開拓事始めと春の収蔵品公開。
下の村の植え付けが一通り終わったら、今度は上の村で植え付け準備です。
その前に春の祭りがあるけど。
豊穣祈願のための祭りはそう派手なものじゃなく、一日で終わる程度のものですが、ちょっとだけ異色なものが展示されてたりする。
「なんで軽トラ?」
小島が首をひねってるのも、まあ無理は無いだろうねえ。
「俺が最初に持ってきた道具なんだよ」
管理者氏は俺の事も問答無用で拉致ろうとしたわけですが、俺の直属上司にボコられ、上層部からは苦情を入れられた結果、ある程度の準備期間と資金を用意することで話がついたわけ。
で、その時に俺が準備した道具類を積んでたのが、豊穣祈願祭で公開される軽トラ。
ここに来てしばらくは野ざらしだったけど、そのあとはずっと納屋に入れて時々掃除してたから、見た目は奇麗です。内部の樹脂系のパーツはすっかり硬化してるし、燃料もオイルも切れてるから、もう動くことはないけどね。
「軽トラに必要になる道具積んで、こっちに来たってわけ」
「本当ならもっと下に降りるはずだったんだよな?」
「そだね。このへん、最初は車で走れるような場所じゃなくてねー」
林道くらいなら走れる車だけど、最初に降ろされた場所は湖の近くの藪の中。たまたま乾いてる時期だったので泥に埋もれずに済んだけど、雨が続けば水はけが悪くぬかるむ場所でした。
もちろん、意図的にやったことだった、とは管理者氏に確認してあります。剣先スコップで少々O・HA・NA・SHIして聞き出したわけですが。
「そこでも嫌がらせかよ、根性悪くね?」
「根性曲がりじゃなかったら、君らの誘拐を認めたりしないでしょ」
「それはそうだろうけどよー」
「軽トラって、荒地も走れるんですね」
小島がぶつぶつ言ってるのをスルーして、翔君がそんなことを言ってきました。
「うんにゃ、さすがに限界があるよ」
「え、それじゃどうしたんですか?」
「魔法の使い方を聞き出して、短距離転移と浮遊で移動させたんだよね」
自走させてたら相当大変なことになったと思う。
なにしろ藪の中に小さな川が有ったりする可能性があるわけだから、車両を移動させる前に周辺の偵察は欠かせない。いくら頑丈で小回りが利く軽トラだって、まったく状況が判らない荒地の中で安全に移動するためには、ある程度の情報は必要になる。
一人で偵察して道を作って移動して、なんてやってられないので、そこは車ごと微高地に短距離転移し、移動直後に着地せず浮遊で地面から浮くという方法をとりました。
「で、軽トラの周りにキャンプ作って、そこが農園の始まりだったわけ」
「キャンプ?」
「いきなり家なんか建てられないでしょ。それを見越して、テントやキャンプ道具を持ち込んだんだよ」
駐車した軽トラの周辺に排水路を掘って、掘った土で簡単な土塁を作成し、軽トラ近くに天幕と野外トイレを設営。さすがにユンボは持ってこられなかったから、土木工事はほぼ魔法頼みでした。
初の魔法行使で多少失敗した後が、今も残ってたりするわけですが。
「排水路っていうか、堀?じゃね?」
「このくらい掘っておいた方が、野生動物は来ないだろうと思ってね」
堀の断面は外側がなだらかな斜面、拠点側は急峻な斜面になっていて、動物が上がって来られないように作ってある。本当はもうちょっとささやかに作る予定だったんだけど、なにしろ初めての魔法でうまくコントロールしきれず、勢い余って深さ2mほどになりました。
まあ、深い分には困らないから良いけどね。
「よく考えてんなあ」
「ちょっと手が滑って大げさになったのも事実だけど」
「手が滑った、てそれなんか違くね!?」
「気にしない、キニシナイ」
よくある話デスヨ?
「軽トラいっぱいの荷物だとけっこう持ってこられたと思うんですけど、何持ってきたんですか?」
翔君はなかなかマイペースです。
「工具一式と農具少々、狩猟と釣りの道具、着替え、キャンプ用品、当座の食糧、苗や種、そんな感じかなあ」
「けっこう持ってきた感じなんですね」
「うん。斧とか鉈とかのこぎりとか、そんなのも無いと駄目だろうと思ったから、いろいろ持ってきたんだよ。こっちに展示してあるのが最初の道具だね」
最初に持ち込んだ道具はさすがに、研ぎ減ったりしてるから使えないものも多い。昔は倉庫に放り込んでおいたんだけど、今は住民からのリクエストで展示してあったりします。
「弓も持ってきたんですね」
リカーブボウとクロスボウも、展示してあります。最初の頃は良く使ったんだけど、魔法の上達と魔導銃の導入で用が無くなったからね。村の資料館行きになりました。
「日本だと狩猟に使えないけど、こっちじゃ使えるからね」
「え、日本って弓矢使っちゃダメなんですか」
「狩猟法に引っかかるからね」
「ええ~、意外」
「でも、なんでダメ?」
「銃ほど当たらないし、すぐ死なないから動物虐待になる……とかいう理由だったんじゃないかなあ。よく覚えてない」
なんせ、日本にいたのは昔の事だからねえ。
「あ、キャンプ用の鍋がある。今使ってるのと変わらないんですね」
「うん、デザインはほとんどそのまんまでこっちに導入したんだ」
メスティンやコッヘルといったものはもちろん、持ち込みました。
今、村の警備部隊で使ってるのは、持ち込んだ品のコピーをもとに作られたもの。それぞれの部族でちょっとずつ変えてはいるけど、基本的なデザインは変わってません。材料がアルミじゃなくて鍛鉄だったりするのが違いかな。
食器も、最初はキャンプ用の金属製を使ってた。自作するにしても焼き物にあう土がすぐ見つかるとは思えなかったし、とりあえず全部持ち込んでたんだよね。
「さてと、そろそろ儀式だから席について」
準備が出来たと係りが知らせてきたので、二人を参列者席のほうに行かせ、俺は祭壇の前へ。
村全体の豊穣祈願なので、氏神様にお供えをするほかにも、こちらの火の神様や豊穣の神様もお祀りする。
火の神様の儀式は、燃えてる竈に香草を投げ込むというもの。ただしこの村の場合、伝統的な竈じゃなくて、ロケットストーブ使ってますが。
これも俺が持ち込んだんだけど、燃焼効率が良いので煮炊きによく使われるようになったんだよねえ。ただし火が見えにくくて儀式用にはあんまり向かないので、儀式の時に使うのはファイヤーピットです。野外で良く使うんだけど、いわゆるダコタ・ファイヤーピットに近い構造。煙が少ないので便利です。
神様たちへのお供えをして、ちょっとお祈りして、それで儀式はおしまい。
「なんかすげーあっさり終わった…」
小島がなんかしみじみ言ってました。





