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異世界でスローライフを目指してたら魔王にされてた件。  作者: 中崎実


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冬は体重増加の季節。

 日本ではそろそろ仕事始めという頃ですが、ようやく小中学生二人が帰国しました。


 学校の問題とか色々あるんだろうけど、二人に関しては早期の帰国が優先された格好です。特に結衣ちゃんは親御さんのもとに早めに帰した方が良い、とはターク先生の判断で、俺も反対する理由はなかったし。


 そして残りはと言いますと。


「まぁだ働けるような体調じゃないだろ」


 あっさり言われてる小島が一人。


「えっ、大丈夫っすよ」

「しばらくごろごろしてんのがあんたの仕事だよ」


 これは厨房のフヴァルさん。

 はい、このとおり見学に行く先々で体調の心配されてました。


「もうちょっと肉付けてから働けや、あんちゃんよ」


 これは養鶏係のデーンの言。


「大丈夫ですよ」

「今は仕事も少ないから、無理して働かす必要無いんだよ。飯食って適当に過ごして養生すんのが先だ」


 まあ、冬は農場も仕事が少ないからねえ。


「俺、そんなに頼りないですか」


 なんかしょげてるけど。


 これで意外に真面目……というわけではないな。自分の身をすり減らすようにして居場所を作ってきたせいで、働いてないと不安なんだろう。

 自分の居場所は自分が努力し続けないと手に入らない、と学習しちゃってるから、何もしてないのにここにいて良いと言われるのが落ち着かないんだろうね。無理しなくてもここにいて良いんだと、納得するのが難しいようで。


「まだ農場の仕事させるには早いわな」


 本人希望があったんで、各部署の見学には行かせたけどねえ。

 頬はこけてるし、手も筋張ってる、極限まで痩せ衰えた奴を見れば、良いもの食って養生しろと思うのも無理はないです。


 ましてここのスタッフは、人間の国に追われた経験のあるひと達だ。自分たちも苦労したから、しばらく骨休めしろと言いたくもなるんだろう。


「たしかに、経験ないけどよ……」

「未経験は別に構わないんだよ、今問題になってるのは栄養状態だ」

「え、でも、働くのに問題あるわけじゃ」

「食うもの食って体重増やしてから働いてくれ、ってこと」

「……タダ飯食いって、なんかやなんだよな」

「慣れてくれ」


 理屈で説明しても多分、腹に落ちないだろう。

 有無を言わさず『慣れろ』で押し切るくらいじゃないと、たぶん今まで通りに身を削る生活をしかねない……というのはターク先生と俺の一致した意見です。


「それに、春までに体調を戻さなきゃいけないんだからな?軽い運動から始めるけど、トレーニングも混ぜてくぞ」

「え、なにそれ」

「生きてくのには筋肉も必要だからね?」


 というわけで、給料までは出ないとはいえ、今の小島がやるべきなのは支給される食事をとって適度に体を動かす事です。

 あと、本人の強い希望もあってここの言葉の読み書きも教えていく。

 どの仕事に適性があるかは不明だけど、冬のうちに何か本人が思いつけばそれで良し。スタッフ側からの勧誘も認めてるから、誰かから誘いがかかる可能性も大。


「筋肉かあ……」

「食って動かないと付かないからね。春には人並みになってないと困るよ?」

「俺、もともとそんな筋肉ねえし」

「ニワトリに蹴倒されずに卵とって来られる程度の筋肉で良いから」

「あの怪物鶏から逃げんの!?」


 ばかでっかいからねえ、ここのニワトリ。襲われながら餌やりをする養鶏班は、毎日頑張ってます。ついでに(かける)君も、卵回収の良い戦力になってます。


「体調がよくなったら、手伝いしてもらうぞー」

「まじかー」


 まあ頑張れ?


──────────


 見学に行く先々で体調を心配され、もう少し太れ栄養を付けろとさんざん言われまくったので、小島もようやく諦めがついたようで。

 働き口を探すのはいったんやめて、子供用教材を借りて書き取り練習を始めました。

 まだまだ色々、知らないことも多いわけですが。


「新年最初の新月の祝い?」


 様子を聞きに呼んだついでに直近のイベントのことを話すと、首をかしげてました。


「大月の祝いって言うんだよ」

「ちっさい月は祝わないんだ」


 ここの空には月が三つある。一つは地球の月よりちょっと小さいもの、二つはかなり小さい光の点にしか見えないものだ。満ち欠けがはっきり判るのは一番大きい月だけ。たいていの場合、点にしか見えない二つは無視されている。

 大月の祝いは、主に有隣族が祝う。新年に飾ったものを焚き上げる、どんど焼きみたいな行事です。


「小月は、月といっても小さいからなあ。あんまり祝おうって気にならないんだろ」

「そんなもんなんか」

「小月だけ出てる夜は、たいして明るくないってのも影響してるだろうけどね」


 有っても無くても生活に影響しない月なんだよね。特に有難みもないから、たいして注目もされてないらしい。


「これまで有隣族とは交流無かったんだ、見に行くと良いよ」

「あ、うん。そっか、知っといた方が、いいもんな」


 というわけで、俺も招かれてるついでに小島も連れて行くことにしました。

 まあ大月の祝いは割と気楽なもんで、俺も大した事しないけど。

 大月の祝いの日、有隣族は朝のうちから飾りを取り外し、掃除をして、外した飾りを焚き上げるための山に積む。この作業は小島も手伝ってました。

 で、夕方になったら俺が呼ばれて挨拶して、山に着火。

 伝統的に大月の祝いはしない他種族も、参加は可能。他種族も新年の飾りを持ってきて山にくべ、ふるまいの酒と肴をもらう。

 この火を見ながら宴会をするのが、有隣族の正月の〆なんだそうで。ますますどんど焼きっぽいです。


「明日からは工場も本格稼働だよ。気が向いたら見においで」


 織物工場のダーヴが、小島にそんなことを言ってました。


魔王(しまだ)「食って太れ」

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