日帰りゆるキャン(違)と味の個性。
雪の処理をした後また森の中を移動して、お昼になったので大休止です。
「けっこう疲れました……」
「座る前に汗の始末してねー」
大休止を告げたらさっそく荷物を降ろして座ろうとする翔君に、ストップをかける。
「休憩場所は俺が作っちゃうから、まだ座らないでね」
このまま雪の上に座ると、ズボンの尻が濡れるからね。
休憩場所に使うのは、日当たりが良くて風の来ない場所。だいたいいつも使う場所だから、周りの木には赤く染めた布が縛り付けてある。ちょっと色あせてるけど。
三人で休憩するための場所を作るために、まずスキーを履いたままで雪を固めていく。
俺が作業する間に、オゥウェンは昼食の用意。鉈をふるってちょっと太めの枝を切り、それを自分で固めた雪面に並べて、その上に折り畳み式の焚火台を設置。
枝を並べてるのは、熱が伝わって溶ける雪に沈まないための工夫ですね。多少の断熱効果も期待してるわけですな。
燃料になる枝はここに来るまでに集めてあるので、適当に折って焚火台につっこんで、火魔法で着火。着火剤要らずで便利です。
俺が休憩場所を固め終わる頃には、焚火台にかけたコッヘルでシチューが煮え始めてました。
「すごい便利ですね、これ」
シチューのもとになってるのはペミカン。昔の登山家が使ってた携行食糧ですな。
なにを入れても良いらしいんだけど、今回準備したのは刻んだ根菜とキノコと燻製肉を軽く炒めて脂で固めたもの。塩とカレー粉と小麦粉の入ってない具入りカレールウ、という説明が一番正確かもしれない。
これは火にかけて加熱し、脂が溶けたところで水と塩を加えると簡単なシチューになる。脂が浮くのが嫌なら、粉を何かいれるのお勧めです。日本なら小麦粉いれるところだろうけど、それ以外でも使えるものがいくつかあります。といっても、今回は荷物増えるから持ってきてないんだよね。
主食は主に芋から作ったクラッカー。つなぎに麦を少々使ってるけど、主材料は芋です。
「はい、シェラカップ出して」
味付けはオゥウェンに任せてます。
野外料理するイケメン、なかなか絵になってます。そのうち婚約者と森デートでもするが良い。爆ぜろと言われると思うけど。
座る前にちゃんと毛皮を敷かせて、それから座って食事。
小休止は基本的に立ったままなので、座れる時間をとる大休止はゆったりした気分になれる。温かいシチューとお茶はこういう時は嬉しい。
「お、味付けも良くなったねえ」
ほどほど塩が効いてるシチュー、十分に及第点でした。
実はオゥウェン、見回りのバディとしては人気が無い。昔は個性的な味付けの料理ばかり作ってたせいで、皆に敬遠されたんだよね。
責任者である俺が引き受けて、色々改良させました。
塩は少しずつ入れろとか、料理しながら味見しろとか、思い付きで余計なものを入れるなとか、素人なんだから工夫なんかするなとか、そんなレベルから教えたんですがね。作ってる様子は絵になってるのに、味は壊滅的だったんだよなあ。
「さすがに、皆さんに指導されましたので」
少し気恥ずかしそうにしてるオゥウェンに、翔君が首をかしげて
「え、何かあったんですか」
と質問してますが。
「いや、料理は苦手でね」
こらそこ、胡麻化さない。
「苦手というレベルじゃ無かったよね。研修がてら厨房に行かせたら、厨房から追い出されてたし」
「ははは……二度と来るな、と言われましたね」
笑って明後日のほうを見てるオゥウェンも珍しいです。
「なにやったんです?」
「まあ、いろいろと、ね」
オゥウェンが遠い目になってました。
「俺も聞いてはいるけど、翔君、それ以上の質問は武士の情けでやめてあげてくれるかな?」
「僕インドア派なんで武士じゃないですけど、やめといたほうがよさそうですね」
気遣うようでさりげなく突き落としてるぞ、翔君。
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食べ終わって食器は軽く雪で拭って片づけて、火の始末をして焚火台を片づけたら、戻りのルートに入る。
やる事は往路と変わらない。
先頭に立つのは俺かオゥウェンで、翔君は常に真ん中に配置。オゥウェンはすぐに弓が使えるように箙の矢を半固定状態にしている。
帰る途中、餌を探しているペレーが遠くに見えたが、ペレーのほうから遠ざかって行ってくれたので、オゥウェンの魔法矢の出番は無し。
そして村に帰ったのは、予定よりちょっと遅い時刻でした。
大幅に遅れたわけじゃないので、特に問題はないかな。
「じゃあ、お疲れ様。装備品は役場で回収してもらって、今日は風呂でしっかり温まって」
俺とオゥウェンは書類仕事があるけど、翔君の今日の仕事はこれでおしまい。
「はい、ありがとうございました」
翔君はちょっと疲れてるみたいだけど、いい笑顔です。
ま、明日は筋肉痛確定なんだけどね。
魔王「イケメンにも意外な弱点があるもんです」





