小さなトラブル、いつもの日常。
独身寮の火災発生リスクを抑えるために、下の村では暖房用に高圧蒸気を供給する仕組みを作ってあるわけなんですが。
「ボイラー故障です」
総務部から連絡が入ったのは昼過ぎでした。
複数ある独身寮の建物に、ボイラー建屋からパイプを伸ばしてスチームを供給してるんですけどね。その、ボイラー建屋でトラブル発生でした。
「深夜の故障じゃなくて良かったよ」
まずそこです。昼間のうちだから発見も早かったし、対応も素早くできるからね。
「で、壊れたのどっち?」
運転に定評のある従来型の他に、今は試験中の新型ボイラーが一つありまして。
「メタンのほうです」
現在試験運用中の、メタンガス燃料のほうでした。
今後、下水道を整備して処理施設を作る計画を立ててるんだけど、嫌気漕から出てくるメタンガスの処理をどうしようかと思ってたんだよね。メタンなら燃えるから燃料に使えないかな、というわけで、今は嫌気発酵させた肥料を使って、液肥と燃料の生産をテスト中です。分離やメタンガスの加工は魔法併用してます。
メタンガスと一緒にできてくる液肥は農地へ還元するんだけど、還元できる液肥の量には限りがあるから、今後も色々改良しないといけないのが判ってきてる。ま、何事もそう簡単にはいかないよね。
「被害は?」
「人的被害はありません。ボイラーは内部故障があっただけで、外見上の異常なしです。現在、メインボイラーに切り替え作業してます」
従来型のメインボイラーのほうは、燃料は針葉樹がメイン。ここの針葉樹の一部はかなり油を含んでて燃焼温度が意外に上がるので、内部が傷みやすいのが欠点です。ちなみに建材に使うにはあんまり向かない木だったりする。
「じゃ、暖房は復旧できるね」
「夕方までにはできるかと思います」
「寒い思いをさせなくて済みそうだね」
ボイラー故障で宿舎全部に暖房が入らないとか、俺が入居者だったら絶対に嫌だし。
「はい、間に合わせますので」
うちの営繕はやっぱり有能なようです。
俺は今の時期あんまり仕事が無いので、ボイラー修理の様子を見に行くことにする。
建屋に二つ並んだボイラーの片方は運転をやめていて、今は作業できる温度になるまで冷めるのを待っているところ。もう片方は火が入ったところで、これから燃料を徐々に増やして火力を増していく準備段階に入るところだった。
メタンガス供給栓はきっちり閉まってるのが確認できる。
「まだやっぱり改良が要りますね」
残念そうにそんなことを言ってきたのは、ボイラーを担当してる白牙族のニアだった。
「ガス使ってる時点で画期的だし、仕方ないよ」
普通は固形燃料を使うわけだし。それがいきなりガスを燃料にした新型を作ってるんだから、いろいろ判らない事だってあるよね。
「なんで壊れたのかな」
「内部で爆発音がしました。ただ、具体的にどのあたりかというのは、まだちょっと判らないです」
「それは冷めてから調査してくれればいいよ。とりあえず、人的被害が出てないなら良いから」
人員ばっかりは替えが無いからねえ。物はまあ、壊れても何とかなるわけですが。
「ありがとうございます。うまく行くと思ってたんですけど」
「まだ試験中だし、止まることもあると思おうよ」
試作品だから、仕方ないよね。
魔王「おおむね平和です」





