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お手入れ!魔王城(何

 農場内の畑で植え付けが一通り終わったら、今度は魔王城の手入れです。


「……ダークサイド夢の国?」


 『魔王城』を見た(かける)君が、一言できっちり表現して見せた。


「まあそんな感じで作ったよね」


 完成したのはだいたい十年前ですが、俺を含めた関係者一同がノリノリで作り上げたダミー施設、それが『魔王城』です。

 実態は対人間ダミー施設+薬草などの栽培場所+エンタメ施設って感じですが。


「ここで働いてるのって、全部ロボットなんだ?」


 と、これは小島。


「ロボットじゃなくて、魔導人形って呼ばれることが多いかな」

「こういう形の種族、いませんよね?」


 これは翔君。


「せっかくだからファンタジーにしようと思ってね」


 黙々と働く魔導人形は、角や翼を生やした、ファンタジーとかで見かける『魔族』っぽい形が基本。ここの人形のデザインを決める時に、俺がうろ覚えで描いたラノベっぽいイラストを見せたら、なんか皆で盛り上がっちゃったんだよね。


 製造コストや運用の問題、あとプログラミングのしやすさの問題があるから、人形の体型は基本的に人型か有鱗族に準じている。ボディを作り込んでから動かすのに魔法を使うわけですが、実はこの魔法ってのがプログラミングと考え方が全く同じ。人工知能っぽいコアを作る魔法セットを組み立てて、機械を動かすための命令セットを作ってやって、と最初の一台が動くようになるまではちょっとめんどくさかった。

 魔導人形の技術自体は昔からあるから、自主開発する必要はなかったんだけどね。


「え、これ珍しくないんですか」

「うん、モノ自体はこれ、売ってるキットもあるんだよ」


 ただし『魔石』を除く。エネルギー源に使う『魔石』は全て自家製です。

 最初の頃に組み立てた機体はキットものだけど、キットを買わなくても自作可能なパーツは多いんで、最近補充した機体はDIY成分多めです。


「えええぇぇ……何なのこの技術の差」

「鉄製農具さえ足りない国の隣で、ロボットが労働してる……」


 本日の魔導人形のお仕事は、この辺一帯で栽培している香草の収穫作業です。

 整備部のクストと俺で一台ずつメンテしていく間も、メンテに入らない機体が収穫作業を続行。それぞれが肩からぶら下げた(かご)に摘んだ草を入れてゆき、ある程度溜まったら薬草部門のカーンの所に持っていって仕分け台のそばの所定のコンテナにいれる、という作業を黙々と繰り返す。


「これ、ロボット使う意味ってなんかあるんですか」


 俺のメンテ作業に一区切りついた休憩時間に、翔君が聞いてきた。


「意味?」

「普通に農業機械使うとかじゃないの、なんでかなと思って」

「あ、そゆことね」


 なかなかいい着眼です。


「良い具合になってる葉っぱや蕾を選んで摘んだ方が、あとの選定作業が楽になるんだよ。刈り取り機でがーっとやっちゃうと、どうしても質の悪いのが混じるから、刈った後で弾かなきゃいけなくてね」


 あれ意外と面倒なんですよ、目視でやらなきゃいけないから。


「で、魔導人形なら教えれば仕事できるから、摘み取り作業に使えるんだよね」

「じゃあなんで農園で使わねえの?」


 と、これは薬草のチェック作業を手伝ってた小島。

 薬草の見分けがつくわけじゃないから、カーンたちがより分けた薬草をカウントして纏めて記録する下働きをやってます。小島が下働きを請け負う分、カーンの助手が選別作業に集中できるという事で連れてきた模様。

 今回の小島はいわゆる雑用係なんだけど、手を抜いたら後が悲惨な事になる作業を全部任されてる形かな。堅実さとそれなりのスピードが必要になる細かい作業ばかりだし、そういうのを小島が得意としてるのは知られてきているので、重宝されている。


「魔導人形も、作業量は一人分しか無いからねー」

「あ」

「農場の広さを考えると、魔導人形に鍬を持たせても意味ないんだよ」


 働けるひとを一人雇うのと同じ事にしかならないので、あんまり意味が無いんですな。

 難民が働く場所を作る必要があることと、導入コストを考えると、お高い魔導人形を畑で使う意味はほとんどないからね。


「広い畑はトラクター使うほうが良い、ってことか」

「そゆこと。で、こっちは魔導人形のほうがうまくいくから、ダミー城下町の住人を兼ねて魔導人形にしてるわけ」


 もともとはダミー城下町の住人というのが役割なんだけどね。薬草栽培要員としての役割は、どっちかというとサブの役目になります。


「ここに誰か住ませる予定って、無いんだ」

「人間の国が近すぎるし、薬草以外ろくに育たない場所だからねえ」


 地形的には山の中腹にある小さな盆地なんだけど、日の当たる時間が短く、農業機械を導入しての生産はペイしない。土壌もそれほど豊かじゃないから、土の改良まで考えたら完全に赤字になる見込みの場所だ。

 少量でもお金になりやすくて、そんなに肥えた土じゃない方が向いてる薬草を育てるには、向いてるんだけどね。

 そして薬草は基本的に、そんなに手をかけなくていい。あんまり丁寧に育てると、かえって効能が薄れるものさえあったりする。


「魔導人形だけしかいない場所なら、いざという時に囮に使っても被害は少ないからね。誰もいなければ、インフラ整備も要らないし」

「あ、それってもしかして、人間が攻め込んできても使える水とかが無いんじゃ」

「あたり」


 勇者(笑)が攻め込んできても、水も食料も手に入りません。


 頑張って戦ってくれ、ちなみに箪笥(たんす)をあさるのは無理だから。防衛モードに入ったら城下町の魔導人形は『家にこもってやり過ごそうとする住民』となり、各『住居』はロックがかかります。

 ドアや建物は魔法で強化するので、攻城槌でもなければ破壊は無理。折れ曲がった街路を利用して戦力を削ぎ、負傷者を抱えて『魔王城』に突入して自滅してもらう方針です。

 この『城下町』で迎撃する場合、即殺はしません。


「人道的ってやつだなあ」


 小島もやっぱり根っこは善良な模様。


「負傷者を抱えて動くのは大変だし、自分達の手で負傷者にとどめを刺させる方が士気も落とせるからね」


 その場で死んだ敵は、敵の足を引っ張らない。

 その一方で、戦闘は困難だけど何とか動ける程度に負傷し、痛みに呻いている戦友を見捨てられる奴は、あまりいない。負傷した味方に気を取られたり、負傷者を支えるのに手を取られたりするから、死なせない事でかえって効率的に敵の戦力を削ぐことができる。


「……えぐい」


 こっちは人数が少ないんだから、効率的にやらないとね。


「人道的な弾丸、というのを導入した軍隊があっちにもあったけど、それと一緒だねー」

「うわぁ……僕らの世界でも、そんなのあったんですか……」


 あったんです。


「死なないほうが良いだろってことで、威力落としたらしいんだよね」


 その場で死ぬ確率は減ったけど、負傷者が発生するのは変わらないわけですよ。

 あとはお察しくださいってやつね。


「かえってエグくなってねえ?」

「人道って、難しい問題だよね」

「良い話風にまとめた!?」


 HAHAHA、オジサンは良い話が大好きなのですよ。

魔王(しまだ)「うちは農場なので、すべての設備は農作物を作る目的で使用してますよ?(棒」

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