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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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よその国がトラブってる件。

 流路閉塞解除と同時に何かが流れていったけど、それとは関わりなく仕事という物はあるわけで。


「資材確保も進んでます」


 堰止湖が出来る原因になってるのは土砂だけじゃなく、流木なんかもあるからね。

 使えそうな木は回収です。


 特に今年は、冬の土砂崩れで流された山肌に生えてた木がけっこう混じってるし。全部が回収できるわけじゃないけど、太いものは資材に、細いものも燃料に回せるから、工事がてら回収しています。


「この間、少し流しちゃったのはちょっと勿体なかったよなあ」


 略奪部隊が来なければ、急いで流す必要もなかったのに。


「仕方が無いですよ。そういえば、事後の調査結果ですが」


 略奪部隊が()()()()()にあった緊急放水で水をかぶった地域については、簡易的な調査を行っている。もちろん、ほとんどがうちの管理区域外にあたるから、それほど詳細な情報ではないけどね。


「タウラ―渓谷の堰止湖がそろそろ限界です」


 うちから見るとかなり下流にある、人間の国の端っこに出来た堰止湖のことです。


「雪解け水の流入も続いてるもんなあ」


 なにしろ下流のあの辺に流れ込む川は一つじゃないわけで、うちから流れる川の流量が減っている現在でも、他からの水量はいつもの春と同じ。堰止湖は順調に水位を上げている。


「現状だと、最大被害までは出そうにありませんが」


 タウラ―渓谷堰止湖の決壊で最大被害予想が出る水位は、もう少し高い。現在の状態で決壊が始まれば、総被害は少なくて済むだろう。


「他人の不幸を願う必要もないし、観測だけしといてくれればいいよ」

「了解しました」


 どのみち、食糧不足に陥ってる国だからね。


──────────

 営繕調査課からの報告を聞いた後、今度はリーシャさんからの報告を聞く。


「我が家に食糧支援要請を寄こした家は、こちらの一覧にまとめてございます」

「多いねえ。ところで、この左側のバツ印は?」


 リーシャさんが提出したリストは、人間の国の貴族の一覧。それほど大きい国でもないのになんでこんなに貴族が多いのか、と思うけど、下は住民2桁の村一つの領主から存在するので、まあまあ数はいるわけだそうで。


「そちらは、領民のための食糧備蓄を怠った者たちになりますわ。我が家の保護下にある者は一枚目に、それ以外が二枚目にまとめてございます」


 準備不足だった村や町が案外多かった、という事だろう。

 リストにはそれぞれの支配地も書いてあるけど、リーシャさんはリストのほかに、準備不足だった領主の支配地を書き込んだ薄紙も持ち込んでいる。その薄紙を俺の部屋にもある地図に重ねれば、すぐに問題の地域が判る優れものです。


 それにしてもリーシャさん、新しいアイデアを使いこなすのが早い。さっそく報告に応用してくるだけの理解力と、指示通りに動けるスタッフを抱えているのは強いです。

 あ、今回のこれは農場内に派遣されてるリーシャさんちのスタッフの仕事。人間の国の内部事情をこちらに漏らすわけだから、整理される前の情報にこっちのスタッフが接触しないよう、リーシャさん側も神経を使っている。あちらにとっても機密ではあるからね。


「ああ、やっぱり偏ってるね」

「臣下の一部につきましては、備蓄可能な余裕がもとよりございませんので、我が家でも支援対象としております」

「それ以外への対処はどうするの?」

「黙殺いたします。父と祖父の決定でございますので、わたくしにはどうにもできませんわ」


 現当主と先代当主、二人がそう決めてしまえば誰も何も言えない。

 人間の国だとたいてい、そういう事になる。


「まあそうなるよね」

「ええ、我が家にもそう余力はございませんし」


 リーシャさんが全力でニコニコしているのも当然で、余力が無いというのは言い訳です。

 当主が決めちゃえば、娘のリーシャさんには決定をひっくり返す権力なんか無いからね。リーシャさんにいろいろ言ってくる連中を追い返すためにも、お祖父さんとお父さんの決定が役に立ってるわけですよ。


 ちなみにリーシャさん以外のルートで、俺もリーシャさんの実家の状況は把握済み。もちろん、リーシャさんちの皆さんもそれを御存じだから、お互い見て見ぬふりってとこなんだけどね。

 ついでに、リーシャさんの名誉回復に手を貸すと称して、リーシャさんの実家から食料を確保しようとする奴が居るのも把握済み。それは今のところ、ご家族一同で跳ねのけてる様子。


 ……その行動がどうも、家門のためとばかりも言えないんだよねえ。

 リーシャさんのお父さんの決定が、ちょっと早めだったと判ってるし。なりふり構わない連中から、娘を守ろうとしてるようにも見えるんだよね。

 まあ、たぶんこの推測も合ってるだろうけど。婚約を盾にとって王家に軟禁された挙句、殺されかけた末娘(リーシャさん)の事を、リーシャさんの家族は物凄く気にしているから。俺への手紙にそう書いて寄こしたこともあるし、そもそも娘が大切でなければ、お父さんの腹心でもあるワールさんを補佐として送り込んできたりもしないだろう。


 もちろん、情報収集や、こちらとの顔つなぎという意味もあっての人選だろうけど。


 とはいえ、娘をただの道具扱いする気なら、リーシャさんの自主性を大切にして何でもやらせようとするワールさんは、あんまり良い人材じゃない。

 ワールさんはおそらく、リーシャさんを指導者になれるように育ててきている。あの教育方針だとたぶん、従順で文句ひとつ言わないようなお人形は育たない。末姫を王家にとられるなら乗っ取りの一つもできるくらいに育てておこう、と腹を括ったと考えると、いろいろ腑に落ちるんだけどね。


「この様子ですと、我が家と紛争になるのはこの2家が最有力です」


 リーシャさんが指さしたのは、比較的大きな領地を持つ二カ所だった。


「輸出には影響無さそうな立地だね」

「島田農園にとって重要な通商路には大きな影響が出ないと考えておりますけれど、不満を持つ小領主もおりますので、この東街道は治安が悪くなる可能性が高いかと」

「ターラ東街道か。こちらで警備もできないからなあ」


 うちの管理区域外ですから。


「主に、わたくしどもに影響がございますわね」


 リーシャさんが困ったように呟いていた。


魔王(しまだ)「人間の国は一波乱ありそうだね、俺は関係ないけど」

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