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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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冬のおしごとも色々。

 雪かきと雪捨てをすれば当然できるものとは何か。

 雪の山ですね。

 放っておいても子供や若者が遊ぶので、ある程度溜まったところで安全に遊べるように整備するわけですが。


「だからそこは整備してねえよ!」


 川辺に積んだ雪にずぼっと飛び込んだ若者に向かって、営繕グループ道路整備担当のファリエが怒鳴ってます。


「不用心に飛び込むなっつってんだろ!」


 音が拡散しがちな場所で大声で注意しようと思うと、怒鳴らざるを得ないからねえ。


「頭まで埋まったら死ぬぞ!」

「だいじょーぶー」


 あ、あの若いのはファリエの地雷踏んだな。


「大丈夫じゃなくなってからじゃ遅ぇだろが!」


 通称『整備の(あね)さん』のファリエさん、安全管理にうるさいうえに気が短いです。


「そこらは捨てた固い雪と積もった柔らかい雪が混じってんだ、固い雪の隙間に埋まったら死ぬぞ、バカ」

「ええ~うぁ!」

「そら見ろ、言ったこっちゃねえ!」


 ファリエから逃げようとした若者が、隙間に足を突っ込んで腿まで沈んだ。


 一見すると同じ雪面に見えても、下が新雪の柔らかさのところと、締まったところがあるからね。場合によっては腰くらいまで埋まることもあるし、ここでは見たことないけど頭まで埋まる事もある。

 そしてもちろん、顔が埋まれば窒息して死にます。窒息しなくても、身動き取れないままで夜になれば凍死できるけど。


 ファリエが襟をつかんで引っ張り上げた若者は、そのまま叱られている。教育的指導は任せることにしますかね。


─────────


 雪捨て場の一部を圧雪し、川に落っこちないようにあれこれ作って子供の橇遊び場を作ってあるので、子供らはそっちで遊んでもらうとして。


 大人の一部と若者の希望者は、スキーで見回りです。

 ペアを組んだ見回り要員に、一人ずつ希望者を付ける形になってます。もちろん今回回るのは初心者でも問題ないエリアだけで、ちょっとハードなところには非熟練者は連れて行かない。

 あと、スノーシューの方が良いんじゃないかという気もするんだけどね。滑りたいという希望もあったので、今回は全員がスキーです。


 そして。


「思ったほど滑らないですよね」


 何度目かの新雪ダイブをやった(かける)君がぼやいてました。


「埋まるねえ」


 新雪に埋まったスキーを扱い損ねると、雪の中にダイブする羽目になるからねえ。

 あと、見回りしてる場所が森の中だからね。見回り用の道ももちろん圧雪なんかしてません。道に新たに積もったふわふわの新雪が、初心者のスキーを容赦なく埋めてます。


「慣れるまでは苦労しますね」


 一冬でスキーに慣れたイケメン耳長族、オゥウェンがそんなことを言ってました。


「そろそろ小休止しよう」


 そう声をかけておく。

 初心者がこけても心配ないエリアだから先頭に立ってもらったけど、そろそろ後ろに下げた方が良いし。頑張って数百メートルほど進んだけど、バテる前に替わった方が良い。


「はーい……()っつう」

「汗かいたら冷えちゃうから、一枚脱いで。で、汗はちゃんと拭う」


 冬山で冷え始めたら、低体温症になるからね。

 上着を一枚脱がせて、用意させてあったタオルを出させて汗を拭かせ、汗が引いたところでまた上着を着るように指示する。あとは水分補給して携帯食を一口。


「脂ぎってて食べにくいかなと思ったけど、そうでもないですね」

「動いてる時は、こういうのが美味いと思えるんだよ」


 ドライフルーツとナッツと脂と押し麦で作ったハイカロリーのナッツバーは、脂が溶けない冬にしか作らない携行食。

 見回りだけでなく、ちょっと村から離れる場合には必ず携行するように指導してます。

 天気がいい時は良いんだけど、出かけた後天気が崩れてビバークが必要になっちゃった場合、カロリーの確保が生死を分けることあるからね。


 その他にも対策は取らせていて、各人が荷物を背負ってるのも、いざという時にビバークできるよう、ツェルトを含めて必要そうな物品を持たせてるからだったりする。万が一はぐれた時にも何とかできるように準備すると、どうしてもリュックは必要になるんだよね。


 で、その荷物の他にオゥウェンは短弓、俺は銃を携行。翔君は山用の(なた)と荷物だけの軽装です。


「その銃、重くないんですか?」

「そうでもないよ。弾が要らない分、軽いかな」


 魔法を打ち出す衝撃に耐えなきゃいけないから、それなりに頑丈には作られてるけどね。小銃みたいに消耗品があるわけじゃないので、予備のマガジンも要らないし、重量的にはかなり軽いんじゃないのかな。


「寒いところでも使えるのが便利そうですね」


 オゥウェンが短弓を持ってきた理由は、寒さの中で火薬銃が使えないから。新しもの好きのオゥウェンなんで、普段は新式の雷管式の銃を持ってるんだけど、その最新式の銃も寒いところでは不発が増えたり、撃針が折れたりする事故が多い。

 もちろん、フリントロック式みたいなのも持ってはいるんだけどね。とっさに対応するなら短弓のほうが便利なんだそうな。

 なお、見回り用に準備してある銃はお気に召さない模様。


「使える人が限られちゃうのが欠点だけどね」


 魔力量がそれなりにないと使えないからねえ。


「ま、そのうち改良するからさ」


 俺だけが持ってても仕方ないんで、他の人にも使えるようにする予定はある。これを作ってくれた工房で現在改良中です。


「私も一丁購入したいのですが」

「いずれ制式銃にする予定だから、自費で買わなくても使えるようになるよ」

「嬉しいですね」

「さて、そろそろ動くよ」


 翔君の準備が整ったのを確認して、今度は俺が先頭に立って移動再開。


 幅が広めのスキー板で、後ろの二人が通りやすくなるように跡をつけていく。移動の間は、誰も話さない。

 今回の見回りは森の中の倒木や沢の状態の確認、それから斜面の雪の確認が主な目的。春になったら手入れした方が良い木がないか、沢がせき止められていないか、などを見ていくのがお仕事です。


 そして、雪崩が起きそうな斜面もあったりするわけで。


「どこですか?」

「あの上のほう。クラック入ってるでしょ」


 沢の対岸の、低木が生えてる斜面の雪。いつも雪崩が起きるんだけど、そこがまた雪崩を起こしそうになってました。


「あ、あれ。あそこから崩れるんですか」

「そうなる可能性高いかなー」


 近いうちに雪崩になるね。

 あらかじめ崩して被害を最小化する必要がある場所だから、今日処理していった方が良さそう。


「崩しますか」


 と、短弓に魔法矢を準備しながらオゥウェンが言ったけど。


「風向きからすると射程が厳しそうだし、俺がやるよ」

「お願いします」


 弓矢では厳しいけど、銃ならアイアンサイトでも行ける距離だし。


「じゃ、やりますか」


 銃声はあんまりしないけど、クラックのすぐそばで雪煙があがって、着弾したのが判る。

 それからしばらくして、轟音とともに雪が崩れるのが良く見えた。

魔王(しまだ)「姐さんは怒らせちゃダメだよー」

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