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第四章  その名は……  4 一息ついて

 「あっ?やっと帰ってきた~!」

 「た、ただいま……」

 

 朝の九時。咲村家の玄関のドアを開けると余所行きの服を着た綾香が立っていた。


 「あ~、よかった。あんたってば何も言わずに飛び出しちゃんだから。鍵持っていったかどうかわからないから待ってたのよ?」

 「ああ、その、ごめん。これから出かけるの?」

 「昨日パパとママと出かけるって言ったじゃん!」

 「そうだっけ?」

 「まったく、これだから兄さんはモテないのよ!」

 「お前の話をちゃんと聞いて女の子にモテるのなら苦労はないよ」

 「はいはい、兄妹げんかしない!」


 ちょうど、その時玄関前に車が止まる音がした。どうやら父親が少し離れた駐車場から車をもってきたらしい。


 「それじゃ、私たちは出かけるから。帰りは二時ごろになると思うからお昼は適当に食べてね」

 「はいはい。いってらっしゃい」


 家族が出かけるのを見送ると誠は一目散に二階に駆け上がり自分の部屋に飛び込んだ。そして窓の鍵を外して外で待っていたメイリルを家へ招き入れた。


 「ただいま~、なんてね」

 「おかえり」

 「えへへ、なんか帰ってこれるところがあるっていいよね。あっ、安心して、いつまでも居座る気はないから!」

 「いや、別に……」


 居たければ好きなだけ居ればいい、なんてことを経済力のない高校生が言える訳もなく誠は言葉を濁すしかなかった。


 (バイトでもするかな)


 もしメイリルのサポートをし続けるのならお金の工面は必須だろう。流石にこれ以上泥棒行為をやらせる訳にはいかない。とりあえず近場のバイトでも捜すかと真剣に考えていると靴をしまったメイリルが振り向いた。


 「そういえばマコトの家族は出かけたの?」

 「……ああ、うん。二時まで帰ってこないってさ」

 「ふ~ん……。あのさ、すっごく厚かましいお願いだとは思うだけど……」

 「ご飯?」

 「そうじゃない……訳じゃないけど~、その出来ればもう一度お風呂を……」

 

 魔術で服の汚れは落としたが、それ以外の汗やら髪に着いた砂ぼこりなどはそのままなのだ。女の子的にはさっぱりしたいのだろう。


 「わかった。ちょっと準備してくる」

 「あっ、私が入る前に先にマコトが入った方がいいんじゃない?」


 自分が長風呂なのなのを気にして言ってくれているのだろう。別に入らなくてもいいと思ったが爪の間にまだ泥が残っていること、それと自分もなんだかんだで汗臭いのが気になったのでその好意を有り難く受けることにした。

 

 「じゃあ、風呂を準備する間にさっとシャワーだけで済ませるよ」

 「うん、いってらっしゃい」

 

 エアコンをつけて部屋のテレビを見始めたメイリルを置いて誠はさっと風呂掃除を済ませる。どうせ今回は証拠隠滅でお湯はすぐに捨てる予定なので湯量を少なめにセットして自分はさっさとシャワーを済ませた。


 「おまたせ」

 「あれ、もう終わったの?」

 

 涼しくなった部屋で生き物特集をやっている番組を見ていたメイリルが目を丸くして出迎えてくれた。


 「男はそんなに時間はかからないからね。もう湯船のお湯も十分に入っているからメイリルも行ってきなよ」

 「わかった。それじゃいってきま~す」

 

 すでに自分の傍らに置いてあった着替えを手にメイリルがいそいそと部屋を出ていった。

 

 「さて、俺はどうするかな?」


 とりあえずご飯はメイリルが出てから考えればいいとして、飲み物くらいは用意しておこうと思い、もう一度下に降りる。

 すでにメイリルはお風呂に入っているらしく機嫌のいい鼻歌が微かに聞こえてくる。

 冷蔵庫から麦茶が入った容器とコップを二つ持って二階に戻る。

 ふと、そのとき目についたのは画面にヒビがはいったスマホだった。


 (そういえば田村さんからコインの事を頼まれていたんだよなぁ)


 だが、すでに誠はその犯人を知っている。今更調べてもと思ったが、調べたふりをして適当に嘘をつくのは親切にしてくれた人に対してあまりに誠意のない行為だろう。


 (そういえばどこかのサイトを見て欲しいって言ってたっけ)


 壊れたスマホで見るよりパソコンで見た方がいいと思い亜由美のメールに書いてあるURLを入力する。

 そしてパソコンの画面に現れたのは、やけにポップなトップページと共に現れたのは、「ようこそ、幻視者たちの千夜一夜物語アルフライラへ!」とこれまたカラフルで丸みのある文字で書かれている。

 何か怪しげな情報が集まる場所と思っていたのでそのイメージとの違いに誠は面食らう。

 エンターの部分をクリックすると、関東地方の地図が表示され、そこから県、区や市、そして町単位で噂に関して情報を集められるようだ。


(トイレの霊、動く銅像、廃墟に浮かぶ人魂。どれもありきたりだなぁ)


 タイトルをクリックすると詳しく内容が見られ、報告者名(もちろん本名ではなくハンドルネームやイニシャルが使われている)、見聞きした内容が表示される。

 意外というか持山町にも四つの噂、目撃談があるようだ。

 

 『怪奇!消えた銅像!?』

 『地獄からの呼び声?マンホールから聞こえる声の正体とは!?』

 『謎の空間?廃墟の地下には何があるのか?』

 『謎のコイン。それは失われた文明の贈り物?』


 どれもこれも眉唾物な記事だが、試しに誠は『消えた銅像』という記事をクリックして読んでみることにした。


 話の内容は簡単に言えば「学校の敷地内にあった銅像がある日突然無くなった」という話だ。

 だが不思議な事にそのことに疑問を持ったのは報告者だけ。他の生徒も先生も「そんな銅像知らない」の一点張り。狐に化かされたような心境で報告者はこのサイトに書き込んだことらしい。

 そして数日後、銅像は元通りになるが誰も無くなっていた時期の事を憶えておらず、なんとも不思議な出来事だったと結ばれている。


 (まぁ、こんな感じの嘘か本当か分からない話がたくさん載っているだろうな)


 しかし、既に真相を知っている身としては『謎のコイン』がどう書かれているのかが気になる。誠は本命である謎のコインというタイトルをクリックした。

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