飼い犬のこと。
犬も品種によって性格はずいぶん違うわけですが、それはこちらでも同じようで。
「やる気満々だなあ」
少し興奮気味に跳ねているのは猟師の犬。尻尾以外の見た目は柴犬そっくりな、茶色の猟犬が五頭、出番を待っている。
そしてうちから貸し出すワンコも数頭、こちらはのんびりと寝そべったり、おとなしくお座りしたりして指示を待ってます。
「農場の犬、大人しいんだな」
感心したように言っているのは小島ですが。
「犬じゃない、魔狼だよ」
ハンドラー役のアバスが教えてる横で、うちのリーダーワンコ・タローがのんびりと後足で顎をかいてました。
「魔狼?って、オオカミ?」
「魔法をちょっと使えるオオカミの仲間、だね」
「緊張感とか威圧感とかそーゆーのゼロのこいつらが?」
「うん、一応はオオカミの仲間らしいよ?」
見た目はハイイロオオカミですが、中身はゴールデンレトリバーっぽい感じなんだよね。群れ以外の犬ともうまく付き合えるし、学習能力は高め。リーダーを中心とする群れを作って生活する動物なんだけど、狩りの時じゃなければおっとりした個体が多い。
野生にもいる種だけど、うちの子たちは俺が拾った仔犬の子孫で、野生生活の経験はない。飼われてるから大人しいのかなと思ってた事もあったけど、怪我した野生の成犬を保護したらあっさり懐いたその子も大人しかったので、どうやら種族的特徴の様子。
「へ~、たしかに見た目はかっこいいけど……犬っぽい」
「そりゃ、コジマが群れの仲間と思われてるからさ」
アバスがちょっと苦笑気味です。
「へ?」
「タローにとっちゃ、おまえさんはボスの群れにいる弱っちい奴だからな」
「え~」
そのへんはオオカミ的というかなんというか。ワンコにとって群れの序列はとても大切なわけですが、アルファであるタローにとって俺は大ボス。で、アバスは俺の命令をタローに伝える個体として尊重されてるわけですな。
そして小島は俺が保護した「弱い奴」という認識である模様。
「俺の保護下にいるから、タローの群れでも保護しなきゃいけない、って認識なんだよ」
「え、なにオレ拾った子犬レベルなの?!」
「限りなくそれに近いなー」
タローのパートナーのシロがさりげなく気にしてるし。
仔狼を拾った時と同じ反応です。拡大した群れの仔の一頭として気にかけてるわけですな。
「えええええ」
「面倒見は良いんだよ」
諦めて面倒見られてるのが一番ですよ。
「そりゃ~、俺より犬の方が強いだろうけどさ……なんか複雑なんだけど!?」
「俺やアバスが指示出すから大丈夫だよ」
さすがに、俺やハンドラーはボスのタローより上位だからね。
ワンコの群れをちゃんと制御しようと思うなら、俺達がきちんとボスになってやらないといけない。ひとが飼っている以上は勝手な真似をさせてはいけないし、飼い主を無視して行動する家畜は処分されるのが普通だ。
ましてこのワンコたちは、その気になればひとを狩れる肉食獣。ひとに従うことを忘れて行動し始めれば、駆除するしかなくなり、誰も幸せにならない。
……ボス争いを挑まれる事もあるから、そういう時は全力で迎え撃たなきゃいけない、という事でもあるんだけどね。魔法でなんとかするから大丈夫ですが。
魔王「うちのワンコはおとなしいよ?」





