表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/95

春のジビエの件。

 上の村の「堀外」のイノシシ狩りが終わったと連絡があったので、また顔を出したわけですが。


「おお、でっかい」

「今年はなんとか仕留められましたね」


 猟友会を取りまとめているダインさんも、少し安心した様子。


「重量は450ラン……300㎏というところですね」


 メートル法は俺が持ち込みました。

 ラン、は山向こうの国と共通してる重さの単位で、1ランがほぼ2/3キログラム。基本的に10進法なので割と使いやすいです。


「他にもとれたみたいだけど、ずいぶん頑張ったなあ」


 ダインさんちの解体場に並べられたイノシシは合計12匹。300㎏台は2匹で、あとは100キロ台ばかり。マダラオオキバイノシシとしてはやや小型だが、仔ではない。


「勢子が良かったんですよ、今年は」


 ダインさんが言うのに、堀外猟友会の皆さんがなぜか苦笑。


「なんかあったの?」

「魔王様の竜馬(ライディングドラゴン)が手伝ってくれたんですよ」

「ぎゃ」


 俺の後ろにいたちゃっかりドラゴンが、短く鳴いて胸を逸らせました。

 表情はあんまり動いてないけど、絶対ドヤ顔になってます。


「へえ、ちゃんとお手伝いできたか?」

「ぎゃ」


 うなずいてから顔をすりすりしてくる。

 つまりご褒美をくれってことですね。


「役に立ってたかな」

「魔狼と意思疎通できるようで、連携もとれてましたね。それと、イノシシを蹴飛ばしていました」

「蹴飛ばした?」

「アバスに突っ込んでいったイノシシを、横から」


 犬に指示を出すからアバスも一緒にフィールドに出てるわけですが、そのアバスに向かって一頭が突っ込んでいったそう。

 マダラオオキバイノシシと名付けただけあって牙の長いイノシシだから、小型の個体につっこまれた場合でも、腹や太ももを牙で刺されることになる。腹を刺されれば即死しなくても腹膜炎で死ぬ可能性が出てくるし、太腿は太い血管を切られたら終わる。

 あわやというところでちゃっかりドラゴン登場、あの図体でイノシシを華麗に蹴飛ばしたそうな。


 子供らを真似てサッカーの真似をしてたのが役に立ちましたかね?


「これです」


 猟友会メンバーの一人が指さしたイノシシは、比較的小柄だけど、牙は長い。ある意味、一番ひどい怪我をさせるタイプの個体でした。


「うわ、これはぶつかられたら大ごとだったね」


 なお、イノシシに残った傷は気にしません。

 腹を後足で掬い上げて思いっきり飛ばしたらしく、腹に打撲痕があり、首が折れてるけど。首は多分、地面に落下した時にやったんだろう。

 今は血抜きも終わって、解体を待つばかりになっている。


 見ている間に一番大きいイノシシの足がくくられ、吊り下げ台からぶら下げられて、腹の皮にまっすぐな切れ目が入れられる。

 今の時期は脂の乗りも悪く、肉の質としてはけして良くないんだけど、これでも貴重なタンパク源。

 丁寧に皮を剥がれ、内臓を抜かれて、それから枝肉になるイノシシは、しばらく堀外住人の食卓を支えてくれます。


「春にしては、悪くない肉ですな」


 ダインさんも少し安心している様子。


「しばらくの間、肉の調達の心配はしなくて良さそうだね」

「塩漬け用の塩を買わなきゃいけません。予定より多く獲れましたから」


 枝肉の長期保存ができる冷凍庫はまだ無いので、保存方法は塩漬けや燻製です。

 輸送用冷蔵庫は出来ているから、技術的にはあと一歩というところなんだろうけどね。冷凍庫は今のところ、冷却部の小型化や筐体の断熱の問題で実用化できていないんだそうで。


「うちに在庫あるから、いつもの値段で出せるはずだよ」

「塩の値段が安定しているのは、ありがたいですね」

「そこらは注意してるからね」


 変に高い税金をかけてボッタクる国や領主は珍しくないんだけどね。

 俺としては、生活必需品の値段を吊り上げるような阿漕(あこぎ)な真似は、出来るだけやりたくないんだよねえ。岩塩採掘もタダではないから、コストが回収できるそれなりの値段では売るけど、確実に買うからって暴利をむさぼるようなのも、どうかと思うし。


「ああ、そういえば去年の塩の回収も頼まないと」

「余った?」

「塩漬け樽の中身がありますから。塩水が大半ですけどね」


 塩漬け樽に残った塩をそこらに捨てるわけにいかないし、塩事業部で回収再生してるんだよね。


 固体化したものも塩水にして不純物を除去して、それから再結晶化させてます。コスト的には岩塩採掘と同じくらいだけど、岩塩の埋蔵量も無限じゃないことを考えれば、今のうちから再生技術を持っておくのは悪くない。

 それに回収してると判れば皆さん、排水に流さないように努力してくれます。回収した分量によって塩の値引きをするようにしてるから、それなりにメリットはあると思われてる模様。


「じゃ、それは俺からも言っておくよ」

「こちらからも発注しますので、よろしくお伝えください」


 解体屑のおやつを期待してるワンコは残して、ちゃっかりドラゴンを回収することにしました。

魔王(しまだ)「農地を守るために駆除したお肉も、貴重な食材ですよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ