元悪役令嬢は優秀です。
人が増えると子供も増える、子供が増えれば学校も必要……なんですが。
いつのまにか農場の住人が増えたし、家族ぐるみで避難してきた人もいる結果、重要になったのが子供たちの教育ですが。
「四則演算と共通語の読み書き、くらいしか教えられないんだよなー」
読み書きそろばんというくらいだから、まずは基礎だけ教えることにしようそうしよう。
という形で、寺子屋程度のものは用意しました。
問題は、教えられる人が少ないってことですが。
小さい子供に一からものを教えるのって、意外に難しいんだよねえ。というわけでかなり問題抱えていたんですが、最近は光明が見えてきました。
キーパーソンはリーシャ嬢。
さすが最強お嬢様、彼女は教育制度の重要性を理解してるし、なにより出身国以外にも人脈があるし。
「平民の子供に読み書きを教えるなら、神官が良いのですけれど。彼らは平民に字を教えることも致しますので」
人の手配や教える場所の選定はリーシャ嬢に一任しました。
「神官かあ、勧誘しにくいねえ」
「嫌とはおっしゃらないのですね?」
「誘拐犯じゃない神官とは、俺は敵対する気ないから」
神殿が勝手に敵視してくれてるけど。
「といってもさすがに、人間以外は劣等種族だとか言い始める奴なら、お帰りいただくつもりだけど」
「そんな者は、この国に相応しくございません」
その笑顔、見てるこちらの背筋がなぜか寒くなるんですが。
「種族対話を求める宗派もございますので、そちらから招けばよろしいと思いますわ。幸いなことに、智女神の信徒は穏健派です」
「改宗を迫るような人も、あまり嬉しくないなあ」
神官さんの説く内容や人柄に魅かれて自発的に改宗するのは良いけど、カルトばりにゴリゴリ改宗を迫ってくるようなのは勘弁してほしい。
「魔王様のお膝元でそのような愚行を考える者も、相応しくございませんわよ?」
「異教徒の子供にも教えてくれる人なんて、いそう?」
「まともな智女神の神官であれば、むしろ歓迎するものですわ」
あ~そうか、布教するなら良い手掛かりになるもんね。
「ええ、そういうことです。彼らは学問を広めることを教義としておりますし。もしよろしければ、知り合いの神官長に手紙を書きますわ」
「来てくれそうな人がいれば、良いけど。お願いできるかな?」
「かしこまりました。念のため、手紙の確認もお願いいたしますね」
「あ、はいはい」
機密保持のための検閲も忘れない、できるリーシャ嬢でありました。
これでまだ二十歳なんだよなあ、リーシャ嬢。驚きの若さです。
学校の設置場所や教員の手配といった諸々のほか、教育理念なんてものも確認された。
理念とか言われても、俺としては『生活に役立つ基礎的な教育』を、としか言いようが無いんだけどね。
「四則演算くらいできないと、生活に困るでしょ」
「その要求が、わたくしの生国では貴族並なのです」
「うん、そこはほら、文化の違いってことで?あ、教科書も作らなきゃだな」
「内容を決める都合もございますし、教える者の手配が済んでから、相談の上としたいのですけれど」
「それもそうだね、使う人の意見聞かないといけないし。紙も少し増産したいなあ」
木材パルプから紙を作る技術レベルには至っていないので、今のところは和紙のように低木の樹皮と、膠っぽい樹液を使って紙を作ってます。
原材料はそれなりに確保できてるから、あとは製紙工程の自動化を進めたい。人口を考えると、いろんなところで自動化しないとやってけないし。
「子供用のノートはやっぱり無理だなー」
いろいろ考えたけど、紙に書いて勉強するのは難しいと判断するしかなかった。
製造が追いつかない。
「石盤で良いと思いますわよ?」
「石だと重くないかな。子供でも使いやすいものが良いな」
ミニ黒板とチョークで良さそう。あ、でもこの辺だと石灰岩がないな。海が遠いから貝殻も使えないし、チョークの材料が無い。
「多少重くはございますけど、石盤と蝋石でしたら比較的普及しておりますから」
「入手可能性かあ、たしかにそれ重視しないといけないよな」
子供たちに使わせるなら、ある程度壊れるのは見込んでおかなきゃいけない。そうなると入手しやすいものじゃないといけないわけで。
人間の国で良く使われてるなら、それを買ってくるのも手ではあるよね。
「手配はこちらで致しますが、よろしゅうございますか」
「うん、よろしく」
とりあえずリーシャ嬢に丸投げしておけば何とかなる気がした。
次話は2019/10/18 22時以降に公開の予定です。