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第四章  その名は……  5 喰らうモノ

 報告者はとあるお店のバイトで、そこで不思議な窃盗事件があった事を報告している。

 その後、また違う報告者の調査内容が細かに書かれていた。

 こちらは独自にかなり突っ込んだ調査をしたらしく、いくつもの店でコインが置かれて商品が盗まれた事、そのコインの来歴を調べて見た所全く分からなかった事が書かれ、誠が見たコインの画像もアップされていた。


 (というか、この記事はもしかして田村さんが書いた物なんじゃ?)


 あの活発な片目の少女ならやりかねないと誠は苦笑する。

 案外このサイトを紹介したのは自分の書いた物を見てもらいたかっただけなのかもしれない。

 画面をスクロールしていくと最後にコメント欄があったが特に気になる情報もなかった。


 (まぁ、これで義理は果たし、もういいか)


 そして誠がページを閉じようとした時、勝手に画面が切り替わりサイトのトップページに戻されてしまった。

 だが、そのトップページはさきほどのポップな物を違い余計な装飾のないものに変わっていた。無機質なページはさきほどまでと打って変わって冷徹な印象を誠に与えた。

 そしてエンターと表示されていた部分の文字を見て誠は凍り付いたように動けなくなった。


 『もしあなたが黒い姿と紅い目を持つ怪物を見たのなら、ここをクリック!』

 

 バクンバクンと心臓が早鐘を打つように鼓動する。

 これはアギトの特徴そのものではないか?

 なんでこんなサイトにこんな事がかいてあるのか?


 疑問は尽きないがそれでも震える手でマウスを操作してクリックする。

 そこにはある怪物『喰らうモノ』についての情報が記されていた。

 

 (これは……アギトと全く同じじゃないか)


 

 その姿、特徴はメイリルから聞いたのと全く同じだった。

 そして、最後にこんな注意事項が箇条書きされていた。


 一・もしあなたが喰らうモノを見つけても凝視してはいけません。視線に気づくと襲い掛かってきます。素知らぬふりをしてすぐにその場を離れてください。


 二・興味本位で追いかけてはいけません。喰らうモノは日常の空間の片隅に異空間を作り出しそこを巣にしています。足を踏み入れれば二度と出られなくなる可能性があります。


 三・もし異様な場所に足を踏み入れてしまった場合は出来るだけ動かず救助を待ってください。動き回るのは大変危険なので絶対にしてはいけません。


 四・もしあなたの身近で『何か』が失われ、その事に誰も気づいていない時には下記の連絡先までお知らせください。くれぐれも独力でなんとかしようとはしないでください。


 五・喰らうモノは通常の人には認識できません。もし見かけたらすぐに管理人まで連絡を!


 その文の下に電話番号、そして専用のメールフォーラムがあった。

 だが、誠の目はそこから右にある過去の事件というものにくぎ付けになっていた。

 それはただの直感、けれども誠にはそこに誠がずっと知りたかったことがあると思った。


 過去の事件をクリックすると再び関東地方の地図が表示された。

 そして東京都とクリックしてあの忌まわしい事故があった地区へとカーソルを移動させる。


 (あった……)



 ○○道追突事故→『災厄カラミティ』討滅戦


 喰らうモノの特殊個体・災厄カラミティとの最後の戦いとなった作戦である。(災厄カラミティについては別記参照)


 千葉県から西へ移動し続けた災厄カラミティ。途中、○○橋崩落事故、××コンビナート破壊、△△鉄道脱線事故などを引き起こし力と凶暴性を増した災厄カラミティは追跡の手を逃れ関東結界陣を破壊するため外縁を目指して移動。途中空腹を満たすために渋滞を起こしていた車の列を襲撃し多数の犠牲者を出した。

 その後、□□山中腹にて災厄は撃破された。



 書かれている事故のいくつかは誠も知っている。それぞれがかなりの死亡者を出した事故だったはずだ。わずかな期間の間に頻発した大事故の数々はメディアに大いに取り上げられ、果ては政治問題にまで発展したものもあった。しかし、それが実はたった一匹の怪物が引き起こして物だったとは……。

 

 そして、その短い記事の最後に描かれていた絵を見た驚きで椅子から転げ落ちそうになった。

 黒く金属質な皮膚、巨大な双翼、そして血のように紅い双眸は正にあの日反転した車の中から誠が見たドラゴンの姿がフルカラーで載せられていた。

 それはただの絵でしかないのに見ているだけで冷や汗が止まらない。

 ただ、呆然としているしか出来なかった誠は部屋に入ってくるメイリルに気づく事も出来なかった。


 「お風呂ありがとー!って、どうしたの?」

 「ようやく見つけたのかもしれない。俺が捜していた事が」

 

 そして誠はメイリルに自分が見たことを伝え、魔術で日本語を読めるようにしたメイリルも自分の目で記事の内容を確認する。



 「喰らうモノか。確かにアイツらは何でも喰らうからね。とてもストレートなネーミングね。でもその分わかりやすいね。それに、この喰らうモノと地球の相性の悪さに関する記事も興味深いよ。確かにこれを読めば、さっきのアギトの異常な様子も納得がいくしね」


喰らうモノと地球環境についての考察という記事を見ていたメイリルは何度も頷く。その記事に書かれている内容はメイリルの疑問を解消する物だった。

 即ち、なぜ喰らうモノ(アギト)は地球ではほとんど活動していないのか?である。


 世界は数多に存在する。

 そして、多くの世界で人が誕生し文明を育んできた。

 その傍らには、常に超常の力の存在があった。

 魔力、マナ、異能、天恵、あるいは神の力。

 呼び名は様々だが、その力は確かに人の営みを助け、当たり前の存在となっていた。

 それは喰らうモノにとっても同様だったのだろう。

 常にそうした力が存在するいくつもの世界を滅ぼした喰らうモノが、そうした環境に適した進化をしてきたのは吸収と模倣を全てとする生態を考えれば当然の事だろう。

 だが、何事にも例外は存在する。

 この地球には上記のような不可思議な力、あるいはその源になる物が全く存在しない。

 そして、それは喰らうモノにとっては空気が存在しないに等しいものだったようだ。

 異世界から現れた喰らうモノのほとんどは地球に現出して一秒も持たず体が崩壊し消滅する。

 霊体の様な体を物質化させるための繋ぎとするのに用いていた力を生み出すことが出来ないが故の破滅。

 地球はその特異な環境故に守られているのだ。

 しかし、それでも喰らうモノは諦めない。

 目の前にある全ての文明を喰らわずにはいられない飢餓を抱えた狂った怪物は今も闇に潜み己の体を地球環境に合わせるべく日々暗躍しているのである。

 いつしか己の体を地球環境に適応させ、全てを喰らうために。



 「ずっと謎だった。私の世界を襲ったアギトは何処に行ったんだろうって。まさか勝手に自滅していたなんてね」

 「でも、生き残っていたやつもいる。それにあの逃げた奴もきっとまだ生きている」


 あのボロボロの体を引きずって逃げ行ったカマキリの姿を思い浮かべて誠は呟く。


 「そうだね。それにこの記事を書いた人、これはきっとマコトを助けた人たちの関係者じゃない?」

 「多分、無関係じゃないと思うけど……。連絡してみるか。とりあえず俺が接触してみるよ」


 喰らうモノ(アギト)と敵対しているからといって異世界人のメイリルを友好的に扱ってくれるかはまだ分からない。

 だから、まずそれを見極める。

 そして信頼できそうな組織であるのなら……。


 (俺はお役御免だな)


 全てわかっていた事。いつか訪れると思っていた事が予定よりも早まっただけの話。

 そう自分に言い聞かせてスマホを手に取った時、パソコンから聞いたことのないサイレン音が鳴り響き部屋の静寂を打ち破った。

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