魔王様は穏健派。(Side:渡辺翔)
とある日本人少年の目から見た魔王様とは。
(Side: 渡辺翔)
魔王様の朝の仕事が農作業、というのはものすごく違和感があるんだけど、魔王様こと島田さんは気にする様子もない。
なんか変なの。
そう言ったら、白牙族のデーンさんが苦笑いした。
「あの方は、民を養うことを第一とされるからね」
「魔王様が自分で働く必要、あるんですか?」
「無い、とまでは言わないなあ。あの方のお力があると、作物の実りが良くなる」
生産系魔王ってやっぱり変な気がする。
でも、島田さんなら、今さらかな。
「カケル、ここが終わったら次行くぞ」
「はい」
僕の今の仕事は、島田さんやデーンさんの手伝い。
サラリーマン家庭で育ったインドア系の僕に、一人前の仕事をする筋力や知識は無い。それでも島田さんは嫌がらずに僕を置いてくれる。
そもそも、神殿とかいうカルト教団に誘拐されたあと、兵士に脅されて森に追いやられ必死に逃げてきた僕を、保護してくれたのが島田さんだ。
森に逃げ込んだけど怪我をして動けなくなったとき、僕を拾ってくれたのが耳長族の人たち。その人たちが連れて来てくれたのがここで、食事とお風呂と柔らかい布団での休息を提供された後、翌日にお礼を言ったら、すべて島田さんの指示だったと聞かされた。
僕以外にも何人か、同じように誘拐されて逃げてきた人がいる。
そのまま家に帰った人もいたけど、僕は日本に戻りたくなくて、島田さんに無理を言った。
「装備点検しろよー」
いけない、デーンさんが集合かけてる。
これからやるのは、養鶏場の卵拾い。参加者には革の服と、襟をカバーする布が付いた帽子と、革の手袋が用意されている。
あと、大きいかご。
「よーし、準備良いな?餌のタイミングに合わせて入るぞ」
「了解!」
養鶏場の柵にある扉に手をかけながら、デーンさんはもう一つの扉にいるカーンさんと目で合図。
「3、2、1、いくぞ!」
カーンさんが餌の入った桶を担いで突入した直後、僕らもすばやく養鶏場に入り込んだ。
日本の鶏の3倍くらいありそうな大きさの、凶悪さは10倍くらいになってる顔のニワトリが、カーンさんの持つ餌めがけて突進していく。その流れに巻き込まれないように入り込んで、扉に鍵をかける。
あとは、ニワトリたちが餌の争奪戦をしている間に卵を探して、拾う。
黄色や緑やピンクの卵があるけど、気にせず集めるのが先だ。
日本の卵の倍以上のサイズも、気にしちゃいけない。とにかく拾って、回収する。
「そろそろ終わるぞー!」
ニワトリの濁流にのみこまれてたはずのカーンさんの声が、はっきりそう聞こえた。
「おう!よし、卵拾いやめて撤収だぞ!」
「はい!」
卵拾いに気が付くと、ニワトリが全速力で飛び蹴りをしてくる。
鋭い爪から身を守るために革服や革手袋をしてるけど、それで爪が刺さらなくっても蹴られれば転ぶから、蹴られたくない。
全力で逃げて扉を閉めたところで、ニワトリが扉に飛び蹴りをするドカッというすごい音がした。
「おーう、お疲れさん」
餌係のカーンさんも、無事に外に出てきていた。
「お、今日はけっこう拾えたな。オムレツでも要求してみっか」
「あれ手間がかかるから、どうだろうなあ」
のんびり言うデーンさん。
だし巻き卵が食べたいけど、あれも手間がかかるから、共同食堂の卵料理はたぶんスクランブルエッグだよな……と思ってたら、やっぱりスクランブルエッグになっていた。
━━━━━━━━━━
「本当はここ、小麦より黒麦のほうが育つんだよねえ」
のんびり言ってる魔王様こと島田さんの目の前に、領地の地図が広げられていた。
人口はまだ少ないけど、農地としての面積は結構広いんじゃないだろうか。村は5か所ある。
「黒麦ってなんですか?」
「あっちで何に該当するか知らないけど、実が黒っぽい麦の仲間。詳しい分類とか知らないけどね、食えるよ」
「ちょっと酸っぱいパンがあるだろう、あれの材料だ」
そう説明してくれたのは、デーンさん。
「地球でいうライ麦みたいな種類だよ」
佐奈さんが説明を追加してくれた。
「ここみたいに少し温度の低い高地でも、それなりに収穫できる種類だからね。重宝するんだよ」
と、島田さん。
「美味しいかどうかは微妙だけどね」
「好みが別れますな」
「小麦のほうが好きな住民もいるからねえ」
「しかし小麦は育てにくくていけません。収量も少ないですし」
なんかで読んだ本に『昔のヨーロッパの小麦は収穫量が少なかった』と書いてあったけど、こっちの小麦もそんな感じだ。
育つと僕の肩くらいまでの丈になるから、風ですぐ倒れて、倒れたところからカビる。倒れなかった分を収穫しても、蒔いた種の4倍も収穫できれば大豊作だって。
それ、丈が高くなるために栄養取られてない?
「小麦は基本、贅沢品だよねえ……毎日食べることは前提にしないってことで、小麦は増産なしかな。このへんは、芋の方が良く育つし」
ここで育ててる二種類の芋は、ジャガイモと里芋と呼ばれている。名前はジャガイモと里芋だけど、本当に日本でいうジャガイモや里芋と同じ品種かは分からないらしい。見た目そっくりで味もそっくりだから、気にしなくて良いと思うんだけど。
里芋は標高が低めのところ、ジャガイモは標高が高めのところで栽培されている。
里芋を育てるには、上のほうは寒すぎるからってことらしい。
二種類とも、人間以外の種族の人たちがここに持ってきたそうで、人間の国ではとにかく麦しか作ってないんだそうだ。
ちなみに、今やってる相談は次の収穫期後の植え付けの話で、僕は勉強のために参加させてもらっている。
今の収穫後の植え付け計画は、もう出来上がってるんだって。だから、その植え付けから収穫が得られた後の話をもう考えてるって。
「本来なら、ご臨席を賜るようなものではないのですが」
「農場としては広いけど、まだ俺が把握できる面積でしょ。もっと広かったら、みんなに丸投げしてるけどね」
島田さんがニコニコしながら言ったら、みんなの視線が生温かくなった。
本人が頑として認めようとしないけど、島田さんは魔王様。ここ、農場じゃなくて国。
そろそろ自覚を持ってほしい、と思われてるらしい。
「あ、丸投げで思い出したんだけどさ。各部族の自主農園の収量、あとで数値出してくれる?うまくいく作物があれば、情報共有したいから」
「わかりました、伝えておきます。小作が素直に収穫量を教えるなんて、普通はありえませんよ……」
だいたい収穫隠しするんだってさ。
島田農場(魔王様がこう主張してる)の場合、かなりの割合で正確な数値が出るらしいけど。
「ここってさ、領主が搾取する系の世界なんだよ。正直に申告するとどんどん搾取されちゃうから、みんな申告しないんだ」
仕事中だけど、こうやって島田さんは僕向けの話を挟んでくれる。
「一般には、収穫量の6割が税となります」
これはオゥウェンさん。この人もけっこう偉い人なんだけど、丁寧に教えてくれる。
「ここの作物、収量がものすごく少ないんだけどね。容赦なく持っていくんだってさ」
僕らの歴史でも、そういうところ多いですよね?
「うん、多いけどさ。あれは前から謎だったんだよな。農民が食えなくなったら、一次産業の国なんて終わるんじゃね?」
「生かさず殺さず、上手い具合に搾り取るのが良い領主、とされておるのです」
「うっわブラックだよ」
顔しかめてる魔王様が、この世界では非常に穏健派な件。
人間の王族のほうが魔物じみてるよね。
魔王「うちの農場の鶏、ものすごく元気なんだよねー」
次話は2019/10/11 22時頃に公開の予定です。





