒子を吹き飛ばし傷口から新たな足が生える。

 背中が苔に覆われたように緑色に変化しまるで独自の意志をもつかのように人間の胴ほどの太さを持つ蔦が八本、まるで威嚇をするかのように蠢いている。


 「これじゃきりがないな。なんとか核を壊さないと」


 ダラダラと戦っている時間はない。こうしている間にもメイリルが危ないのだ。

 

 「狙うのは胴体の……」

 「尻尾の付け根!私が隙を作るからトドメは任せた!」

 「え?」


 どこからか聞こえた声に誠が驚く間もなくアギトの背中が前触れもなく紅蓮の炎に包まれた。


 「GYUOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 悲鳴じみた咆哮をあげてアギトが炎を消そうと背中を地面につけて転がりまわる。


 「マーカー出すからそこを狙って!」


 その言葉通りアギトの臀部あたりに赤い光点が付く。

 

 「うおおおおおおお!」


 暴れるアギトの側面から一気に近づいた誠の一撃が光点を寸分の狂いもなく貫いた。

 体を貫いた刃が一瞬硬い物にぶつかる感触があったがそれも一瞬。誠の耳に何かが割れる音が聞こえた。

それと同時にアギトの動きがピタリと止まるとボフッという音を立ててアギトの体が黒い煙となって消えてしまった。


 「お見事!」

 

 振り返った誠が目にしたのは左は黒、右目は金というオッドアイ、しかも髪の一部が虹色に輝くという異貌の少女だった。

 思わずその姿に見とれていた誠は絞り出すように声を発した。


 「君は…………誰?」

 「昨日会ったばかりの同級生の顔を忘れる奴があるか~!」


 不気味な森の中、亜由美のツッコミが響き渡った。

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