村の子供の件。
ルージャ君をつれてシロハナダイラに戻ると、子供たちは先生役二人の話を聞いているところだった。
教材はもちろん、子供たちが採った植物。どれが食用や薬用になるのか、危ないものはどう見分ければいいのか、そういったことを教わる実践授業だ。
そして並べられてる植物を見て、ルージャ君がそちらに突進しようとしたので、浮遊で確保。ついでに眠らせる。
何か気になったものがあると突進して飛びつくルージャ君は、時々授業の妨害をして問題になっている。この野外学習は村の子供たちの安全のためにやっているものだから、ルージャ君に引っ掻き回されると後々困るんだよね。
「じゃあみんな、覚えたかな?」
「はーい!」
すよすよ息を立てて眠ってるルージャ君をシートの上に寝かせて見守っているうちに、子供らの座学が終わりました。
座学が終わったら、野外炊飯。食べられるものは持ってきてるけど、野外での火の取り扱いやお湯の沸かし方は知ってたほうが良いからね。ここらへんの沢だと寄生虫の心配はないけど、やっぱり生水を飲むのはやめたほうが良いわけですよ。
子供たちが持ってきた道具ではピットは作れないので、燃えやすいものがない所を選んで炉床を作らせ、Y字型の枝と長い棒でポットハンガーをこしらえて、お湯を沸かす。
今回は金属の野外用ポットを持ち込んでます。
沸かしたお湯でお茶を淹れて、焚火で温めなおした弁当でお昼にする。さすがに昼飯時にはルージャ君にも起きてもらいました。
少し落ち着いたようだから、このまま自力で帰れそうな感じです。
ま、お昼の薬は飲んでもらったんだけどね。
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やはりルージャ君の病状はお昼の薬一回だけでは改善できない、とターク先生が判断した。
耳長族ではルージャ君みたいな子が時々生まれてくるそうで、ターク先生によれば50年くらい前に改善する方法が見つかったとの事です。小さいうちから大人になるまで薬を飲めば良いそうなんだけど、ルージャ君の場合、お母さんが治療に猛反対している。学校でお昼ご飯を食べる時には飲ませる、という条件にはうなずいてもらったけど、なんだかんだと理由を付けて治療を妨害しようとしてるのが実情だ。
「ご面倒をおかけします」
そう言って打ち合わせで頭を下げたのは、森の耳長族の長老格であるリゼーレさん。
「ご温情で置いて頂いておりますのに、あれも言うことを聞かぬ者で」
「公的には、ルージャ君もお母さんも難民だからなあ。俺から無理強いは出来ないからね」
そう、実はルージャ君、村の子供じゃないんですな。
お母さんがこの村に逃げ込んできてから生まれてはいるんだけど、お母さんはこの村への移住にあたって必要になる宣誓を拒否。本来ならそのまま去ってもらうはずが産気づいてしまったため、村内で出産し、無し崩しで村のはずれに住んでます。
せめて生まれた子供の戸籍をここで作ろうとしたら、『魔王』の民になどさせないと叫んで拒否しまくったので、ルージャ君は村で管理する対象に含める事が出来なかった。
だから本来であれば、村人のために用意している医療や教育の対象にもなりません。
とはいえ、お母さんが意地を張ってる間にも、子供は育つわけでして。
……お母さんの心変わりを待っていられないし、お母さんも学校には行かせたがってたので、ルージャ君については「いずれ村人になる可能性があるため、みなし村民として」学校に通ってもらっている。学校でお昼を食べる時だけ治療薬を与えるのは、「学校になじむために必要だから」と理由を付けて反論を封じているような状態だ。
ちなみに治療薬の費用は村の子供同様、こちらで負担してます。人道的理由による負担、と割り切ってお金を出してる状態です。
「もはや神子としてのお役目もないのだと、いつになったら理解するのやら…」
リゼーレさんの溜息が重い。
「魔王様が神に反する存在だと思い込んでるのも、どうにかならないんですかね」
これはルース先生。
「いやぁ、あの様子だと、無理じゃないのかなあ」
俺はとっくに諦めてたりします。
ルージャ君のお母さんは、人間に襲われて滅んだ小さな村の出身で、村では神子と呼ばれていたらしい。これは森の耳長族でもごく一部の風習で、未婚の女性を神との仲立ち役に選んで神子と呼んでいたものなんだとか。
神と直接対話できるもの、という触れ込みではあるけど、実際に神降ろしの類が出来る人は少ないんだそう。まあ一種の聖職者だよね。
「本当に、恩知らずの愚か者で申し訳ございません」
「もともとはリゼーレさんの所のひとじゃないんだし、そんなに責任感じなくていいよ」
「妬みと思い上がり故に大恩を受けた相手を貶めようとするとは、まったく性根の卑しい……」
ブツブツ言いたくなるのも判るけど。
「小さい村で神子様神子様と崇められてたから、今は思うようにいかなくて八つ当たりしてる面もあるんだろうね」
「魔王様のように、神の眷属というわけでもございませんのに。何を思い上がっておるのやら」
「あのね、眷属といったってただの下っ端だからね?」
直属上司やその上司のために、駆けずり回るだけの下っ端ですよ?
「魔王様の謙虚さの欠片でも、あれが持ち合わせておればよかったのですが」
「謙虚も何も、神様と俺じゃ格が全然違うから」
ただし某邪神落ち間近の管理者は除く。
「あれは眷属の方々ほどの格も持ち合わせておりませぬ」
あ、リゼーレさん正直にぶっちゃけた。
「あれの行いは、赦されるべきではございません」
「あ、村に害をなしそうな場合は許す気はないよ」
第一に村の安全です。
ルージャ君のお母さんに厳しい態度をとろうとしてない理由は、とても簡単でして。
村の共同体に入ろうともしない、ちやほやしてくれないからって拗ねてるひとに構ってあげる気が無いだけです。
現時点で、難民支援の基準通りの支援はしている。その上で仕事も紹介してるから、自立するつもりがあるなら母一人子一人で生活するだけのものは得られるだろう。
それなのに「神子が働くなどありえない」と断っているので、お母さんについてはもうどうしようもないかなと判断してます。
「それに、あの人の態度は今さらだからねえ。今回はルージャ君の治療だけ考える事にしよう」
もはや修正不能の性格なので、ルージャ君がいなければ退去してもらってたところです。
俺としては、村であの人を養う理由がどこにも無いんだし。
魔王「こっちでできる支援は全部してあるからね?」





