翌日の筋肉痛は若さの証拠。
明けて翌日、朝のひと仕事をして、今日は食堂に顔を出したんですが。
「今日は無理すんな」
「とか言いながら筋肉揉んでいかないでくださいよ!」
賑やかなのは、スキー体験に参加した若者達ですな。
ほとんどの若者が筋肉痛の様子。いつも肉体労働してると言っても、使う筋肉が違うからねえ。
そしてもともと筋肉が少ない翔君はというと、なんか一番ひどい様子で食堂のテーブルに突っ伏してました。空になった食器が置いてあるから、朝食は一応食べた模様。
「卵拾いは終わったし、午前中は休んで良いぞ」
ニワトリ係のデーンが声をかけてます。
「え、仕事しますよ」
「無理すんなよ?」
「これで休んだらなんか負けたような気がするんで」
大丈夫かねえ。
「ずいぶん派手にやったねえ」
そして見れば翔君、顔に擦り傷作ってました。
「なんかあった?」
「ニワトリに蹴られてこけました」
ものすごく悔しそうですが。
「筋肉痛で動きが悪かったんですよ」
と、デーンがフォロー。
「でも、卵は割らずに確保しましたから!」
「ああうん、頑張ったね」
褒めておきますかね。
何があったのかはデーンたちに聞くか。
朝っぱらからよれよれしてる若者を見送った後、幹部用に区切られたスペースで食事。今日は具だくさんのシチューと芋です。シチューの出汁に使われてるのはたぶん、一昨日ローストになってた鳥の骨だろう。
「卵料理は、昼ですかね」
俺が食い始めた後、自分の朝食を持ってやってきたデーンが、そんなことを言っていた。
「ある程度数がたまってからじゃないと、出せないでしょ」
冬はどうしても、回収できる卵の数が減るからねえ。毎日みんなで卵料理というわけにもいかない。
「昨日も一昨日も出てないんで、そろそろ期待してるんですがね」
「あ、けっこう回収できたんだ」
回収できる卵が少ない時期だと、卵料理は一週間に一回くらいになることもあったからね。
「はい、後で数字は出しますが」
答えてから、デーンが何か思い出して吹き出しそうになっていた。
「なんかあった?」
「ああ、その、カケルが今日は頑張りまして」
「なんかヨレヨレしてたけど。鶏に蹴られたって?」
「あいつ、今日は筋肉痛でうまく走れなくてですね。見事に二連発の蹴りを食らってましたよ」
卵拾いというと平和に聞こえるけど、ここの『ニワトリ』は大きくて気が荒い。
サイズは白色レグホンの約三倍、そして白色レグホンよりももっと筋肉質でゴツい体つきをしていて、ご面相は10倍くらい凶悪。気の荒さはたぶん、10倍では収まっていない。
そんな連中が、卵拾いに気が付くと全力疾走してきて、強烈な蹴りを放つ。
立派な蹴爪付の渾身の蹴りなので、布の服を着てると怪我をする。だから革の服を用意しなきゃいけないくらい強烈なんだよね、あれ。
不意打ちを食らうと白牙族でも転ぶし。翔君は日本人の中でも細身のほうだから、二連発なんか食らえばコケて当然です。
「それで顔に傷作ってたんだ。消毒してた?」
日本と違って破傷風は無いんだけど、鶏舎の中で作った傷なら用心が必要だ。
「診療所の世話になるようには言っておきました」
「ありがとう。そういえば、転んだ時に卵はどうなった」
「それがですね、カケルがとっさに籠ごと投げてよこしたんで、無事でしたよ」
よっぽど面白かったのか、デーンは笑いながらそう言った。
「なかなか根性入ってるなあ」
ちなみにここのニワトリの卵は、ちょっと落としたくらいで割れたりしません。籠ごと投げてパスしても壊れなかったのは、受け取ったほうが上手だったんだろうけど。
なお丈夫過ぎて料理するのはちょっとめんどくさいんで、それが欠点です。
「あいつ、あれで食いもの確保には執念燃やしますからね。餌の改良にも興味あるみたいですし」
翔君の場合、飢えた期間は短かった方だけど、それでもやっぱり影響はあるんだろうなあ。
「どの方向での改良?」
「黄身を美味くしたいんだそうで。あと、殻の再利用法を増やせないかって言ってましたね。うちのあたりじゃ貝殻も石灰もないし、もっと使いようがあるんじゃないかって」
「工業利用するには量が足りないんだよなあ」
貴重なカルシウムではあるんだけどねえ。
今は水車で粉砕したものを、家畜の餌に混ぜ込んで使ったりしてます。
「ま、若いうちに色々考えるのは良いことかな。なんか聞かれたら、教えてやって。良さそうな案を出してきたら、こっちに上げてくれればいいし」
「たいてい検討されてる案だと思いますがね。ま、了解しました」
「それはそれで良いよ、考えてみるのが大切なんだし」
本人が考える前に周りが教えるのも、良くないからね。
魔王「二連蹴で済んだんなら、まだ良かった方だと思う」





