冬の手仕事いろいろ。
基本的に冬は屋外での仕事はあんまりないから、工場勤めをしない人は若干、暇になる。
その暇を利用して、屋内での仕事を色々片づけるシーズンでもあるわけね。あと、ちょっと手間のかかるものを作ったりもする。
俺の場合、今年は靴を新調することにしたので、靴職人のところに行ったり。
「え、オーダーメード?」
そして俺のものもだけど、何も持ってない小島のものも頼まないといけない。
というわけで小島を一緒に連れて行ったら、工房を見て腰が引けてました。
「支給品のでいいよ、高そうだし」
「靴は拘ったほうが良いよ、疲れが違うから」
支給品もそれほど粗末なものではないけど、きちんと足に合わせて作った靴はやっぱり履き心地が全然違う。あと、オーダーメードにすると靴底の材質をちょっと良いのに換えられるんだよね。支給品は値段もそこそこ抑えなきゃいけないので、靴底は木と革なんだけど、オーダーメードの場合は樹脂を入れてちょっとあたりを柔らかくすることも可能。
樹脂の開発にはこだわりました。こっちにはゴムもないし、材料を発見するまでに20年くらいかかって、そこから更に靴底に使える固さに加工できるようになるまで30年かかったけど。ま、色々試せるのが冬だけだったから、長くかかったのは仕方ないです。材料もそう大量にあったわけじゃないしね。
今は量を採れるように原料を栽培してるけど、昔は森の木から原料の樹液を採取してたから、けっこう大変だったもんです。
「そっちの、コジマといったか。型とるから靴と靴下を脱いでくれ」
そして工房の主、靴職人のカドクは遠慮なんかしません。
「ええ~……」
「良いからとっととせんかい。ここに残る奴に、魔王様が色々作ってやるのはいつもの事だ、遠慮してぶつくさ言っとる方が失礼だ」
カドクが遠慮なく背中をバシバシ叩いてました。
まだ体力がないもんで、小島がつんのめってます。
「しゃっきりせえ、ほれそこに座れ」
三本足のスツールに座らされた小島は、明らかに戸惑ってましたが。
「型ってのはな、一回作った後で調整していく必要があるからな。今回は型を作ってそれに合わせた靴になるが、何度か手直しが必要になるんでな、これからも付き合ってくことになるぞ」
手際よくサイズを測りながら、カドクがそう説明。
「恒例行事ですねえ」
と、工房の若手は笑って小島の戸惑いをスルー。
まあ、いつもの事だからねえ。
俺は修理が必要な手持ちの靴を一足預けて、靴のデザインについて職人と相談。といっても、今度作り直すのは農作業用の長靴。
膝下までの丈の、いわゆるウェリントン・ブーツですな。防水性と作業しやすさ重視です。俺としてはプレーンな作りが良いと思うんですがね。
「もうちょっと飾りとか入れましょうよ」
と、職人のほうがなんか熱心です。
「手入れめんどいから、要らないなあ」
「そうおっしゃらずに、もうちょっと作ってて楽しいものにしません?」
「それは他の人の靴でやってよ」
磨く手間を考えると、ね?
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そして足回りでもう一つ重要なもの、といえば、靴下です。
「靴下もオーダーメードなんか……」
なんかすっかり恐縮してる小島ですが。
「支給品だと布靴下になっちゃうからねえ」
ラーナさんが管理してる支給品には編地も多少あるけど、生産コストの問題もあって、織った布がほとんどなんだよね。靴下も、布で作ってある足袋っぽいものだったりする。
こっちだと安い靴下は足袋みたいな布製品なんだそうで、手編みしなきゃいけない靴下は割と高級品になるんだよね。手間暇かかってるから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
早いところ、だれか編み機を発明してほしいです。手動の編み機なら祖母が持ってたけど、俺も子供の頃に見ただけなんで、構造なんかさっぱりわからないので作れません。
「支給品と編んだ靴下と、両方使い分ければいいよ」
「うん、そうする」
「自宅用なんかは、自分で編んでも良いけどね」
「え、編めんの?」
「慣れればね」
こっちだと、男でも編み物する人はそれなりにいたりする。
冬の手仕事のひとつとして、実用と趣味を兼ねて有用なものだと認識されてます。まあ俺も編めたりするわけですが。
「チャレンジするなら、道具と材料はあるけど」
「あるんだ」
「家の中で履く程度のものなら、俺でもなんとか作れるからねー」
さすがに編み上げの半長靴を履く時は、売り物になるレベルで編める人が作ったものを履くけどね。
丈夫でかつゴワゴワしない糸でしっかり編み上げた特注品の靴下と、足のサイズに合わせてきちんと作った靴を合わせると、かなりの距離を動けるし、疲れも全然違う。昔、仕事用に買ってた厚地の機能性靴下には負けてると思うけど、それでもここで望めるベストに近い組み合わせだろう。
もちろん安くはないけど、昔から、足回りには投資することにしてるんだよね。移動能力って大切です。
「初心者なら、マフラーでも編んでみるか?」
「なんか乙女っぽくね?」
「村で一番の編み手って、おっさんだけどな」
赤鱗族のファーランさんが一番上手なんだけど、性別は男です。
「へぇ……男が編んでも、笑われないんだ」
「冬の手仕事のひとつだし、インドアでやれる仕事としては人気あるんだよ。興味あるなら、やってみればいいよ」
「じゃ、道具借りていい?」
「毛糸もあるから、練習用に使えば良いよ」
俺の好みで、モノトーンの糸しかないけどね。
魔王「北欧のオッサンも編み物するらしいから、まあ似たようなもんじゃね?」





