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第二章  アギト  5 予兆と異変

 大陸歴552年 晩秋。

 この日、大陸北方にある辺境の村の木こりが森に異常を発見した。森の木々が急速に萎れ腐り始めたのだ。それに合わせて猟師たちも例年に比べて獲物となる動物が少ない事と感じたのだ。


 「また質の悪い魔物が出たに違いない」


 野生の動物が魔力の残滓である魔素を吸い過ぎ、世界に仇なす存在『魔物』になったのではないかと考えた近くの村の村長たちは冒険者ギルドに依頼を出すことにした。


 「○○森を調査し森に害をなす魔物を発見、討伐してもらいたい」


 冒険者ギルドの依頼としてはよく見かける類の仕事で報酬額はそれほど高い訳ではない。それでも3組10人の冒険者が集ったのには訳がある。

 魔物の体の中には魔素が結晶化した「魔結晶」が精製されている事が多い。この魔結晶は魔術の発動体として非常に有用な代物で、モノによっては一等地に豪邸を立てられるほどの価値があるのだ。

 そんな夢と希望と野心を抱いた冒険者たちは「早い者勝ち、恨みっこなし」という村が出した条件を飲み探索を開始した。


 そして3日後、事態は急変する。探索に出ていたパーティの一つが連絡を絶ったのだ。

 国へ報告すべきではという村の意見を、残った冒険者たちが押しとどめた。犠牲が出た事で魔物がいる事が立証されたのだ。それなのに国に獲物を奪われるわけにはいかない。富に目がくらんだと言えるかもしれないが冒険者たちにも生活がかかっている。結局、報酬が少ないことの引け目もあり村が意見を引っ込め交渉は終わった。


 歴史に「たら、れば」は禁物だが、もしこの時、村が意見を押し通していたのなら、この先に起こった悲劇は回避できていたかもしれない。


 探索5日目。行方不明の冒険者の遺留品が発見される。これで依頼を放棄したという線はなくなり残った冒険者たちにも緊張がはしった。それでも、その全滅したパーティが自分たちより経験が浅かったことから残った冒険者たちは油断しなければ対処できると思っていた。


 「けど、そうじゃなかった!あ、あれは魔物なんかじゃねぇ。信じられるか!?剣も弓も魔術も!あいつらには効かないんだ。しかも、捕まった奴らは溶かされて飲み込まれて……うう、あああああああ!」


 探索8日目、未明。

 未だ多くの者が眠る村に7匹の黒い怪物が襲撃をかけた。冒険者、自警団は必死に応戦するも、あらゆる攻撃を無力化する怪物になすすべもなく蹂躙された。その渦中にあっても分裂し数を増やした怪物は近くの村を次々と襲撃した。

 結局、この襲撃で生き残ったのは先の証言をした転移の術を使える冒険者、ただ一人のみであった。

 

 報告を受けた冒険者ギルドは、異変地域を領土にもつ国へ報告。既に異変に気づいていた国も速やかに騎士団を派遣した。しかし、そこで騎士団が見た物はこの世ならざる姿に変貌していたかつての森林地帯であった。

 木々は全て腐りはて、代わりに見たこともない幹が捻じれ曲がった禍々しい木々にとって代わっていた。大気には、人体に害をなす瘴気が溢れかえり、その中には無数の紅い目が騎士団をねめつけていた。そして、その土地の上空には月とも太陽とも知れぬ紅い光球が大地を同色に染め上げていた。


 「信じられませんでしょうが、その地には太陽が、もう一つの紅い太陽があるのです。あれは、魔物ではありません。きっと伝承にある魔獣、アギトに違いありません!」


 魔獣。かつて神と死闘を繰り広げ別世界へ追放された悪の化身。騎士団に同行した文官は王にそう報告した。


 その話が本当か嘘かはわからない。しかし、今起こっている事は御伽噺ではなく現実の物なのだ。

 賢明であった王は、周辺国および様々な賢人に協力を要請した。幸いというべきか、ここ3代ほどは周辺国との軋轢もなく要請自体はすんなりと受け入れられた。とはいえ、周辺国の増援は偵察目的の小規模の派兵にとどまったのは相手が正体不明ゆえ仕方のないところであっただろう。

 一方、招聘された賢人たちは全力でアギトという名称が定着してしまった怪物の調査に全力を尽くした。本当にアギトが蘇ったのか、それとも魔物の突然変異なのか、その正体を確かめるべく日夜書物と格闘し、中にはアギトに近寄り犠牲になる者もいた。

 だが、結局その正体を暴く前に、最初の襲撃以来、不気味なほど行動を起こしていなかったアギトが動き出した。


 「我々は甘かった。奴らは、あの自らが作った巣の中で数を増やしていたのだ。そして、すでに奴らは準備を整え終えたのだ。この世界を滅ぼすための!」


 命からがら危地を脱した賢人は、そういって絶命した。だが、この後に起こる惨劇を見なくて済んだのはこの者にとっては幸いだったのかもしれない。


 森があった場所に築いた巣から飛び出してきたアギトの軍勢は、瞬く間に大陸北方にあった5つの国を滅ぼし、多くの生を喰らっていった。老若男女、貴賤を問わず、動物も魔物も分け隔てなく、目につくもの全てに死を与えるその姿は、まさしく伝承にあるアギトそのものであった。


 それでも、その凄惨な戦いの中でも2つの発見があった。

 一つ目は、結界が有効なこと。

 二つ目は、神が残した『神装武具』を介した攻撃は有効な事。

 多くの、あまりに多くの犠牲を出しながら得た希望に縋って、ネビュラ大陸の人々は絶望的な戦いへと引きずり込まれていった。


 五つの王国が僅か十日で滅びた「崩壊の日」から半年後。

 終わりなき戦火はメイリルが住む大陸南端にある大国、シロン聖王国にも伸び始めていた。

いわゆる回想回です。

自分なりの世界観を掘り下げたくて即興で差し込んだ話なので、後で話に齟齬がでないようにしないと(汗

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