作業計画と、その他の事。
ワンコがハンドラーに連れられてお仕事にでかけた後は、俺はいつも通り農園の仕事。
といっても、朝の作業が一段落した後は下の村に戻ってデスクワークだったりしますが。
冬季閉鎖してた街道を開ければ、冬は止めていた一部作物の輸出も再開になるので、その輸出に係る書類のチェックとか。作業開始後に判明する改修案件の確認とか。まあそういう仕事もあったりするわけですな。
書類の作成は担当係がやってくれてます。
いまだに馬具すらない人間の国はとにかくとして、それ以外の国はすでに産業革命時代。交易の仕組みもきっちり整ってます。山向こうの国々に売る農産物は、あちらにとって『域外自治領』からの輸入品の扱いになるので、こっちからも正式な輸出書類って奴を付けなきゃいけないんだよね。俺の名前で出した書類をちゃんとつけてないと、正式な貿易品と見なされません。
うちの商品を保護する事を考えると、こちらの書類を正式に認めてもらえるこの状況ってありがたいんだけどね。書類がついてなければ偽商品という事に出来るから、産地偽造にうちの名前を使おうとする奴を叩く材料にもできるし。関税は有り難くないけど。
昔は俺一人で全部の書類を作ってたから、色々面倒だったんだよねえ。生産量も少なかったけど、書類作成にはけっこう手間を食ってました。
今は書類を作ってくれる事務の人が何人かいるので、いろいろ楽になったわけで。
書類確認が終われば、営繕といっしょに農園と付近一帯の地図を囲んで今後の作業計画会議。あとついでに、要らん客を追い返すための作戦会議です。
雪が消えていくこの時期は地形の変化も激しいので、いろいろ整備するべきことはたくさんある。このあいだ決壊した堰止湖の上流に別の堰止湖が出来かけてたり、鋭敏粘土の層がいよいよ緩んできてたりと、例の略奪部隊が向かっている方面での整備項目が案外多いし。
「検討の範囲内では、こちらの堰止湖が決壊した場合の最大被害は赤で示した範囲です」
この冬の間に試作された薄い紙に描かれた被害予想図を説明するのは、営繕のリカルス。
地図の上に薄紙を重ねて使う案は俺が出しておいたんだけど、ようやく実用レベルの物が出来たので、現在は試用中です。
元の職場では、地図にビニールシートを重ねてそこにホワイトボードマーカーで描き込んで使ってたんだけど、こっちの樹脂はまだ柔らかいシートの生産が出来てないんだよねえ。フィルムの再現については窓用の樹脂を薄く加工できないか試して貰ってはいるんだけど、今のところどうやっても固い板のままなので、ちょっと取り回しが悪い。いつもは取り回しがやや悪い板で頑張ってるんだけど、今回はトレーシングペーパーっぽいものが出来たので、それを使ってみています。紙だと普通の筆記具がそのまま使えるのも利点だよね。
「前回の片付けも出来ていないから、被害は拡大するな」
一つ目の堰止湖が決壊した時に洪水になった場所には、まだ手が入っていない。
なにしろ人間の国から見ても僻地の事だし、そもそも救助作業や復旧作業という発想は人間の国には無い。洪水で荒れたところは、水が引いたら領地を切り取りに行く先、くらいの認識だろう。
もちろん、減災のための予防的工事なんて発想はないから、今後も荒れると予想されます。
「前回の氾濫で流出した土砂で、タウラー渓谷からの流出路が狭まっているのが確認できました。堰止湖が形成されつつありますね」
「二度目の決壊でどうなるかな」
狭窄している地点が閉塞すれば上流が沈むし、決壊すれば下流に大きな被害が出る。
とはいえ、うちでなんとかできる範囲じゃないです。
タウラ―渓谷があるのは人間の国の端っこにあたる位置。その上流にあったいくつかの村は開拓が始まってたいして時間が経っていなかったとはいえ、人間が切り開いた土地だったし。
住民は俺を魔王呼ばわりする人間だし、農場から遠いし、でこちらから進んで救助する対象にはしてません。そもそもうちは基本的に農場なので、助け合う隣人でもなく手を出しても赤字にしかならない相手に、無償で何か提供する余裕もないんだよねえ。上の村の『堀外』みたいな、仲の良いお隣さんは別だけど。
「タウラー渓谷の堰き止め湖が決壊した場合の、追加被害予想図がこちらです」
リカルスが別の薄紙を地図に乗せた。
追加された部分で赤く染まっているのは、すべて人間の国の範囲内。
「うちの農場への影響は少なく済みそうだね」
上流の堰止湖が決壊した場合、新たに拡張予定の場所の、ごく一部は流されそうだけど。ただ、さすがにまだ手つかずの場所ばかりなので、どうにもしようがないです。
「上流の堰止湖決壊時の最小被害範囲に、例の略奪隊の進路が入ってるな」
これは警備のゼーグ。
「掃除に使おう」
上流の堰止湖も自然決壊に任せるんじゃなくて、出来ればコントロールできる状態で徐々に水量を減らしたい。
決壊して一気に流出しても農場への影響はないけど、別に下流の人間に殺意を持っているわけでもないし、被害を増やす必要もないだろう。助ける気もないけど。
「安全確保の上で流出路の工事、出来そう?」
「閉塞物の除去は進めております。資材化できそうなものもありますし」
山から流れてきた流木に、使えそうな大きな木もあるからねえ。
「できれば、浮遊矢をあと20本ほど頂ければありがたいのですが」
「判った、作っておくよ」
浮遊矢というのは、浮遊の魔法が使える魔道具で、弓で飛ばして目標物に突き刺したところで魔法を発動させて、目標物を楽に引き寄せられるようにしたもの。工事の時にも使えるので、うちの営繕には常に用意があります。
が、消耗品だから時々補充が必要なんだよね。
山向こうの国でも使われているから市販はされてるけど、もともと良いお値段がする上に、うちまで持ってきてもらうと輸送費が馬鹿にならないので、自家製を使ってます。
「浮遊矢を贅沢に使えるのは、有難いですね」
「時間さえ貰えれば供給できるから、ケチらず使っていいよ」
自給自足できるものは、作ったほうが良いよね。
魔王「俺が面倒見られる範囲って、けっこう限られてるんだよね」





